粉博士のやさしい粉講座
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実践コース:測り方疑問解決編
レーザ回折式粒度分布測定装置
12 Fraunhofer回折理論とMie散乱理論
粉博士イラスト レーザ回折・散乱法においては、光強度分布パターンから粒子径を特定します。このためには、粒子径と光強度分布パターンの間の対応関係があらかじめわかっていなければなりません。この対応関係を求めるために、Fraunhofer(フラウンホーファ)回折理論およびMie(ミー)散乱理論が用いられます。すなわち、様々な大きさの粒子がどのような光強度分布パターンを発生するのかという計算には、これらの理論が用いられ、膨大な量のパラメータテーブル(数表)としてあらかじめコンピュータに記憶されています。
 
このパラメータテーブルの計算には、かなりの時間を必要とします。しかし、実際の粒度分布測定においては、既に計算され記憶されているパラメータテーブルがあるので、パラメータテーブルの計算にいくら時間がかかったとしても、測定時間には何ら影響を与えることはありません。
 
さて、つぎにFraunhofer回折理論とMie散乱理論の関係をみてみましょう。
 
一口で言えば、Fraunhofer回折理論はMie散乱理論の近似式のひとつです。この近似式が利用できるのは、

● 粒子径が比較的大きな場合(少なくとも、レーザの波長の10倍以上)
● 散乱角度が小さい場合(少なくとも30度以下)

の2つの条件が満たされている場合に限られます。
  図.Fraunhofer回折理論とMie散乱理論 粉博士イラスト
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この条件が満たされている範囲においては、Fraunhofer回折理論はMie散乱理論のかなり有効な近似式であるといえます。しかしながら、粒子径がレーザの波長の10倍よりも小さい場合、特にサブミクロン領域の測定においては、広い角度の光強度分布パターンが必要となるため、Fraunhofer回折理論を用いることはできなくなります。この場合は、必ずMie散乱理論を用いなければなりません。
 
Mie散乱理論は、Fraunhofer回折理論に比べて非常に複雑で難解です。したがって、プログラミングも複雑であり、その計算を行うためにはかなり高速なコンピュータを必要とします。過去において、Fraunhofer回折理論のみが用いられていたのはこのためです。このようなFraunhofer回折理論のみを用いる機種では、サブミクロン領域の測定は不可能です。
 
一方、粒子径が非常に大きな場合においては、Mie散乱理論をそのまま適用して光強度分布パターンを計算すると、計算誤差が蓄積し、計算結果が不正確になるという現象が生じる場合があります。この場合に限っては、Fraunhofer回折理論という近似式を採用した方が光強度分布パターンの正確な計算結果が得られます。
 
したがって、現在のように広い測定範囲をカバーするためには、光強度分布パターンの計算のためにFraunhofer回折理論とMie散乱理論が併用されているわけです。
 
しかし、Fraunhofer回折理論はあくまでも粒子径が非常に大きく、散乱角度が小さい場合においてのみMie散乱理論の単なる近似式として用いられているわけです。この意味において「併用」という表現は誤解を招く恐れがあり、不適切かもしれません。単純に、全ての粒子径においてMie散乱理論に基づいて光強度分布パターンを計算している、と言った方が適切かもしれません。
 
なお、Mie散乱理論を用いて光強度分布パターンを計算するためには、粒子と媒体(媒液)の屈折率を設定する必要があります。つまり、粒子径が同じであっても、レーザの波長の10倍よりも小さくなると、屈折率によって光強度分布パターンが微妙に異なることになります。したがって、実際の装置では、屈折率の設定が異なる多数のパラメータテーブルを記憶して使用しています。測定の際に測定条件として屈折率を選択しているのは、この屈折率の設定によって異なるパラメータテーブルを選択しているわけです。
 
SALDシリーズの場合、粒子の屈折率を選択するようになっていますが、湿式測定の場合と乾式測定の場合では、まったく別のパラメータテーブルを選択するようになっています。湿式測定の場合は、水の屈折率を設定してパラメータテーブルを計算しています。また、乾式測定の場合には、空気の屈折率を設定してパラメータテーブルを計算しています 。
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