粉博士のやさしい粉講座
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初級コース:粉の世界へようこそ
 
2 医薬品と粉体測定
 
薬の効きめ・安全性と粒度分布
  医薬品の分野においては、粒度分布は「効きめ」や「安全性」に直接的に影響し、場合によっては生命に関わる重大な問題となることがあります。
 
体液中で、溶解しにくい医薬品の場合、微粉化することによって、体液との接触面積を増加させ、体液中への溶解速度を増加させることができます。しかし、溶解速度が大きすぎると、必要以上に濃度が高くなり、副作用を起こすことになってしまうこともあります。
 
このような場合、よく効き、しかも副作用の少ない医薬品を製造するためには、粒度分布のコントロールが必要になるわけです。
 
医薬品の均質性を確保するためにも、粒度分布は重要です。一般に、錠剤やカプセル剤では、複数の医薬品を混合して製造されています。ここで、混合比にばらつきがあれば、個々の錠剤、カプセルによって、「効きめ」が異なり、医薬品としての均質性さらに安定性・安全性を損なうことになってしまいます。
 
この均質性を確保し、製品としての安定性および品質を向上するためには、製造工程における原材料の流動性および混合過程の安定性等を改善しなければなりません。ここでも、粒度分布が大きく影響することになります。
 
これとは別に、粒子の性質を積極的に利用しようという試みがあります。
 
宮崎医科大学第一外科と宮崎県工業試験場は共同で、「膜乳化法」という新たな技術で生成したエマルジョンの肝臓ガン治療への応用を研究されており、現在、臨床実験が進められている段階です。
 
抗ガン剤を溶かした水の粒子を、ガン細胞に親和性の高い油の粒子でくるんで、肝動脈に投与し、抗ガン剤を、ガン細胞のみに、限定的に、高い濃度で安定して作用させようというものです。これは、外科手術に匹敵するような画期的な効果が期待されるとともに、副作用がほとんど生じないという優れた特徴を有しているそうです。
 
また、他の研究機関では、エマルジョンを用いて、臓器移植後の患者に免疫抑制剤を投与するための基礎研究が行われています。
 
いずれの場合においても、エマルジョンの粒度分布はその効果及び副作用を決定づける重要な要因の一つです。
 
医薬品と比表面積/細孔分布
胃腸薬には、珪酸アルミニウム(酸性白土)などの粘土が使用されています。これらは多孔体で表面積も大きく、胃腸内の有毒なバクテリアや異常物質を吸収したり、余分な水分を吸収して下痢を止めたり、胃腸の粘膜を保護する働きがあります。
 
医薬品の評価方法のひとつに溶出試験(溶出時間および溶出率)があります。比表面積が大きいということは、固体とその周囲媒液の接触面積が大きいことを意味しますので、比表面積の大小と溶出試験とは直接相関があるといわれています。
 
錠剤の場合、その強度と気孔率(細孔体積と試料のかさの比率)は、その物理的性質と密接な関係があります。
 
乳糖は水溶性であり、生体に対する反応性が小さいため医薬品の賦形剤として使用されます。そして、賦形剤であっても有効成分と同様の溶解性が求められることは言うまでもありません。この溶解性を左右する大きなファクターが比表面積です。
 
PDF 医薬品の比表面積測定例
PDF 乳糖の比表面積測定例
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