リチウムイオン電池製造におけるドライプロセスとは
― CO₂削減・品質安定化のための分析・評価アプローチ ―

リチウムイオン電池の電極製造におけるCO₂排出課題とドライプロセス
リチウムイオン電池の従来の電極製造(ウェットプロセス)では溶媒が使用されており、その乾燥工程に伴うエネルギー消費やCO₂排出が課題となっています。
この課題を解決するため、溶媒を使用しない、あるいは使用量を大幅に削減することで、乾燥工程の省略、エネルギー消費の低減、CO₂排出量の削減を実現する溶媒フリーの電極製造技術として、ドライプロセスが注目されています。
一方、ドライプロセスでは、粉体の混合・分散状態、バインダーによる結着状態、導電助剤の分布、電極と集電箔との接触状態などが電極品質に大きく影響します。そのため、プロセス最適化と品質安定化のためには、これらの状態を適切に可視化・分析・評価することが重要です。
ドライプロセスとは
ドライプロセス(Dry process / Dry electrode manufacturing)とは、電極スラリー調製時に溶媒を使用せず、活物質・導電助剤・バインダーを乾式で混合・成形する電極製造手法です。
リチウムイオン電池(Lithium-ion Battery, LiB)の製造工程では、電極製造時に使用される溶媒の乾燥工程が、エネルギー消費およびCO₂排出の大きな要因となっています。
特にNMP(N-メチル-2-ピロリドン)を用いた従来のウェットプロセスでは、大規模な乾燥炉や溶媒回収設備が必要となり、製造コスト・環境負荷の両面で課題が指摘されています。
こうした背景から、溶媒を使用しないドライプロセスが、次世代電池製造技術として注目されています。
ウェットプロセスとの比較
ドライプロセスとウェットプロセスを比較した場合、工程構成は大きく異なり、特に「乾燥工程」が不要となる点が大きな特徴です。

ウェットプロセスでは、混練後に集電体へ塗工し、溶媒を蒸発させる乾燥工程が必須となります。一方、ドライプロセスでは、粉体状態での混練・成形・圧延を通じて電極を形成するため、工程の簡略化とエネルギー削減が可能となります。 ただし、溶媒が存在しないことにより、材料分散や界面形成のメカニズムはウェットプロセスとは大きく異なります。
| 項目 | ウェットプロセス | ドライプロセス |
|---|---|---|
| 溶媒 | 必要(NMP、水) | 不要 |
| 乾燥工程 | 必要 | 不要 |
| エネルギー消費 | 多い | 少ない |
| 膜厚均一性 | 良好 | 課題あり |
| 分散性 | 高い | 課題あり |
ドライプロセス技術の特徴と課題
ドライプロセスは、環境負荷の低減や工程短縮といった利点を持つ一方で、ウェットプロセスとは異なる技術課題が存在します。特に、溶媒を介した粒子分散やバインダーの溶解が行われないため、粉体の混合状態そのものが電極品質を左右する点が特徴です。
ここでは、ドライプロセスにおける製造工程および中間材料の主な品質管理指標を示します。これらの指標を適切な分析手法によって可視化し、品質を定量的に評価することで、プロセス条件の最適化と電極品質の安定化を実現することが重要です。
品質・プロセスの管理指標
| 材料 | 特徴 |
|---|---|
| PTFE | ドライプロセスでは、化学的安定性に優れたバインダーとしてPTFEが広く用いられています。PTFEは混練時のせん断力や圧縮力によって繊維化(フィブリル化)し、三次元ネットワークを形成することで、電極の機械強度の発現や粒子間の結着に寄与します。また従来のバインダーであるPVDFも強度向上などの目的でPTFEと複合的に利用されることがあります。 |
| CNT、CNF | ドライプロセスでは、溶媒による分散工程を伴わないため、導電助剤の種類や添加量によって電極の導電性や内部抵抗が大きく変化します。導電助剤としては、従来のカーボンブラックなどの炭素材料に加え、少量添加で高い導電性付与効果が期待できるカーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバー(CNF)が用いられる場合があります。 一方で、これらのナノカーボン材料は凝集しやすく、その分散状態が導電ネットワークの形成や電極抵抗に大きく影響します。 |
| 表面改質・被覆材料 | ドライプロセスでは、活物質、バインダー、導電助剤と集電箔との直接的な接触によって電極が形成されるため、これらの界面状態が電極性能や密着性に大きく影響します。そのため、活物質や集電箔に表面改質や被覆処理を施し、界面特性を向上させる取り組みが進められています。 |
ドライ電極の分析・評価事例
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SALD-2300 サイクロン噴射型乾式測定ユニットSALD-DS5による乾式測定
| 工程 | 評価テーマ | 評価手法 | 分かること |
|---|---|---|---|
| 混練 | 粉体分散状態評価 | 粒度分布計 粒子画像解析 SEM |
凝集有無・分散傾向 |
| PTFEフィブリル化状態評価 | SEM SPM/AFM |
フィブリル形成の有無 フィブリルの繊維径や長さ、分散状態 |
|
| 粒子強度・崩壊性・圧縮性の評価 | 粒子圧縮試験 かさ密度評価 |
1次/2次粒子の強度 凝集塊の崩壊性 混合粉の圧縮性 |
|
| 圧延 | 空隙構造の均一性評価 | SEM レーザ顕微鏡 |
圧延条件差 |
| 表面状態評価 | SEM SPM/AFM レーザ顕微鏡 |
表面処理品質 表面粗さ 表面粘性・弾性 |
|
| 成形 | 導電ネットワーク評価 | SEM SPM/AFM |
局所的な高抵抗領域の有無 混練・圧延条件差による分散傾向比較 |
| 電極-集電箔の接触評価 | 剥離(ピール)試験 熱分析 |
電極-集電箔間の接合安定性 圧延条件・表面処理差の影響 |
よくある質問
リチウムイオン電池のドライプロセスとは何ですか?
リチウムイオン電池の電極製造において、溶媒を使用しない、または使用量を大幅に抑えて活物質・導電助剤・バインダーを混合、成形する製造方法です。 乾燥工程の省略やエネルギー消費の低減が期待されます。
ウェットプロセスとドライプロセスの主な違いは何ですか?
ウェットプロセスでは溶媒を用いてスラリーを調製し、塗工後に乾燥工程が必要です。 一方、ドライプロセスでは粉体状態で混練・成形・圧延を行うため、乾燥工程の削減が期待できます。
ドライ電極で重要な評価項目は何ですか?
粉体の分散状態、PTFEのフィブリル化状態、導電助剤の分布、空隙構造、表面状態、電極と集電箔の接触状態などが重要な評価項目です。
