モデル毛髪試料中の薬物イメージング
イメージング質量分析法は様々な分野で、ますます盛んに活用されています。毛髪は成長する際に、その時に摂取した薬物を極微量ずつ取り込んでいくため、薬物の使用歴を記録した「磁気テープ」的な試料として注目を浴びています。実際、毛髪から抽出した薬物の分析がLCMSなどを用いて行われていますが、抽出操作によって毛髪中における分布情報が損なわれる点が問題となっていました。毛髪の長さ方向の断面のイメージング質量分析が可能となれば、その成長に沿った薬物の分布状況、すなわち使用履歴の可視化が実現し、法医学、臨床医学、投薬管理及び科学捜査等の分野での活用が大いに期待されます。

メタンフェタミン(左)とメトキシフェナミン(MOP)(右)
の構造式
モデル化合物(分析対象)として、覚せい剤(メタンフェタミン)に構造の類似する、市販の咳止め薬の成分であるメトキシフェナミン(MOP)を選定しました(Fig.1)。
薬物を摂取していない人の毛髪をMOP水溶液(複数濃度に調製)に浸漬して物理的に吸収させることにより、高濃度(A)、低濃度(B)のモデル毛髪試料、及びMOP を含まない水で処理した陰性コントロール試料を作成し、分析に供しました。
モデル毛髪をiMScope TRIOを用いて測定しました。
その結果、今回作成した添加毛髪では、キューティクルから皮質にかけて薬剤が局在しており、中心部の髄にはほとんど分布しないことが判明しました。

FIg.2 レーザー径10 μm での毛髪試料Aおよび試料Bの薬剤イメージング
そこで、この試料に対して「二段階法」として蒸着後に更にスプレーを追加する方法でマトリックスを塗布し、イメージング測定を行いました。その結果、検出シグナルの強度(BG のピークで補正後の値)は約3~6 倍向上し、薬物の局在状況をより明瞭に画像化することができました。

Fig.3 2段階法(蒸着+スプレー)によるレーザー径10 μmでの毛髪試料Aおよび試料Bの薬剤イメージング
関連アプリケーション
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イメージング質量顕微鏡iMScope TRIO
- レーザーを5μm以下に集光できるため、微小な領域の質量分析や高解像度質量分析イメージを得ることができます。また、高性能試料位置決め機構により、光学顕微鏡像で観察した同じ位置を正確に質量分析することが可能です。
- 大気圧イオン化法を採用しているため、試料を真空下におく必要がありません。Wetなサンプルや揮発性の高いサンプルの分析が可能になります。
- 高分解能/高精度なMSn機能が詳細、正確な構造推定を強力に支援します。
- 対物レンズ40倍の高性能生物顕微鏡を搭載し、高い解像度で試料観察ができます。