酒粕の水分率測定
酒粕の水分率測定
食品の水分率を測定する方法として,公定試験法が決められているものがあり,そのほとんどは乾燥減量法です。乾燥減量法の原理は,まず水分を含んだ試料の重さを計測し,その後試料を所定の温度にコントロールされた恒温槽に入れて水分を蒸発させ,水分が無くなったところで試料の重さを計測することによって軽くなった重さを水分と仮定し,水分率を測定します。公定試験法では乾燥温度を100℃前後として恒温槽内に3~5時間放置させて乾燥させます。そのため一つの試料の水分率を測定する時間が数時間を要し短時間に水分率を求めることが困難でした。
公定試験法に近い方法を用いて試料の水分率を求める装置として水分計が市販されています。これは質量計(電子天びん)に乾燥室を備えた構造をしており,試料が乾燥して刻々と減量していく試料質量から水分率をモニターできる機能を有しています。
今回,食品の水分率を島津水分計MOC63uで測定した例をご紹介します。
■酒粕の水分率測定
Moisture content measurement of sake lees
●公定試験法を用いた酒粕の水分率測定

Fig.1 酒粕を恒温槽から出した状態
Sake lees to pick up from oven
食品の水分率の公定試験法として厚生労働省監修の食品衛生検査指針理化学編があります。この資料には穀類,砂糖類,菓子類など多くの種類によってそれぞれ水分率の定量方法が述べられています。今回の酒粕では,(マスタード類)の条件を用いて測定しました。
【乾燥条件】
乾燥温度: 105℃
乾燥停止条件: 3時間
試料量: 3g
【結果】
水分率: 55.8%
乾燥時間: 3時間
●水分計を用いた酒粕の水分率測定

Fig.2 MOC63uに酒粕を塗ったアルミ箔を載せた状態(アルミ箔がまるまらないようネジで抑えている)
Sake lees to set on MOC63u(use screws in order to not make round Al sheet)
(1)TIMEモード
水分計では試料の状態や乾燥時間短縮などのため乾燥条件をいろいろ変更することができます。MOC63uでは乾燥温度を50℃~200℃まで1℃毎に設定できるほか,乾燥を停止するモードを4種類から選択することができます。ここでは乾燥を開始してから一定時間経過後乾燥を停止する「TIMEモード」で測定しました。
【乾燥条件】
乾燥温度: 105℃
乾燥停止条件: 1時間
試料量: 5g
【結果】
水分率: 50.1%
乾燥時間: 1時間

Fig.3 RAPIDモードで酒粕の水分率を測定した乾燥曲線(縦軸:水分率 横軸:時間)
Moisture Graph of sake lees(Spindle:Moisture Axis:Time)
(2)RAPIDモード
TIMEモードでは15分で公定試験法に近い水分率が得られましたが,もっと短時間で測定したいときは「RAPIDモード」という方法があります。これは乾燥開始直後は200℃で試料を加熱して急速に水分を蒸発させ,その後所定の乾燥温度に下げて水分をゆっくり蒸発させて水分率を求める方法です。そのため最初のステップで200℃で乾燥させるときの停止条件を設定し,次のステップで乾燥温度と停止条件を設定しますので,条件は2段階設定します。
【乾燥条件】
(1)第1ステップ
乾燥温度: 200℃ (設定不要)
乾燥停止条件: 1.5%
(30秒間の減量率が1.5%以下になれば次のステップに移行する)
(2)第2ステップ
乾燥温度: 105℃
乾燥停止条件: 0.01%
試料量: 5g
【結果】
水分率: 57.4%
乾燥時間: 21分30秒
●各種方法で酒粕の水分率を求めた結果のまとめ
公定試験法,TIMEモード,RAPIDモードの水分率と測定時間をまとめますと以下のようになります。
測定方法 | 水分率 | 測定時間 |
公定試験法 | 55.8% | 3時間 |
TIMEモード | 50.1% | 1時間 |
RAPIDモード | 57.4% | 21分30秒 |
●考察
- 公定試験法では恒温槽内で乾燥させる時間が3時間と長いので水分率の結果を得るには3時間以上を要します。
- 水分計を使用して乾燥温度を公定試験法と同じ105℃で測定しましたが,「TIMEモード」は公定試験法より若干小さい値が得られました。
- 「TIMEモード」の1時間分では公定試験法の水分率に達しませんので乾燥温度を高く設定するか乾燥時間をもう少し長く設定すれば,公定試験法により近い水分率を得ることができます。
- 時間短縮のため「RAPIDモード」で測定しますと21分30秒で公定試験法に近い値が得られました。これは第1ステップの200℃の加熱で一気に蒸発させるため効率よく蒸発が促進されるためです。
- 公定法では普通水の蒸発温度に近い100℃付近で乾燥させますので,3時間以上乾燥させるケースがほとんどです。そのためどうしても長時間を要します。しかし水分計の測定では,乾燥条件をいろいろ変更できますので,測定者の目的に応じた条件を選択することができます。
- 今回ご紹介した酒粕は市販品の袋詰めされたものです。酒粕は水分の多少により硬さが異なります。そのためアルミ箔に薄く延ばせない場合もあり,厚みが変ることより蒸発する程度が異なって水分率のばらつきが大きくなることがあります。
2013年6月掲載
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