自動車のマルチマテリアル化と異材接合技術

Q : 接合に接着剤は使いませんか。

A : 接着剤単体では,接着剤が硬化するまで次工程に搬送できず,車体ラインでの生産に支障が出ます。また,接着強度は幅と厚さによって変わりますし,市場で吸湿劣化しますので強度や耐久性の保証が難しいです。

Q : 異材接合の方法として機械的締結と摩擦攪拌点接合の紹介いただきましたが,接着剤を用いた異材接合は自動車で使用されていないでしょうか。

A :抵抗スポット溶接と接着剤の併用(ウエルドボンド)など,実際にはかなり接着剤は使われています。フランジ部分に接着剤を面で塗って,そこに抵抗スポット溶接を40mm幅程度で行うと,点接合が一種の連続接合になって車体の剛性があがります。ただし,この方法では剛性は保証しているが,強度は保証していない点に注意が必要です。

Q : 異種接合を適用する樹脂(CFRP)はどのような樹脂が多いのでしょうか。PPSなどの高融点の樹脂でしょうか。

A : PPSなどの高融点の樹脂に対しても適用できます。
CFRP部材を170~180℃の塗装ラインに流したいので,高融点の樹脂でも技術開発しています。

Q : 自動車車体に使用されるCFRPは,熱可塑性,熱硬化性どちらのプラスチックが主流と考えればよろしいでしょうか。

A : NEDOの研究は,リサイクル性と成形時間の短さに注目して,熱可塑性CFRPを主流としています。一方,熱硬化性CFRPは高価ですが,熱可塑性CFRPよりも高強度高剛性であるため,車体ルーフなどでの活用が考えられます。

Q : 摩擦攪拌接合は,日本の発明ですか。特にマツダ株式会社の独自な技術があるのですか。

A : 摩擦攪拌接合はイギリスのTWIが発明した技術ですが,摩擦攪拌点接合は日本のマツダ株式会社が発明・特許取得し,2002年から実用化されています。

Q : 構造用接着剤を用いた接合も適用検討が進んでいると思いますが,国内では構造用接着剤の適用例は今後増えず,機械接合が引き続き主流になるのでしょうか。

A : 構造用接着剤は抵抗スポット溶接と併用する形でかなり使われており,今後も増えると思われます。機械的接合も,ヨーロッパにおいては接着剤と併用されています。接着剤は点接合を連続接合に変えて剛性を上げるという目的では自動車でも広く使われています。

Q : ガルバニック腐食の対策として接着剤を用いることがあるかと思いますが,リベットなどではどのような対策が可能でしょうか。また接着剤のデメリットがありますか。

A : ガルバニック腐食を止める方法の1つとして,非導電性の接着剤を接合物の間に入れるという方法はあります。ただし,どうしても金属同士や金属と樹脂がくっついてしまうため,非導電性の接着剤でガルバニック腐食しないことを担保するのは難しいですが,合わせ面に塩水を入れない点では有効です。腐食を確実に止めるには接着剤の上にシーラーを塗布して水を断つ必要があり,ヨーロッパの自動車では実際に相当量のシーラーが使用されています。

Q : アルミとCFRPの接続で実用強度になっていましたが,その際の電食への対応はどのようになっていますでしょうか。

A : ガルバニック腐食や隙間腐食への対応ですが,接合部に塩水等が侵入しないようにシーラーで確実に防水する必要があります。

Q : アルミ/鋼板,FRP/鋼板,FRP/アルミなど,摩擦攪拌接合した部品のリサイクルについてはどの様に考えていくのが良いのでしょうか。

A : アルミと鋼板が混ざっていたら,先に価格の高いアルミが回収される可能性が高いです。CFRPと金属の組み合わせであれば,シュレッダーで切り刻んだ上で重量分別します。シュレッダーダストは最終的には燃やして熱として回収(サーマルリサイクル)されます。

Q : 摩擦攪拌点接合で上板(圧延板)と下板(ダイカスト)を逆にして接合することは可能でしょうか。

A : 逆にして接合することは可能です。ただし,どちらから接合するかによって強度が変わります。厚板から接合した方が静的な引張せん断荷重が大きくなることが分かっています。

Q : CFRPとAlの接合について,Alはシランカップリング材で処理するとのことでしたが,CFRP側(PP母材)は未処理でも接合強度を得ることはできるのでしょうか。
PPとの化学的な相互作用を用いた接合は表面官能基が不足しているため,難しいように感じます。

A : ポリアミドなどの官能基を有する樹脂を基材とするCFRPはアルコール等で脱脂するだけで十分な接合強度が得られます。一方,純粋なPPは官能基がないため接合しませんが,カルボキシル基などを添加すれば容易に接合できます。

Q : FSJの疲労強度に関する研究はされていますか。

A : FSSW(FSJ)の疲労強度はデータを取得しており,アルミの抵抗スポット溶接と同等レベルの疲労強度が得られることを確認しています。

Q : 樹脂の官能基(アミド,カルボン酸が例として記載されていたと思います)が接着に寄与するというお話がありましたが,その際に有効となる必要官能基量はどの程度のレベルになるのでしょうか。ポリアミドのアミドのように,主鎖中に高頻度で含まれる構造によって効果を出しているのでしょうか。

A : かなり少量でも効果を発揮します。ポリアミドは確実につき,PPにカルボキシル基を添加して強度を見たデータがありますが,僅かな添加量でも明らかな効果が確認されています。

Q : 陽極酸化やエッチング処理等によって引張せん断荷重が大幅に向上する中で,微視的構造の構造最適化(トポロジー最適化や形状最適化)を用いた接合技術の開発は行われているのでしょうか。

A : 表面処理で得られる微視的構造を前提にしており,その形状の最適化までは検討していません。なお,対象が全く違いますが,トポロジー最適化はマルチマテリアル車体の設計技術として検討されています。

Q : 抵抗スポット溶接に代わる異材接合技術として,実用化が考えられるものは摩擦攪拌点接合,抵抗スポット溶接+樹脂の他,レーザー接合も考えられますか。

A : レーザー接合は可能性がありますが,連続接合でなく点接合が良いと思います。例えば,上板が金属,下板がCFRPであればレーザーで金属側を加熱することで接合が可能です。ただし,レーザーは高価でり,拘束治具等も必要になります。接合技術も適材適所です。

Q : 摩擦攪拌接合では,裏当てが出来ない部位の接合は難しいと思います。その部位はどう考えているのでしょうか。ファスナーでしょうか。裏当て無しの摩擦攪拌接合を開発しているのでしょうか。

A : 例えば,中空にあるアルミの押出材に板を接合しようとする場合,裏当てができません。挿入速度をなるべく落とし,ツールの径を小さくして面圧を下げることで,下板が変形しないレベルで接合可能と思われます。ただし,時間がかかったり,接合強度が若干落ちたりする可能性があるため,試行してみる必要があります。

Q : FSSWは入熱温度管理は必要でしょうか。

A : 何を接合するかによって変わります。アルミ同士の接合であれば,ツールの挿入量を管理すれば十分な強度が得られます。一方で,アルミとCFRPであれば入熱温度によって接合強度が変わるため,管理が必要になります。ツールのトルク,回転数,挿入速度・時間などをモニターすれば,入熱量を管理してOK/NGの判断ができると思われます。

Q : 接着剤は溶接との併用で使用されるとのことですが,併用する際に接着剤に特に求める性能はどのようなものがあるでしょうか。

A : 耐久性は勿論ですが,様々な性能が求められます。例えば抵抗スポット溶接との併用であれば導電性が必要です。また,接着剤そのものが鉄板やアルミに容易に塗布できることも重要です。さらに,自動車製造過程のCO2削減という観点から乾燥炉の温度が下がっているので,低温で硬化する接着剤も開発されています。

Q : 摩擦攪拌点接合で回転ツールの突起部がない状態で,回転の摩擦熱と圧力のみで異材接合をトライされたことはありますでしょうか。

A : 基本的に可能ですが,ツールの芯ブレでエネルギーがロスして接合性は悪くなります。

Q : 樹脂の官能基の付与は大気圧プラズマでされるのでしょうか。

A : プラズマによる改質も可能です。その他にも官能基を持った樹脂で変性することも考えられます。

Q : FSSWは入熱による歪は発生しますか。

A : アルミとCFRPでは熱膨張率に違いがあり,塑性変形が生じたりするため,それなりに歪みは生じます。しかし,弊害になるほどの歪みでなく,溶融溶接よりは圧倒的に歪みは少ないです。

Q : アルミと鋼板のFSSW,FSWでは脆い金属間化合物ができますが,実用化していると言うことで,どう接合強度を保証しているのでしょうか。

A : 基本的には工程保証(決められた条件で接合していることを保証する)です。接合パラメータ(回転数や加圧力,トルクなど)のプロセスモニタリングも有効です。

Q : 摩擦攪拌接合の鋼製の回転ツールでアルミと鋼板を接合する際,ツールは基本アルミ側から当てるのでしょうか。鋼製のツールを鋼側に当てると摩耗が激しそうな印象を受けます。

A : アルミ側から鋼製ツールを挿入します。ツールはアルミ内に留まるよう制御されるため鋼板には当たりません。なお,鋼板同士のFSSWも開発されていますが,ツールは耐熱性の観点からタングステン等の焼結品が使用されます。

Q : 超音波接合は最近あまり主流ではなくなってきているのでしょうか。レーザーやリベット・カシメの考え方が多いように拝見しました。

A : 超音波接合は1つの選択肢ですが,超音波の減衰があるため小物に向いた技術です。例えば,銅線とアルミのターミナルをつなぐ際などは有効です。一方で,自動車はかなりの数を打つ必要があるため,摩擦攪拌点接合・レーザー・リベット・カシメが利用されるケースが多くなります。

Q : アルミの粗面化処理はアルミ-鋼板の接合にも有効でしょうか。

A : アルミと鋼板の接合であれば,アルミ表面の酸化膜が塑性流動により取れます。鋼板は亜鉛が溶けて酸化膜のない綺麗な面の状態で接合できるので,粗面化処理までは必要ないと思われます。ただし,表面の汚染物質を除去する効果はあると思います。

Q : 副資材を必要としない直接接合の研究が日本で盛んな一番の理由は何でしょうか。また将来的な世界のトレンドを考えた時,その接合技術とリベットなどの機械的接合が使われるバランスはどのようになると考えますか。

A : 副資材を必要としないのは日本の特徴で,なるべくお金をかけないようにされています。ヨーロッパで盛んなカシメ技術を日本に導入,或いは日本で盛んな摩擦攪拌点接合をヨーロッパに導入することを目指すと,接合設備のメンテナンスが問題になります。接合装置のバックアップ体制が無いことは生産上の大きなリスクです。部分的に技術が混ざっていく可能性はありますが,技術が二極化していく可能性もあります。

Q : アルミ-ホットスタンプ材のFSSW接合はできますでしょうか。課題などはありますでしょうか。

A : 可能ではありますが,ホットスタンプ側からツールを当てるため,ツールが鋼ではもたず,タングステンカーバイトなど融点の高いツールが必要です。逆にアルミ側からツールを当てる場合は鋼製ツールが使用できますが,ホットスタンプの表面洗浄が必要になると思います。

Q : ウェルドボンディングにおいて接着剤の代わりに接着テープの利用は構造体の強度の観点からも可能でしょうか。

A : 車体部材は多くが三次元形状であるため,直線的な接着テープよりもロボットで三次元に塗布できる接着剤が有利です。テープはロボットでの貼付けが難しい点も課題だと思います。

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