vol.99 医薬品の研究開発とクロマトグラフィー

2017年1月 発行
竹澤 正明 先生

株式会社東レリサーチセンター
医薬営業部 兼 医薬・バイオ事業企画部
部長
(ご所属・役職は2017年1月発行時)

私は学生時代に薬学部薬品分析化学教室に所属し,島津製作所製の高速液体クロマトグラフ(HPLC)LC-4A 及びLC-6A と初めて出会いました。当時の研究室には数台のHPLC しかありませんでしたので,諸先輩方の研究に占有され,私自身は殆ど利用できませんでした。その後,大学院へ進み,蛍光検出HPLC によるオルトフタルアルデヒド(OPA)や新規発蛍光試薬2,3- ナフタレンジアルデヒド(NDA)を用いたシアンイオンの微量定量分析法の開発に取り組みました。以後,HPLC とは何らかのかたちで約30 年間付き合ってきましたが,今なお,HPLC がめざましい進化を続け,医薬品,食品,環境等様々な分野の研究開発に寄与していることに対して歴史のようなものを感じているところです。

さて,私の業務を簡単に紹介したいと思います。東レリサーチセンターはエレクトロニクス,材料,素材,エネルギー,環境,医薬,バイオ,ライフイノベーション分野のお客様から貴重なサンプルをお預かりし,弊社にて分析機器に供して定性,定量や解析等をし,お客様へ得られた結果をご提供する受託分析会社です。

私は,入社後,血液,尿,組織等の生体試料中の医薬品分析を中心としたバイオアナリシスに約20年間,その後,品質試験や安定性試験を中心としたCMC 分野の分析に4 年間従事してきました。携わった分析手法は,UV や蛍光,ECD 検出HPLC,GC/MS 及びLC/MS/MS 等で,クロマトグラフィーを中心に医薬品の定量分析業務に従事してきました。入社当初, HPLC やGC/MS による高感度分析法の開発・分析に多大な時間を費やしていましたが,今から20年程前のLC/MS/MS の発展・実用化に伴って,医薬品の開発支援が効率的にできるようになりました。
具体的には,HPLC やGC/MS では高感度分析や揮発性誘導体化等のために各種の前処理を施してきましたが,LC/MS/MS によりその時間を1/10 位に省略できました。まさに,革新的な分析手法であるLC/MS/MS の登場により,短時間で,高選択的かつ高感度に分析種を定量できる時代が到来したのではないかと思います。今では,医薬品の研究開発にLC/MS/MS は欠かせない分析手法と言っても過言ではないでしょう。

質量分析計の感度は,過去,新しい製品が発売されるたびに5 倍,10 倍,100 倍・・と飛躍的に高くなっていきました。超微量分析を志す者としては有り難い出来事ではありましたが,一方で最も頭を悩ました問題としてキャリーオーバーによる定量値の過大評価が生じたことです。バイオアナリシスやCMC 分野において定量値の正確性は,極めて重要であることから,キャリーオーバー対策として,HPLC のオートサンプラーの洗浄溶媒の種類や洗浄時間,配管の器材等の検討に多くの時間を費やしました。特に,LC/MS/MS を用いた高感度分析では,HPLC からのキャリーオーバーには特に注意しなければなりませんでした。最近では,分析機器メーカーからキャリーオーバーの様々に低減化を図ったHPLC が市販されていますので,その洗浄機構をよく把握し,超高感度分析を達成していくことが肝要かと思います。

上記の観点から,弊社で定期的にキャリーオーバーの検討を行っていますので,その一例をご紹介します。キャリーオーバーを評価する分析種としては,器材等に吸着が生じやすい酸性及び塩基性物質があります。誌面の都合上,広く知られている塩基性物質であるクロルヘキシジンを用いたキャリーオーバーの検討結果について示します。

図1 クロルヘキシジンの構造式
図1 クロルヘキシジンの構造式

評価方法は,洗浄機構が異なる3 機種("A,B,Cタイプ")のHPLC へ高濃度のクロルヘキシジン(図1,1 mg/mL)を注入し,その後,ブランク試料(クロルヘキシジンが含有していない試料)を3 回連続注入し,その時のクロルヘキシジンの保持時間に溶出されるピーク面積値からキャリーオーバー率【ブランク試料のピーク面積値× 100 /クロルヘキシジンのピーク面積値(%)】を算出することとしました。

図2 各種HPLC におけるキャリーオーバー率

図2 各種HPLC におけるキャリーオーバー率

図2 に結果を示しますが,キャリーオーバー率が最も高値を示し,さらに高止まりした"A タイプ"に対して," C タイプ"のProminence(島津製作所製)はキャリーオーバー率が最も低いことがわかりました。参考までに,最もキャリーオーバー率が高い"Aタイプ"のクロマトグラムを図3 に示します。これらの結果から"A タイプ"及び"B タイプ"と比較すると, "C タイプ"のProminence はブランク試料1回目の注入時からキャリーオーバー率が低値で推移していることがわかります。

図3 “A タイプ”のクロマトグラム

図3 “A タイプ”のクロマトグラム

このことから当時,高薬理活性を有する医薬品の定量分析法の開発や低含量の製剤中の主成分(医薬品)及び類縁物質を定量する際には,積極的にProminence を利用するようにしました。冒頭記述した質量分析計を検出器としたLC/MS/MS 分析では,比較的広いダイナミックレンジの中でfg ~ pg オーダーの分析種を定量する必要があります。そのため,さらなるキャリーオーバー低減化に向けたHPLC の開発に期待を寄せています。

最後になりますが,現在,私は(公社)日本分析化学会液体クロマトグラフィー研究懇談会にて中村 洋委員長の指導の下,懇談会や研修会を通じ,HPLC や質量分析計のメーカーの方々や,多くの第一線の研究者の皆さんと定期的に接し,日々勉強に励んでおります。島津製作所をはじめとして,国内外のほぼすべてのメーカーの方が役員として参加しています。最新情報の入手をしたい,あるいは実務でお困りの読者には,とても有益な懇談会だと思います。加えて,中村先生が提唱されているヒューマンネットワ-クの構築に役立ちますので,ぜひご参加いただければ幸いです。

関連情報

Top of This Page