vol.91 HPLCと糖尿病指標HbA1c

2014年7月 発行
岡橋 美貴子 先生

特定非営利活動法人 病態解析研究所
主任研究員・理事
(ご所属・役職は2014年7月発行時)

LCtalkは本年で発刊30周年とのこと,誠におめでとうございます。本誌がLCに関わる多くの人々にとって,益々役立つ情報誌として発展していくことを心からお祈りいたします。

現在日本人の約5人に1人が糖尿病かその予備軍であると言われていますが,糖尿病初期はほとんど自覚症状がないため,その発見や治療には糖尿病関連指標の検査がとても重要です。糖尿病関連指標のひとつであるHbA1cは,グルコースが結合したヘモグロビンで,過去1~2ヶ月の血糖平均値を示す指標として広く臨床で用いられています。

私共の研究室では,HbA1cが臨床現場で使用され始めた当初からHPLCによるHbA1c分析につき研究を行っており,私も研究途中から関わってきました。入室当時,臨床現場におけるHbA1cの測定は主にHPLCによる2社の専用装置が用いられていましたが,臨床利用が先行し測定すべき安定型HbA1c以外に不安定型HbA1cをはじめとするいくつかの成分を不分離のまま測定していました。そのため,糖尿病の指標としては不確実で,測定値に装置間差や施設間差が大きいという問題がありました。そのような状況の中,私共の研究室では先に,安定型HbA1cと不安定型HbA1cの分離が可能となっていたため,さらに検討を行い妨害物質の影響の少ない分析法の開発を進めていきました。

定量分析は原則として,測定対象物質が定義されていること,標準物質が定められていること,測定法が分析化学的に裏付けられていることが必要です。しかし,臨床検査分野の日常測定においては必ずしもこの三点がそろっているとは限りません。病態指標としての意義が認められながら病態を反映することが優先され,結果として測定法間差や測定施設間差が生じ医療現場での混乱を招くケースがあります。このような場合には検査の標準化が求められ,測定対象の定義,標準物質,基準分析法を定めた測定体系の構築が必要となります。

HbA1cにおいても当時は明確な測定対象の定義,標準物質が存在しておらず,その後日常検査法としてHPLC法以外の測定法(免疫法,酵素法)も加わり,測定値の施設間差はさらに大きくなるという状況があり,測定値の標準化が進められるようになりました。国内では日本臨床化学会と日本糖尿病学会で標準化が検討されるようになり,病態解析研究所も学会の標準化活動に参加し,私共が開発したHPLCによるHbA1cの精密分析法(KO500法)は本邦における実用基準分析法として採用されました。そして,本邦のHbA1c測定基準施設のひとつとして活動を行っています。また,国際臨床化学連合(IFCC)のReference Laboratoryとして認定され国際的な標準化活動にも参加しています。このような標準化活動の結果,現在では国際的にも標準化され施設間差のないHbA1c値が得られるよう維持管理がなされています。

HbA1cの標準化測定体系において基準分析法となっているのは分離分析法です。本邦の実用基準法はHPLC法であるKO500法,IFCCの基準分析法はLC/MS法,HPLCとキャピラリー電気泳動法の組み合わせ,同位体希釈質量分析法(ID-LC-MS)の3法が指定されています。臨床化学分野における日常測定法としては,処理能力が高い生化学・免疫化学自動分析機が汎用されていますが,HPLC法には(1)複雑な混合物から目的物質を選択的に分離測定できる,(2)再現性が良好である,(3)多成分を同時に測定できる,などの利点があることから,精度・正確さを求める基準測定法をはじめ,臨床検査自動分析機ではカバーできない項目の日常測定,病態解析を目的とする研究などに活用されています。

HPLC法は,ハード,ソフト面ともに進歩,発展し続けており,高性能で迅速な測定が可能となっています。その特長を生かし広い分野でのさらなる有効活用を期待します。

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