vol.87 HILIC 型固定相のキャラクタリゼーションについて

2013年4月 発行
池上 亨先生

京都工芸繊維大学
大学院工芸科学研究科

(ご所属・役職は2013年4月発行時)

HILICとは親水性相互作用液体クロマトグラフィーと呼ばれるHPLCの分離モードであり,一般的に5~30 %の水または緩衝液を含むアセトニトリルを移動相に,それと比べて高極性な表面修飾を施したシリカゲルを固定相に用いる。核酸や糖,ペプチドなどは,構造の多様性に加えて,保持や溶解性の点で既存の逆相HPLC分離ではチャレンジングな分離対象である。これらの分子の分離にあたって,水系の移動相が使用可能,LC-MSへの適合性が高い,逆相HPLCとの直交性が高いなどの利点から,HILICは近年注目を集めており,2008年以降は毎年200報前後のHILICに関する論文が報告されている。

筆者は2004年にこの分離モードを研究し始めた。当時は固定相の違いによる保持の違いや,移動相のpHや有機溶媒の濃度,緩衝液の塩濃度の効果などが続々と報告されていたが,その結果に一般性を見いだしがたく,理解の難しい分離モードだと感じた。シリカモノリスをプラットフォームとしてHILIC型のカラムを開発しても,既存の固定相との差異を表現する術がなく,HILICの固定相を横断的にキャラクタリゼーションするためのテスト法を開発する必要性を強く感じた。

高い親水性とUV検出の容易さから,ヌクレオシドをテスト法の基準サンプルにすることを思いついたが,固定相によってはピークのリーディングやテーリングがしばしば観測された。それらの「問題」をもたらす試料はアデニンやシトシンの骨格を有していた。これらの核酸塩基は,HILICの分離条件では正電荷を帯びるため,固定相の基材に含まれるシラノールと静電相互作用を起こし,ピーク形状や保持に問題が発生すると解釈した。逆相HPLCのみならず,HILICにおいても残存シラノールの影響を避けては通れないのである。ここではイオン交換と親水性の分配が同時に起こっているが,これらを個別に評価できれば,保持特性や分離挙動の理解に近づくと考えた。最終的にウリジンを基準サンプルに決め,その保持の大小がすなわち固定相の親水性分配の大小であると定義した。ウリジンは親水性が高いが,弱酸性条件下でイオン化しにくいため,イオン交換モードを排除して,親水性分配の程度を評価できると考えた。

ウリジンの類縁体をサンプルに用いて部分構造選択性を評価すると同時に,陰イオン及び陽イオン交換性についても評価し,テスト法のひな形ができた のが2009年であった。15種の固定相にこのテスト法を適用し,論文として投稿すると,A4の紙12枚分ものコメントが返ってきて面食らった。中に「主成分解析による検討が望ましい」とあり,早速取りかかったところ,ウリジンとアンモニウム塩の保持がそれぞれ主成分となることがわかった。さらにlog k(uridine)とlogk(ammonium salt)をプロットすれば,主成分解析の結果とほぼ同じものが再現できた。つまり,数種のサンプルを測定すれば,HILIC固定相をいくつかのカテゴリーに分けることが可能になった。水素結合供与体(–OH,–NH2など)が親水性官能基である固定相は,親水性が低く,構造選択性も高くない。保持がある場合はイオン交換の影響が大きい。一方,水素結合受容体(–CONH2,–SO2ORなど)を含む固定相は親水性も構造選択性も高いことが示された。

4回の査読を経て発表されたHILIC固定相テスト法は,多くの研究者に実際に使われているが,まだまだ改善の余地がある。莫大な種類の糖の異性体を効率よく分離できるHILIC固定相の開発に向けて,テスト法も併せて研究していきたい。

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