vol.67 「食品の安全とHPLC」

talkのご執筆
望月 直樹 先生

2008年1月 発行
望月 直樹 先生

アサヒビール株式会社
食の安全研究所 所長


(ご所属・役職は2008年1月発行時)

食品の安全に関わる諸問題が多数発生し,官民において食品の安全性確保に関する取り組みが強化され,今まで以上に正確な分析に基づく管理体制が求められてい る。 一方で,食品の安全性に関する問題はデリケートな部分が多く,科学的根拠に基づいた最先端かつオーソライズされた分析法の開発が必要である。 特にHPLCを用いた食品中の微量成分分析の需要がますます広がっている。

食品の安全性に関わる分析対象物質は,残留農薬や残留動物用医薬品が一斉分析で注目されているが,他にも,アフラトキシンやパツリン等のマイコトキシン(カ ビ毒),サイクラミン酸等の食品添加物,アクリルアミド等の食品加工中に生成される発癌物質等の多くの危険因子が挙げられる。 また,食品の機能性においても,明確なエビデンスと安全性が強く求めらており,成分の分析も重要視されてきた。 今後も分析対象物質がさらに増加して行くと考えられる。

食品は多くの栄 養成分や繊維質等から構成され,食品ごとに含有している炭水化物,脂質,タンパク質,ミネラル,ビタミン,精油などが異なる。 これらの成分が複雑なマトリックスとなり,分析の阻害要因となるため,食品成分の微量分析は困難を要する。 飲料を例に挙げると,野菜ジュース,お茶,コーヒー,ミルクでは構成成分のマトリックスが大きく異なる。 マトリックスの影響を小さくし,目的物質を選択的に分析するためには,十分な前処理と分離,そして適切な検出器の選択が重要である。

食品の前処理操作では従来の液液溶媒抽出法に代わって,固相抽出法が活発に用いられている。 食品成分特有のクロロフィルなどの色素を除去するグラファイトカーボン,有機酸や脂肪酸を除去するイオン交換樹脂,その他夾雑成分を除く活性炭,順相,逆 相,アルミナ,フロリジル等を組み合わせて固定相として用いられている。 また,選択性の高いイムノアフィニティーカラムも固相抽出に多く使用されている。 これにより複雑な組成を示す食品試料から特定の目的成分のみを選択的に抽出,分離,精製することが可能になってきた。 固相抽出法はマトリックス除去,濃縮効率,回収率,再現性,迅速性などの利点が大きく,食品分析が抱える前処理での煩雑性の問題を大きく解決している。

一方,ポジティブリスト制度の導入を背景に,数百種類以上の残留農薬を一斉分析する方法が活発に開発され,LC-MS及びLC-MS/MSの食品分析への導 入が急速に拡がった。 近年では,より効率化を目指し,超高速分析システムも開発されている。 これらを用いた食品分析の問題点としては,MS部で起こるイオン化抑制が挙げられる。 食品ごとに異なるマトリックスの影響を受け,イオン化効率が微妙に変化することから分析の信頼性が乏しくなる場合がある。 この解決法として,HPLCにおける目的物質の徹底した分離が必要で,MS部のフロントにおけるHPLCの性能の重要性は高い。

以上,食品の安全性領域においてHPLCは最も汎用される分析機器であり,より効率的な分析法の開発と改良が求められるとともに,これらの分析技術を支える 人材の育成が重要な鍵を握ると考える。 なお,弊社ではお客様が食の安心・安全に求める要求の高度化に対応して,アサヒビールグループ全体の商品の安心・安全に関わる技術開発を統括する組織とし て2007年10月研究開発センター内に「食の安全研究所」を開設した。

研究開発センター外観
 研究開発センター外観

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