vol.59 「LC-MSと誘導体化」

talkのご執筆
宮野 博 先生

2005年10月 発行
宮野 博 先生

味の素株式会社 ライフサイエンス研究所 特別主任研究員

(ご所属・役職は2005年10月発行時。 2007年9月時:味の素株式会社 ライフサイエンス研究所 主席研究員)

「いい前処理法がつくれれば,分析法開発の90%は,終わったようなものだ。」というのは,私が入社した頃の職場の大先輩の口癖でした。 「90%」が真値かどうかはともかく,前処理の重要性は,手法を問わず,昔も今も変わりません。 ここでは,HPLCの代表的な前処理のひとつである誘導体化について,LC-MSに関連する話題を取り上げます。

「LC-MSで誘導体化?」と感じる読者も少なくないと思います。 たしかに,「LC-MSは誘導体化の必要がない」という表現を,GC-MSと比べたときのメリットとしてよく使います。 しかし,LC-MSにも有用な誘導体化があります。

一般に,HPLCでの誘導体化の目的は,分離能と検出能の向上です。 アミノ酸分析では,ニンヒドリンやOPAなどを試薬として,アミノ酸を発色させたり,蛍光性物質に変換したりして測定します。 LC-MSでは,分析対象物のイオン化効率を高めるような誘導体化を行なうことで,より高感度な測定が可能となります。 また,誘導体化によって特徴的なフラグメンテーションが観察されることがあり,この現象は,LC-MS/MSでの測定や構造解析に有用です。 アミノ酸や有機酸,極性の高い化合物は,揮発性溶媒を移動相とするLC-MSにとって苦手な分析対象です。 誘導体化は,これらの化合物群の極性を相対的に下げることができるので,逆相-揮発性移動相での分離が容易となります。 このようなLC-MSに適したプレカラム誘導体化試薬は,今後その用途が広がっていくと考えています。

実際の研究開発の現場では,LC-MSよりも,リン酸系移動相を用いてUVで検出する場合が,圧倒的に多いと思います。 また,その系で未知ピーク(だいたい微量な場合が多い)が検出され,その構造を決定しなければならないということも少なくありません。 リン酸をMSには導入できませんので,このようなとき,分取を試みたり,揮発性移動相に置き換えてLC-MSで測定したりします。 しかし,目的成分の極性が高ければ高いほど,脱塩が困難であったり,溶出位置や順序が変わったりするので,このようなアプローチはかなりの確率で失敗します。 私たちは,Co-Sense(島津製作所)と揮発性の高いイオンペア試薬(これも一種の誘導体化試薬です)を利用して,リン酸系移動相で溶出した極性成分をオンラインでMSに導入する方法をつくり,未知化合物の構造推定に役立てています。

具体的な手順ですが,まず,溶出した目的成分を検出器に接続したループにトラップします。 次に,イオンペア試薬を含む水溶液を別のポンプで送液し,ループ内の目的成分を含むリン酸水溶液を逆相系カラムにロードします。 このとき,リン酸はカラムに保持されず,イオンペア試薬と相互作用する成分のみが保持されます。 最後に,ギ酸水溶液-アセトニトリルで,脱塩された目的成分を逆相系カラムから溶出し,MSを測定します。

蛇足ですが,この方法を開発した当時,イオンペア試薬の純度が問題となりました。 一般的なイオンペアLC-MS法を行なうのに十分な純度のものを用いたのですが,この使い方では,試薬中の微量の不揮発性「不純物」が,目的成分同様,逆相系カラム内で濃縮され,これが測定の妨害となることがありました。 幸い,試薬メーカーさんのご理解をいただき,現在では,高純度LC-MS用イオンペア試薬が販売されています。

装置の性能は,装置メーカーさんの努力で,飛躍的に向上しています。 ユーザー側はそれに頼るだけでなく,装置の性能を活かすための技術開発・工夫をしていくが大切だと感じています。 両者があいまって,より適切な結果をよりスピーディに得ることができるようになると思います。

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