執筆者紹介

vol.57 「LCの進化とともに」

彼谷 邦光 先生

東北大学大学院 環境科学研究科 教授 (ご所属・役職は2005年4月発行時)

小生の昔の実験ノートを開くと,1977年にコレステロールの熱分解物中からベンゾ-a-ピレンをLCで検出していました。 LCは Shimadzu LC-1,カラム:Zorbax ODS,カラム温度:65℃,カラム圧:150 kg/cm2, 検出器:UV検出器と蛍光検出器を直列に連結。 移動相はメタノール-水のグラジエントと記されていた。 UV検出器は感度もよく,スペクトルの取れるラピッドスキャンという機能がついていたことを思い出しました。 ただ,コンプレッサーや検出器を含めると,かなりの場所がないと設置できないほどの大きさでした。

それ以来,LCとは長い付き合いになります。 プランジャーシールの破損が早く,よく液漏れしたこともありました。 そんな中で,LC-6A には本当にお世話になりました。 6A は名機だと思います。 多くの物質の分離や定量に活躍してくれました。 また,分取用の LC-8A にもずいぶん働いてもらいました。 最近は 10AD と LC-MS 2010A に働いてもらっています。 これらも故障がほとんどなく,丈夫で医者要らずといったところです。

カラムも驚くほどの速さで進化し,種類も増えました。 もう一つはやはり検出器の進化でしょう。 UVからPDAへ,そしてMSへの進化は分析機器としての地位を確立し,GCと肩を並べるまでになったと思います。 ますますLCの今後が楽しみになってきました。

これまでの分析ではGCまたはGC/MSを基本に分析法を開発してきました。 昔の分析担当者には化学が専門の人が多く,試料調製の中に誘導体化の操作があっても何の問題も生じませんでした。 ところが,最近の分析担当者の中には臨床検査技師や栄養士,あるいは分子生物学や生化学出身の方などがおられ,誘導体化に不慣れな方がかなりいらっしゃるようです。 マニュアル通りにやっているが,誘導体が出来ないとの抗議(?)の電話やメールがよく来ます。 溶媒や試料の脱水の必要性だけでなく,脱水方法も知らない方からの質問に疲れきることもありました。 これは世界的な傾向のようで,イギリスで行われた分析の講習会でTMS化を指示したところ,TMS誘導体が出来た受講生は2割で,8割の受講生は水を含んだ系で反応を行ってしまい,誘導体は得られなかったという話しを聞きました。どうやら,今日的な分析法としては,できるだけ誘導体化を避ける方法が受け入れられ易いようです。 このような趨勢にあって,LC は正に今日的な分析機器といえましょう。

当研究室ではアオコの肝臓毒ミクロシスチンの分析法を確立してきました。 現在70種類以上同定されているミクロシスチン同族体の総量を定量する方法として MMPB法 を開発してきました。 これはアオコ毒ミクロシスチン同族体のAddaと呼ばれる共通部分を過マンガン酸カリウム・過ヨウ素酸ナトリウムで酸化し,生成するerythro-2-methyl-3-methoxy-4-phenylbutyric acid (MMPB) を サロゲート[erythro-2-methyl-3-(methoxy-d3)-4-phenylbutyric acid (MMPB-d3)] を基準としてLC/MSのSIMで定量するというものですが,将来は前処理と分析をカラムスイッチで連結した分析システムにしたいと思っています。 ハンドリング操作を無くすることが分析精度の向上につながると思うからです。 それには,MMPBに対する選択性の高い前処理媒体の開発が必要になりますが,こちらの方は分子鋳型法で何とかならないかと試行錯誤しています。

これからの分析法はハンドリング操作の無い方法が求められるように思います。 例えば,試料をカラムスイッチの付いたLC/MSのオートインジェクターにセットすると,目的物質は高選択性の前処理媒体で分画された後,自動的に分析用カラムに導入されて,MSで定量する。 というような自動分析システムができるのではと想い描いています。 分析機器の進化にともなって分析技術者のハンドリング操作はますます退化していくことになり,LCなどの分析機器はますます全自動化への道を求められることになるように思うのです。

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