vol.51 「医薬品の不純物分析におけるELSD」

talkのご執筆
林 隆介 先生

vol.51 2003年7月 発行
林 隆介 先生

第一サントリーファーマ株式会社 開発研究所 品質評価グループ 主任研究員

(ご所属・役職は2003年7月発行時。 2007年9月時:アスビオファーマ株式会社 バイオ創薬センター 創薬研究部 主任研究員)

■ 医薬品の不純物分析
 医薬品中の不純物分析は,患者さんの安全を確保する上で,最も重要な項目の一つである。
 不純物分析に用いられるHPLCにおいて,UV検出は広範に使用されているが,UV吸収の弱い化合物については,他の検出方法を考えなければならない。
 その一つとして,誘導体化法が盛んである。 誘導体化法は,検出感度が極めて高く,従来の高感度なUV検出器や蛍光検出器を利用できる。 しかし,これらの手法が活躍するのは,「既知」化合物に対してである。 残念ながら「未知」化合物に対しては,誘導体化法がその神通力を発揮する事は難しい。 何故なら,誘導体化の反応率や副反応が不明だからである。 未知化合物群に対して誘導体化反応を行った場合,副反応を含めた全ての生成物に対して解析を行わねばならず,運が悪ければ,解析すべき化合物数を増やしてしまう恐れもある。
 そこで登場するのが ELSD(Evaporative Light Scattering Detector)である。 UV吸収を持たない化合物を誘導体化する事無く,そのまま検出可能である。

■ ELSDの原理
 ELSDの原理は,極めて簡単である。 HPLCカラム分離後の溶離液をネブライザーでドライガス中に噴霧・加温すると,溶離液ミストから溶媒が蒸発し,溶存していた溶質分子が析出する。 この粒子を光散乱検出するのである。(溶離液だけの場合は全量が蒸発し無検出状態となる)
 初期のELSDは,噴霧した溶離液ミストの全量を蒸発させるシステムであった。 これが曲者で,溶離液ミストが均一な粒径にならない為に,大粒径の液滴がなかなか蒸発できず,ノイズの原因であった。
 これを見事クリアしたのが,フランスのSEDERE社が開発したELSDである。(この技術は,島津製作所「ELSD-LT」にも使われている。)溶離液ミストをガラス管中に噴霧し,大粒径のミストは重力で自由落下させ取り除いてしまうのである。 ガラス管を通過した細かいミストだけが,加温管に導かれ,光散乱検出器に入いる。 この簡便ながら偉大な工夫により,ELSDは飛躍的な進歩を遂げた。

■ ELSDの長所

  • 揮発しない物質であれば検出可能
  • 溶媒そのものを蒸発させる為,グラジエントを行ってもベースラインに影響が出ない
  • 外気温による影響は少ない

■ ELSDの短所

  • 揮発性溶離液でしか使用できない
       (有機酸アンモニウム塩,炭酸アンモニウム塩:いわゆるLC-MS用溶離液
  • 昇華性物質は検出感度が非常に低い
  • UVに比較すると検出感度が小さく,ダイナミックレンジが小さい
  • 余計な物が見える(カラムブリードを検出する場合がある)

■ ELSDの活用
 上述の様にELSDは万能では無い。 従って,UVでは検出できない「穴」を埋める為の補完的な検出器としての役割が期待される。
 医薬品における不純物分析とは,「保険」の様なものである。 「不純物があるかも知れない」というスタンスに立ち,多面的な検出手段で穴を埋めて行くのである。 その保険の一つがELSDである。  ELSDで不純物を探索し,化合物を特定できれば,感度の高い誘導体化法を用いる事も可能となる。

■ ELSDの感度向上
 ELSDはUVに比較すると検出感度が低いのだが,感度向上策を会社の女性社員が見い出した。 LC-MS用イオンペア試薬と銘打たれたフルオロカルボン酸である。 当初の目的は,イオンペアによるカラム保持効果を狙ったものであったが,期せずして大幅な感度向上が見られた。 分析対象が揮発性の高い物質であった為,ELSD感度がほとんど無かったが,(1)フルオロカルボン酸とのイオンペア生成による分子量の増加が揮発性の低下をもたらし,(2)イオンペア形成によりカラムへの吸着を阻害したと考えている。

■ やってみなはれ
 ELSDは,条件設定が非常に簡単である。 是非一度,測定をお勧めする。 今まで見えなかったものが見えて来る事を保証しよう。 それが如何なるものであっても,クロマトグラファーのあなたにとって exciting な事に違いない。

■ 蒸発光?
 蒸発光散乱検出器がELSDの日本名だが,会社の同僚に「蒸発光,どう?」と言われる度に,「エバポレイティブ光散乱検出器?」と聞き返す事にしている。

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