超高速LCのためのデータ処理パラメータの基本設定

データ処理装置(ソフトウェア)は,さまざまなクロマトグラムに対応できるよう,多くのパラメータを有しています。その中で最も基本となるものは,「何秒に1 回データを取り込むか:サンプリングレート」,「ピーク半値幅が何秒以上あればピークと見なすか:Width」,「ベースラインがどの程度傾いたらピークと見なすか:Slope」という3 つのパラメータです。これらパラメータは,一般にメーカー側で設定したデフォルト値(初期値)があり,そのままの設定で使用してきた方も多いと思います。しかし,超高速LC 時代を迎え,デフォルト値が必ずしも適切ではないという状況も見かけるようになりました。
ここでは,これらの基本的なデータ処理パラメータについて,適切な値を設定するための手順を解説します

※ 島津製作所製データ処理装置クロマトパックシリーズおよびワークステーションソフトウェアLCsolution,LabSolutionsで用いられるパラメータを対象としていますので,あらかじめご了承ください。

検出器の応答速度

データ処理の設定を行う前に,まずは検出器の応答速度(時定数,レスポンス)が超高速分析に適した設定になっているかどうかを確認してください。検出器側の応答速度が十分に速くないと,検出信号がデータ処理側に送られる前にピークのシャープさが損なわれてしまいます。

※ 超高速LC における検出器の応答速度とクロマトグラムとの関係については,LCtalk Vol.65「TEC」に解説がありますのでご参照ください。

サンプリングレート

「サンプリングレート」または「サンプリング」は,検出器から送られてきた信号をデータ処理装置が受け取る際の頻度を決定するパラメータです。データを取り込む周期(ミリ秒)または周波数(ヘルツ)で設定します。サンプリングの周期が長すぎると,検出器からの信号変化に追随できなくなりますので,ピーク形状がいびつになります(図1)。一方,サンプリングの周期が短すぎると,データファイルのサイズが必要以上に大きくなります。明らかに前者の方が分析結果に対して深刻な影響を与えますから,サンプリングレートは短めに設定しておくに越したことはないと言えるでしょう。

サンプリングレートの影響
図1. サンプリングレートの影響

ピーク面積を精度よく計算するには,ひとつのピークで20 点以上サンプリングしておけば十分と言われています。従って,サンプリングレートは以下のように設定するのが適切と考えられます。    

1)  最も幅の狭いピークについて,ピーク幅の1/20 かそれ以下となるように設定する。
2)  データサイズを大きくしたくない場合(フォトダイオードアレイ検出など)は,1)を満たす範囲でできるだけ周期を長くする。
表1 適切なサンプリングレートの例
適切なサンプリングレートの例


表1 に, 理論段数が4000 または10000 を与える分離カラムを想定し,各保持時間において,ピーク幅の1/20 となるようなサンプリングレートを示しました。

従来から広く用いられてきた粒子径5 μm,カラム長150 mm 程度のODS カラムで考えてみましょう。保持時間は,通常2 分以上になると思われます。理論 段数は,十分保持したピークで10000 段前後,非保持位置付近では通常4000 段以下と予想されます。これを表1 と照らし合わせると,サンプリングレートは 400 ~ 500 ms (ミリ秒)が適当と思われます。

一方,粒子径2 μm 前後の超高速LC 用カラムを考えると,保持時間が上述の1/5 ~ 1/10 で,同程度の理論段数を示すことが予想されます。とすると,サンプリングレートも40 ~ 100 ms 程度にしておくのが適切と言えるでしょう。ちなみに,島津製作所製データ処理装置・ソフトウェアにおけるサンプリングレートのデフォルト値は500 ms です(PDA 検出器を除く)。従って,超高速LC を使用する場合には,意識して適切なサンプリングレートとなるよう設定変更してください

※ LCsolution/LabSolutions でサンプリングレートを100 ms未満に設定したい場合には,環境設定の中で検出器のベースレートも併せて変更する必要があります(PDA 検出器を除く)。

最小ピーク半値幅:Width

Width の設定(半値幅)
図2 Width の設定(半値幅)


Width は,最小ピーク半値幅を決めるパラメータです(図2)。ピーク半値幅(ピーク高さの半分の位置での幅)がWidthの値を大きく下回ると,ノイズと見なされてピーク検出されなくなります。このパラメータについても,最も狭いピークについて半値幅を測定し,その値と同等かやや小さめの数値を設定します。

表2 適切なWidth の例
適切なWidth の例


LCsolution およびクロマトパックシリーズにおけるWidth のデフォルト値は5 s です。前項と同様の前提で,得られるピークの半値幅を計算した結果を表2 に示します。Width は,粒子径5 μm 程度のODS カラムでは4 ~ 5 s 程度,粒子径2 μm 前後の超高速LC においては0.4 ~ 1 s 程度に設定しておくのが適切でしょう。

サンプリングレートとWidth の関係

表1 と表2 を比較すると,サンプリングレートとWidth はおおよそ1 対10 の比率で対応しています。実際,C-R3A 以前のクロマトパックシリーズには「サンプリングレート」はなく,通常Width の1/10 がサンプリングレートとして自動的に設定されるという仕様でした。

なお,サンプリングレートはデータ採取前に設定しておかなければなりませんが,Width は再解析での変更が可能です。適切な波形処理が行われなかった場合には,上述の基準によらず,適宜Width を変更しても問題はありません。

ピーク検出感度:Slope

図3 Slope の設定
図3 Slope の設定

Slope は,ピーク検出感度を決めるパ ラメータです。1 秒あたり何 μV 以上検出信号が増大したらピーク検出を開始す るかを決めます(図3)。Slope 値が大きくなりすぎるとピークを検出しにくくなり,逆に小さくしすぎると余計なノイズまで拾ってしまいます。

適切なSlope 値を求めるため,「Slope テスト」というシミュレーション機能が含まれています。これは,ピークの出ていないベースライン領域での最大Slope値,すなわちノイズに起因するSlope 値を自動算出するというものです。なお,Slope テストの結果はWidth の値に左右されますので,Width を確定させてからSlope テストを行いましょう。

ノイズレベルが大きくなれば,個々のノイズの傾きが大きくなり,適切なSlope 値も大きくなります。超高速LC では検出器の応答速度を小さ目に設定するため,通常のHPLC よりもノイズが大きくなることが多く,Slope の値も大きめに設定しておく必要があります。

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