メタノールとアセトニトリルを使い分ける7つのポイント

分析の留意点

アセトニトリルとメタノールは,逆相クロマトグラフィーの移動相に使用される頻度が高い有機溶媒です。これら有機溶媒は各々の物性が異なるため,分析する上で注意する必要があります。以下の7つのポイントについて,メタノールとアセトニトリルの特徴をまとめます。

1.カラム圧

Fig.1は水/アセトニトリル,水/メタノール混合液の比率と送液圧力の関係例を示します。カラムにかかる圧力は,有機溶媒の種類や混合の比率によって異なり,カラム温度が高いほど,溶媒の粘性が下がるため圧力が低くなる傾向があります。
カラム温度条件を25°Cや40°Cに設定し,水とアセトニトリルもしくはメタノールと混合した場合のカラムへの圧力を比較すると,メタノールの方がアセトニトリルより圧力が上昇することが分かります。アセトニトリルからメタノールに移動相を置き換える際は,あらかじめ装置およびカラムの耐圧の確認が必要です。

2.吸収スペクトル

Fig.2とFig.3には,アセトニトリルとメタノールの市販試薬 HPLC用と特級の吸収スペクトルを示します。
市販されているHPLC用の有機溶媒は,UV吸収を持つ不純物を極力除去し,規定した波長における吸光度を規格内に抑える処理が施されています。Fig.2より,特に短波長領域でのHPLC用のアセトニトリルの吸収が低いことがわかります。このため,UV検出の低波長領域で高感度分析が必要な場合には,HPLC用のアセトニトリルが適しています。
また,LCMS用として市販されている有機溶媒は,UV吸収をもつ不純物とともに金属残留物を除去し,LCMS分析特有のバックグラウンド上昇を未然に防ぐ工夫がされています。
有機溶媒をアセトニトリルからメタノールに移行後,UV短波長側での検出条件によるグラジエント分析時にゴーストピークが検出される場合には,試薬グレードの見直しをお勧めします。また,ゴーストピークの原因が究明できず,分析結果に支障がでるようであれば,有機溶媒中の不純物も除去可能なゴーストトラップDSをお試しください。

3.溶出力

Fig.4はODSカラムを用いてρ-ヒドロキシ安息香酸(パラベン類)を分離した例です。アセトニトリルとメタノールを各々同じ比率で水に混合した場合、アセトニトリル系の移動相の方が溶出力が高いことがわかります。
アセトニトリルからメタノールに置き換える際の溶出力の比較の目安となる、アセトニトリルとメタノールの溶媒強度のノモグラフをFig.5に示します。移動相としてアセトニトリルを用いた場合、水との混合比が50/50(v/v)であれば、メタノールに置き換えた場合の水との混合比は60/40(v/v)に相当するということを表しています。

4.分離の選択性

アセトニトリルとメタノールでは分離の選択性が異なりますが,化合物の特性に依るため,どちらが選択性が高いということはありません。
位置異性体の分離には,逆相クロマトグラフィー用のカラムの中でもPhenylカラムが適用されるケースがあります。Phenylカラムは,固定相のフェニル骨格により疎水性相互作用に加えて,π-π相互作用が分離に寄与します。
Fig.6はPhenylカラムを用い,クレゾールの位置異性体を分離した例です。アセトニトリル(CH3-C≡N)のC-N結合は三重結合であり,π電子を有することに対して,メタノール(CH3-OH)はπ電子が存在しません。Phenylカラムを使用する際に移動相にメタノールを選択すると,固定相と対象成分の間に働くπ-π相互作用が働くため,分離の改善に繋がります。

5.保持挙動

メタノールとアセトニトリルは化学的な性質が異なります。メタノールはプロトン性,アセトニトリルは非プロトン性の有機溶媒であることから,溶出挙動が異なることが知られています。アセトニトリル系の移動相で十分な分離が得られない場合にはメタノール系移動相に変更し,分析種の溶出順序を変化させることが可能であるため,メソッド開発において有用な手段の一つです。

Fig.7は,ベンゼン環の水素原子1個がカルボキシ基やヒドロキシル基に置換された化合物をアセトニトリルやメタノールで分離した例を示しています。3成分を同程度に保持させたとき,アセトニトリル使用時とメタノール使用時で,フェノールと安息香酸の溶出順序が逆転しています。このように,使用する有機溶媒によって溶出パターンへの違いが生じます。

また,使用するカラムの種類によってはODS基やC8(オクチル)基などの化学修飾された官能基の他,充填剤由来の極性の高い官能基などの副次的な影響を受けることもあります。移動相として使用する有機溶媒と副次的な影響を与える官能基がうまく影響するパターンもあります。Fig.8とFig.9は,逆相カラムを用い,有機溶媒系移動相にアセトニトリルもしくはメタノールを使用し,同一条件によりセフェム系抗生物質13成分を分離した例を示します。移動相にアセトニトリルを使用した場合とメタノールを使用した場合で保持の大きさが異なると共に溶出順も変わります。

また,逆相系クロマトグラフィーの固定相(ODSやC8カラム)でも溶出順が異なることが知られています。ODSカラムとC8カラムでは,一般的にはC8カラムの方が保持が小さくなりますが,充填剤由来の極性官能基が作用し,単に保持が小さくなるだけでなく,ODSとは異なる溶出挙動を示すことがあります。このように,分離挙動は一様ではなく,分離条件を最適化するには様々な固定相,移動相を試すことが必要です。

6.緩衝液との混合による析出の可能性

逆相クロマトグラフィーでは,水系移動相に緩衝液を使用し,有機溶媒と混合させて使用しますが,使用する有機溶媒や緩衝液の種類によっては有機溶媒比率が高いと緩衝液の塩が析出するため,グラジエント溶離の条件検討の際には注意が必要です。 Table1,Table2に,使用される頻度が高い緩衝液とアセトニトリルおよびメタノールの混合時に生じる析出の有無についてまとめました。表中の数値は,アセトニトリルおよびメタノールと緩衝液の混合による析出が生じたときの混合比(v/v)を示しています。緩衝液の種類によっては,いずれの有機溶媒についても析出を起こさないケースもありますが,メタノールの方が析出を起こしにくいことがわかります。

※表中の数値は,実験室環境の影響を受ける場合があります

7.水との混合による反応熱

イソクラティック溶離の場合,あらかじめリザーバボトルの中で水と有機溶媒を混合した移動相を使用します。水との混合時にメタノールは発熱反応を示しますが,アセトニトリルは吸熱反応を示します。
アセトニトリルを水と混合すると,液温が低下した後,徐々に移動相の液温が室温と一定になる際に気泡が発生しやすくなります。また,液温が室温と一定になる前に移動相として分析に使用した場合,保持時間が早まり,液温が室温になるにつれて保持時間が安定するという現象が生じます。
一方,メタノールを水と混合すると,発熱による脱気効果が生じます。この効果により,アセトニトリルと水との混合による移動相を調製する場合よりも,配慮することなく分析に使用することができます。

まとめ

以上の7項目について,有機溶媒としてメタノールとアセトニトリルを選択する際の7つのポイントについて纏めました。カラム圧への影響,UV吸収,緩衝液との相溶性といった分析作業面や,溶出力,分離の選択性,保持挙動といった分離条件検討面におけるメタノールとアセトニトリルの化学的な特性や,カラムとの組み合わせなどを理解することは,HPLC分析におけるトラブルの低減やメソッド開発の効率化にも繋がります。

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