分取HPLCのはなし・・・ 分取量の目標を設定しましょう

分取HPLCのはなし その1へ

 HPLCで目的成分を分取する場合,その後の処理を考慮して「できればこれくらいの分取量が欲しい」あるいは「最低限これだけの分取量が得られなければ意味がない」といった要望があると思います。 例えば,μgオーダーの分取量で十分であるなら,おそらく分取専用装置など必要なく,コンベンショナルサイズの装置とカラムで十分達成できるかもしれません。 逆に,g(グラム)オーダーの分取量が必要となると,それなりの規模の装置とカラムが必要となるでしょう。このように,要求される分取量によって選択すべき装置やカラムが大きく変わりますので「最低限どれだけの分取量が必要か」を見定めた上で,分取HPLCの検討に取り掛かりましょう。

1) コンベンショナルスケールでの現状把握

まずはコンベンショナルスケール(通常のHPLC分析用装置およびカラム)で分取できる量を算出してみましょう。 コンベンショナルスケールで可能な分取量はわかれば,目標の分取量を得る分取HPLCを適切に選択することができます。  (前提として,実試料中の分析対象成分の濃度を測定することができるHPLC分析条件がすでに確立しており,そのとき使用される溶離液が分取後の処理において問題にならないものであると仮定します。)

■絶対注入量の算出
 試料溶液中の分析対象成分の濃度と,そのHPLCへの注入体積がわかっていれば,両者の積から絶対注入量が求められます。(例えば,試料溶液中の目的成分濃度が1mg/Lで10μL注入した場合は,絶対注入量は0.01μg) UV検出のHPLCでもっともよく測定される濃度範囲はサブmg/Lから数百mg/L程度ですので,そのままの状態で分取を行なってもせいぜいμg前後の量しか得られないことが容易にわかります。 1mg(1000μg)分取しようと考えたら,1%(10,000 mg/L)溶液を100 μL注入する必要があるということになります。

■限界負荷量の見極め
 次にコンベンショナルスケールのままで,どこまで試料溶液中の分析対象成分濃度を高くできるか,および注入体積を増やせるかを確認してみることをお勧めします。その実験例を下図に示します。

*高濃度のベンゼンのピークがスケールアウトしないよう,その吸収極大を避けて270 nmで検出

 この例は,コンベンショナルサイズ(250mm×4.6mm,5μm)のODSカラムを用い,500mg/mLのベンゼンと微量の安息香酸およびナフタレンを含む混合溶液を分析したときのクロマトグラムです。 この試験の結果,ピーク形状が維持できるのは50μL注入まで,ベンゼン負荷量に換算すれば25mgまでということがわかりました。
 上の実験では注入体積を増やして検討を行っていますが,試料濃度を少しずつ大きくしても構いません。 あまり詳細な検討は必要ありませんので,5~10倍ずつ注入量または試料濃度を増やしていって,目的成分のピークが前後の夾雑ピークと分離できる上限を見極めましょう。 分取LCでは「目的成分が共存成分と分離するかどうか」だけが重要であり,ピーク形状が多少歪んでも検出器がスケールアウトしても構いません。
 コンベンショナルスケールでの限界負荷量がわかれば,スケールアップ時にどれくらいのサイズのカラムを使えばどの程度まで分取量が増やせるかを計算で求めることが可能となります。

2) スケールアップの規模の予測

コンベンショナルスケールで可能な分取量が判明したら,それを分取量の目標値と比較してみましょう。

(1) 目標とコンベンショナルスケールでの分取可能量とがほぼ同じ→あえて分取専用装置やサイズの大きなカラムを導入する必要なし。 わずかに目標に届かない程度であれば,数回繰り返し注入して分取を行なう。
(2) 目標値がコンベンショナルスケールでの分取可能量の10~100倍程度→ラボ用分取HPLCの導入により目標を達成できる可能性あり。分取用HPLC装置導入に向けカラムと装置の選択を行なう。
(3) 目標値がコンベンショナルスケールでの分取可能量の数百倍以上→実験室レベルのHPLC装置での対応は困難な場合が多い。 工業用分取LCを考えるか,HPLCとはまったく異なる原理の分離法に変更する。