イオンクロマトグラフィーQ&A ■ トラブルの原因と対策

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Q: 陰イオン分析用カラムに陽イオン分析用の溶離液を流してしまった場合,あるいはその逆を行ってしまった場合,どうしたらよいですか?(お問い合わせ番号IC0601)
A: 本来の溶離液に交換し,標準試料を分析して分離を確認してください。


 このようなことを行ってしまった場合には,まずはあわてずに冷静に考えましょう。 「分離カラムには溶離液以外の溶液を送液してはいけない」という決まりがあるわ けではありません。 カラムの取扱説明書を参照し,間違って送液してしまった溶液が使用可能範囲内の組成かどうかを確認してください。

 間違いに気づいたら,まずは速やかに本来の溶離液に変更してください。 ただし,安定化には通常より時間がかかる場合があります。 カラムの圧力が高くなっている 場合には,通常分析している時の圧力以下になるように溶離液流量を低く設定して液置換を行ってください。
 ベースラインが安定したら,標準試料を分析して分離を確認しましょう。 保持時間やピーク形状に異常がなければ,何も問題はありません。 異常が認められる場合は ,ガードカラムを外して同じ実験を行うことにより,原因がメインカラムとガードカラムのどちらにあるかを切り分けてください。 原因を特定したら,そのカラムを取扱 説明書にしたがって洗浄してみましょう。

(参考:イオンクロマトグラフィーに用いるカラムの洗浄方法, 使用制限
 
【注意】
カラムの洗浄は必要なときにのみ実施してください。 みだりに組成の異なる溶液を通液したり,本来の通液方向とは逆向きに溶液を流したりすると,充填剤の性質に変化 をもたらして性能低下や圧力上昇の原因となることがあります。

 
Q: 標準溶液を分析したときに,以前よりピークが全体に太くなり,分離が悪くなりました。 原因と対策は?(お 問い合わせ番号IC0602)
A: カラムの性能が低下した可能性があります。 また,インジェクタが要因である場合も考えられます。


 カラム性能が低下したときにもっとも顕著に現れる症状が,このような「ピークが太い」「近接したピーク間の分離が低下した」といった現象です。 保持時間があまり 変化せず,ピーク形状に明らかな違いが見られるようなら,分離カラムに問題がある可能性が大といえます。  このようなときにまずやるべきことは,ガードカラムを外した状態で同様の分析を行い,クロマトグラムを比較することです。 ガードカラムを外しただけでピーク形状 が回復するようなら,原因はガードカラムと見て間違いありません。 逆に,ガードカラムを外しても症状が変わらないようならメインカラムの性能低下が疑われます。  問題のある方を洗浄もしくは交換しましょう。(参考:イオンクロマトグラフィーに用いるカラムの洗浄方法
 
【注意】
カラムの洗浄は必要なときにのみ実施してください。 みだりに組成の異なる溶液を通液したり,本来の通液方向とは逆向きに溶液を流したりすると,充填剤の性質に変化 をもたらして性能低下や圧力上昇の原因となることがあります。


 一方,こうした症状が発生した場合,原因がカラムにあると決めつけるのは早計です。 インジェクタが原因という可能性もわずかながら残されていますし,サプレッサ 方式の場合はサプレッサに問題があるのかもしれません。  インジェクタ内にデッドボリュームがある場合は,それが原因でピークが広がることがあります。 問題発生時の直前に配管の付け外しを行った場合には,その箇所を点 検してみましょう。 また,サンプルループの容量を変更した場合には,その内径の違いにより同様の現象が発生する可能性もあります。 ただし,こうした配管部のデッ ドボリュームが自然に発生・増大することはほとんどありませんので,上記のような変更を行っていなければインジェクタの疑いはほぼ消えます。

 いずれにせよ,早期解決のためには原因の切り分けが必要なので,予備のカラムやサプレッサを持っておくことをお勧めします。 予備品がない場合は,とりあえず所定 の方法でカラムやサプレッサを洗浄してみましょう。

 
Q: 標準溶液を分析したときに,複数のピークで頂上が二つに割れたり,ショルダーが出たりしました。原因と対策は?(お問い合わせ番号IC0603)
A:
複数のピークで同じような現象になる場合は,カラム入口に隙間ができたことが原因の場合が多いです。


 下右図のような形のピークが得られたときは,何らかの異常が起こっていると思われるため,対策が必要です。

 ピーク割れやショルダピークが出た場合,まず確認すべきことは,複数の成分を分析したときに同じような現象になるかどうかです。 特定の成分についてのみ発生するようなら,カラムの中で何らかの化学的な相互作用が発生し,その成分だけが異常な挙動を示したと考えるしかありません。 まずカラムを 洗浄してみましょう。(参考:イオンクロマトグラフィーに用いるカラムの洗浄方法
 
【注意】
カラムの洗浄は必要なときにのみ実施してください。 みだりに組成の異なる溶液を通液したり,本来の通液方向とは逆向きに溶液を流したりすると,充填剤の性質に変化 をもたらして性能低下や圧力上昇の原因となることがあります。

 一方,複数の成分で同じようにピーク割れなどが起きる場合は,むしろ物理的な要因と考えるのが妥当です。 すなわち,インジェクタ,インジェクタとカラムの間の配管,そしてカラムの入口付近のどこかに死容積 (デッドボリューム) が生じ,そこで試料バンドが不均一に 広がっているのです。 このような場合は,カラムを洗浄しても問題は解決しません。
 

流路内の隙間(液溜まり)

 複数のピークについて形状が不良の場合は,前項と同じくガードカラムを外して回復するかどうかを確認しましょう。 外して回復するならガードカラムを交換,回復し ないようならメインカラムが原因の可能性大です。

 一方,原因がカラムではなく,インジェクタやインジェクタとカラムをつなぐ配管であるケースも考えられます。
 配管がきちんと奥まで差し込まれていない状態で接続されていると,死容積が発生して試料バンドが不均一に広がります。 インジェクタからカラム入口にかけてのどこ かにこのような場所があると,クロマトグラム上にその影響が顕著に現れます。 念のため,配管を点検しましょう。

 
Q: りん酸イオンのピークがだんだん小さくなり,あるときからまったく出なくなりました。原因は何でしょうか。(お問い合わせ番号IC0604)
A:
試料中の金属イオンが固定相表面に吸着,沈殿したことが原因と推察されます。


 この現象は試料としてめっき液や土壌水,排水など,金属イオンを多く含む水溶液を分析している場合に発生するケースが多いようです。 サプレッサ方式,ノンサプレ ッサ方式ともに類似の報告例があります。  原因として考えられるのは,試料中の金属イオンが固定相表面に吸着,沈殿したということです。 金属イオンはアルカリ性水溶液中で水酸化物として沈殿することが知 られていますから,溶離液がアルカリ性の場合は特にこのような現象が発生する確率が高いといえます。 一方,りん酸イオンは金属と配位結合する性質を持つため,結果 としてピークが小さくなったりテーリングしたり,極端なケースではまったくピークが出なくなることもあります。
 

カラム内の金属に対するりん酸イオンの吸着

 このような現象が起こったときは,まずガードカラムを外してピークが出るようになるかどうかを確認してください。 ピークが出るようならガードカラムの問題と考え られます。 出ないようなら,メインカラム側にも問題があるものと考えられます。 疑いのある方について,以下の洗浄を試みてください。 分離カラムの洗浄は,EDTA・2Na (エチレンジアミン四酢酸・二ナトリウム塩) 水溶液を通液するのが効果的です。0.1%程度の濃度の水溶液を調製し,流速を小さくして (0.5 mL/min以下) 分析時の逆方向に数時間程度送液してみましょう。

 洗浄して効果がなければ,残念ながらカラムを新品のものに交換して下さい。
 
【注意】
カラムの洗浄は必要なときにのみ実施してください。 みだりに組成の異なる溶液を通液したり,本来の通液方向とは逆向きに溶液を流したりすると,充填剤の性質に変化 をもたらして性能低下や圧力上昇の原因となることがあります。
 
【注意】
EDTA・2Naで洗浄する場合,陰イオン分析用サプレッサカートリッジは接続しないでください。 このカートリッジにEDTAが流入すると,カートリッジ内部で析出して急激な 圧力上昇が発生し,再生不能となることがあります。
 
【注意】
分離カラムをEDTA・2Naで洗浄した後には,溶離液を分析時の流量で2時間以上通液し,EDTAを完全に洗い流してください。 特にサプレッサ方式の場合は,この操作を実施 した後でサプレッサを取り付けてください。


 固定相に吸着した金属により保持やピーク形状に影響が現れるイオンとしては,他にふっ化物イオンや亜硝酸イオンなどが挙げられます。 これらのイオンのピークだけ が選択的に変化したときは,同様のカラム洗浄法を試してみましょう。

 なお,こうした現象のほとんどはカラム内で発生しますが,ごくまれにインジェクタ内で同様の吸着が発生することが知られています。 新品のカラム,あるいは他の装 置に接続したら問題なくピークが出現するカラムを使ってもこのような現象が認められるときは,インジェクタの接液部を洗浄するか交換する必要があるものと考えられま す。
 ノンサプレッサ方式の場合は,カラムを取り外した状態で,有機溶媒 (アルコール類,アセトニトリルなど) や1 mol/L程度の酸 (硝酸など。分析・メンテナンス上問題に ならないもの) をインジェクタから繰り返し注入することにより,ある程度インジェクタを洗浄することができます。 洗浄後は水または溶離液を繰り返し注入し,洗浄液 を除去してからカラムを装着しましょう。 なお,この方法で効果がなかった場合には,インジェクタを分解して洗浄するか部品交換を行う必要があります。 多少複雑な作業となりますので,サービスマンに作業を依頼して頂くとよいでしょう。
 サプレッサ方式の場合は,サプレッサを外すと再生異常のエラーが発生して試料注入ができなくなります。 このため、サプレッサカートリッジの再生動作を一時的に停 止させる必要があります。 設定変更の方法については,弊社までお問い合わせください。 インジェクタ洗浄時は,カラムへの配管を直接廃液ボトルへ流してください。
 
【注意】
システムコントローラCBM-20AまたはSCL-10A SP と電気伝導度検出器CDD-10A SP をお使いの場合は,CDD- 10A SP のハードウェア設定を変更しない限り,サプレッサカートリッジを外した状態では試料注入することができません。 設定変更の方法に ついては弊社までお問い合わせください。

 
Q: 検量線が原点を通らなかったため,低濃度の試料を測定したらマイナスの定量値が出てしまいました。 どうしたらよいでしょう?(お問い合わせ番号IC0605)
A:
標準溶液が汚染されていたのでないとしたら,それは検量線の引き方が不適切なためです。 実試料の濃度が検量線の範囲内に 含まれるようにしましょう。


 まず,標準溶液が汚染されていたために検量線が原点を通らなかったという可能性があるので,再調製するなどしてその点を確認しましょう。 以下の議論は,そうした 問題がないものという前提で進めます。

 低濃度試料でマイナスの定量値が出てくるのは,多くの場合,検量線の濃度範囲が高すぎるためです。 0.01 mg/Lの試料を測定するのに,1 mg/L以上でのみ検量線を引い たりしていませんか?  「検量線は外挿しない」というのが,検量線法を用いる場合の基本です。 高濃度側はもちろんのこと,低濃度側に おいても検量線の最下点より下の濃度では正確な定量値は望めないものとお考えください。
 

高濃度領域での検量線(左)と,原点付近の拡大図(右)

 「ブランク試料を注入したときにピークが出なければ,検量線が原点を通るとみなしてよい」という考え方もありますが,これは必ずしも正しいとはいえません。 成分によっては,カラム内での吸着などにより,原点付近で検量線が曲がることがあるからです。
 以上のことを考えれば,やはり基本に立ち戻り,検量線の濃度範囲を一桁程度に限定した上で,実試料の濃度がその範囲内に入るよう設定するのが適切といえるでしょう 。