イオンクロマトグラフィーQ&A ■ 標準溶液の調製・試料の前処理

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Q: 標準溶液を粉末試薬を用いて調製する場合,どのような試薬を選んだらよいですか? またどのようにして 調製しますか?(お問い合わせ番号IC0201)
A: 一般に陰イオンはナトリウム塩,陽イオンは塩化物か硝酸塩を選びます。 純度がはっきりしている試薬を,所定の方法で乾燥 させてから使用しましょう。


 例えば,塩化物イオンの標準溶液を調製するのに塩化ナトリウムを使うか塩化カルシウムを使うかと聞かれたら,多くの人が塩化ナトリウムを選択するでしょう。 塩化 ナトリウムは安定で純度が明確な試薬 (標準試薬) が簡単に入手できるのに対し,塩化カルシウムは吸湿性があるため純度が一定とはいえません。  このように,標準溶液を調製するための試薬を選択する場合には,純度が明確であること,化学的に安定であること,安価で毒性が低いことなど を基準とします。 代表的なイオンについてはJISや各種公定法に使用すべき試薬のグレードが記載されていますので,それに従えばよいでしょう。 そうした規定 がない場合には,試験に支障のない最良品で,陰イオンならナトリウム塩,陽イオンなら塩化物や硝酸塩などから選択します。

 固体の試薬といっても空気中の水分を含んでいる可能性があるため,高温で加熱乾燥し水分を追い出した後,デシケーター中に保管することがJISに記載されています。  詳しくはJIS K 0127「イオンクロマトグラフ分析法通則」に記載されていますので参照してください。
日常的には,粉末試薬を110 ℃程度で 1~2時間加熱し,デシケーター中で放冷する程度でも十分と思われます。

 一例として,塩化ナトリウムの粉末試薬から塩化物イオンの 1000mg/L (1000ppm) 溶液を調製する方法を示しておきます。
 溶液 1L中に 1g (1000mg) の物質が存在すると,その濃度は 1000mg/Lとなります。 塩化ナトリウム (NaCl,分子量58.44) 中に塩化物イオン (Cl-,原子量 35.45) は

  (35.45/58.44) × 100 = 60.66 (%)

のウェイトを占めていますから,塩化物イオンが 1g存在するためには塩化ナトリウムが

  1/0.6066 = 1.648 (g)

必要となります。 つまり,乾燥した塩化ナトリウムを分析天秤で 1.648 g秤りとり,1 L容の清浄なメスフラスコに入れ,精製水を加えて溶解・定容することにより,塩化 物イオン1000 mg/L水溶液が調製できます。
 この水溶液を順次希釈することにより,希望の濃度の溶液を得ることができるでしょう。
 

 
Q: 試料のろ過はどのように行ったらよいですか?(お問い合わせ番号IC0202)
A:
イオンクロマト用のディスポーザブルフィルターを使用するのが簡便です。


 HPLCやイオンクロマトの試料ろ過用として,孔径0.2~0.5 μmのメンブランフィルターが販売されています補足1。 多く の製品は,樹脂製の注射器の先端に取り付けられるようになっており,注射器のプランジャーを押し込むだけで試料がろ過できます。

 このフィルターには水系試料用と非水系試料用があり,さらに無機イオンのコンタミネーションの少ない「イオンクロマト専用」のものもあります。 もちろん,イオン クロマト専用フィルター補足1の使用をお勧めします。

 なお,除去成分が大量に存在する場合には,あらかじめ試料を遠心分離器にかけて粒子物質を沈降させてからろ過することにより,フィルターの目詰まりを抑えられるこ とがあります。
 

 
Q: イオンクロマトの前処理用として固相抽出カートリッジ が市販されていますが,どのようなときに利用したらよいですか?(お問い合わせ番号IC0203)
A:
固相の種類により,疎水性有機物の除去,高濃度の塩化物イオンの除去など,様々な目的に利用可能です。


イオンクロマト専用の前処理向けに,以下のような充填剤を充填した固相抽出カートリッジが市販されています。補足 2
 
疎水性官能基結合シリカゲル (ODSなど)
疎水性樹脂 (ポリスチレンなど)
水に溶けにくい有機物を取り除くとき使用します。 溶存炭素量の多い下水試料中の無機イオンの測定など。
H + 型強酸性陽イオン交換樹脂 高濃度のアルカリ金属イオン,アルカリ土類金属イオンなどを取り除くとき使用します。 水酸化ナトリウム水溶液中の無機陰イオンの 測定など。
OH - 型強塩基性陰イオン交換樹脂 高濃度の強酸を取り除くとき使用します。 強酸 (塩酸,硝酸,硫酸など) 中のアルカリ金属イオンの測定など。
Ag + 型強酸性陽イオン交換樹脂 ハロゲン化物イオンが銀イオンと結合して沈殿する性質を利用し,高濃度のハロゲン化物イオン (Cl - ,Br - ,I - など) を取り除くとき使用します。 海水,汽水中の硝酸イオン,亜硝 酸イオンの測定など。
Ba 2+ 強酸性陽イオン交換樹脂 硫酸イオンがバリウムイオンと結合して沈殿する性質を利用し,高濃度の硫酸イオンを取り除くとき使用します。
キレート結合型樹脂 樹脂表面に化学結合されたキレートが遷移金属イオンと錯体を形成する性質を利用し,遷移金属イオンを取り除くとき使用します。 めっき液中の無機陰イオンの測定など。
上記の固相抽出カートリッジを組み合わせて使用する場合もあります。

 これらのカートリッジを使う方法は大変簡便ですが,ややコストが高くなります。 また,目的成分のロスやコンタミネーションが発生する場合があるため,必ず操作ブランク (精製水を用いて試料と同一の操作を行ったもの) の測定と添加回収率試験を実施しましょう。
 

 
Q: 油脂(食用油)を含む試料を分析します。C18充填固相抽出カートリッジを選択して,問題ないでしょうか? また,試料にタンパク質も含ま れるようなら,除タンパクも必要でしょうか?(お問い合わせ番号IC0204)
A: 完全に油分を取り除ける保証はできませんが,C18固相抽出カートリッジと0.2μmメンブランフィルタによる前処理をして ください。


有機溶媒を含まないイオンクロマトの移動相で油分を含む試料を分析した場合,カラム,オートサンプラ,流路に油分が残ることで以後の分析に悪影響が出る可能 性があります。
もっとも確実な方法は,限外ろ過ですが,手間と時間を考えるとC18固相抽出カートリッジと0.2μmメンブランフィルタによる前処理がお勧めです。
いずれにしても,油分中のイオンを超純水で抽出する作業は必要です。
一方タンパクは、移動相(超純水で80%程度に希釈)で抽出すれば,変性などで析出するので,カラムに詰まる可能性のあるものは, 抽出後のメンブランフィルタによるろ過で除去できる可能性が高いです。
 



 


補足1:試料ろ過用ディスポーサブルフィルター

処理する試料の量に合わせてお選び下さい。

形状
部品名称 フィルター25AI フィルター13AI フィルター4AI
部品番号 670-12540-13 670-12540-12 670-12540-11
孔径 0.45 μm 0.45 μm 0.45 μm
膜直径 25 mm 13 mm 4 mm
個数/箱 100個入 100個入 100個入

 *10個ずつ小分けしてあり,クリーンな状態で保存できます。
 

 また,さらに孔径の小さいものもあります。(ポール社製)

部品名称 イオンクロマトアクロディスク25 イオンクロマトアクロディスク13
ジーエルシー部品番号 4583T 4483T
孔径 0.2 μm 0.2 μm
膜直径 25 mm 13 mm
個数/箱 50個入 100個入
 *株式会社島津ジーエルシーで取り扱っております。⇒アクロディスク詳細

 

補足2:固相抽出カートリッジ

部品名称 マキシクリーン イクストラクトクリーン
容量 0.5mLまたは1.5mL 0.5mLまたは1.5mL
保持容量 0.2~0.8meq(0.5mL), 0.5~1.5meq(1.5mL) 注)
個数/箱 50または25個入 50または30個入
IC-RP (ポリスチレン),IC-OH (OH型強陰イオン交換樹脂),IC-H (H型強陽イオン交換樹脂),IC-Ag (Ag型強陽イオン交換樹脂),IC-Ba (Ba型強陽イオン交換樹脂) ,IC-Na (Na型強陽イオン交換樹脂),IC-キレート (キレート結合型樹脂) などの種類があります。
Alltech製ですが,株式会社島津ジーエルシーで取り扱っております。
注射器または真空マニホールドを使って試料溶液を通液します。
注) 保持容量は充てん剤樹脂により異なります。詳細な情報はGLCの製品ページでご確認ください。