既存LCシステムの構成に変更を加えた有効活用法

カラム内径のサイズダウン(セミミクロ化)

原理

 同じ充てん剤でカラム内径の小さいカラムを使用すると,カラムの(内径)2に応じて移動相消費量を減らせます。内径2mm,長さ150mmのセミミクロカラムと内径4.6mmで同じ長さのコンベンショナルカラムに同質量の試料を注入したとします。移動相線速度を等しくすれば (下図では1.0mL/minと0.2mL/min) カラムの長さは同じですので,成分溶出位置 (保持時間) は同じになり,移動相消費量を1/5に減らせます。セミミクロLCと呼ばれています。

メリット

 最近は同じ充填剤を用いた4.6mmI.D.カラムと2mmI.D.のカラムが両方ラインナップされていることが多いです。分離選択性は基本的には同程度(充填の仕方が多少異なるので,パターン等が異なる場合もあります)なので,同様のクロマトが得られる可能性が高いのがセミミクロ化の特長です。

注意点

 但し、セミミクロLCでコンベンショナルカラムと同様の分析結果を得るためには留意点があります。
固定相充填剤が同じものであれば,同じカラム長では移動相流速方向への試料の拡散も同程度となるのでカラム溶出部での成分バンドの幅(右図のaとb)は同じです。bの断面積はaの1/5ですからセル部を通過する試料成分の濃度は両カラムの移動相流量比に対応して5倍,すなわちレスポンスは5倍となります。これを質量感度と呼び,カラム内径が小さいほど増大します。ところがこの効果は試料注入の容量が無視できると仮定した場合の話であり,実際には注入容量の影響がありますので,純粋に同じクロマトグラムを得るためには注入容量もカラム断面積分だけ少なくする必要があります。図の例 (AとC) では1/5ですので注入試料容量は1/5となり,結局レスポンスは等しくなります。これを濃度感度と呼び,カラム内径にかかわらず一定になります。
セミミクロLCでは,後述するようにカラム断面積に応じてカラム外拡散を押さえるため,流路には内径の小さい配管が使われます。UV検出器のフローセルについても細い方が適切ですが,光路長が短くなったり,光路の断面積が小さくなって光量が減るため吸収レスポンスは小さくなります。通常ノイズレベルはあまり変わりませんので感度は低くなる可能性があります。

制約事項

 一方,配管などによるカラム外拡散の影響を抑えることが重要です。
 下図はp-ヒドロキシ安息香酸アルキルエステル4成分をセミミクロLCシステム/コンベンショナルLCシステム (UV検出器セルも含めて) にセミミクロカラムを組み合わせて分析した例です。コンベンショナルLCシステムではカラムサイズに比較してカラム外容量が大きすぎ,理論段数の著しく低下していることがわかります。

配管内径 0.3mmI.D.⇒0.13mmI.D.
グラジエントミキサ 0.5mL (標準最小)⇒100μL(セミミクロミキサ)
検出器セル 8μL⇒2.5μL(セミミクロセル)

 セミミクロカラムを用いる際はカラム外拡散を抑制するためにカラムの内径に合せて,流路の配管,検出器セルのサイズの小さいものをお使い下さい。また,流路全体のサイズダウンに合せてグラジエントミキサも小さいものを使います。 オートインジェクタについても,サンプルの通過する部分の配管内径に配慮します(SIL-20Aシリーズ,SIL-10ADvp,SIL-HTは配管内径は0.13mm)。

 またコンベンショナルLCに比べ,送液ユニットに低流量域での流量正確さや精密さなど送液安定性,オートサンプラについては微量注入時の注入再現性が求められます。 Prominenceシリーズはそのような基本性能を満たしています。キャリーオーバーの影響が相対的に大きくなるため,SIL-20Aのようなクロスコンタミネーション低減対策(直接注入方式,ニードル表面材質,ニードル洗浄,バルブ材質など)されたオートサンプラが望ましいです。

 既存LCシステムが低流量送液や微量試料注入に対応できる場合,セミミクロ化は大きな省溶媒化が期待できます。
 セミミクロカラムをお探しの場合は, 島津ジーエルシーまでお問い合わせください。

超高速分析による省溶媒化の実現とランニングコストの削減

分析の高速化による分析時間の短縮

分析はどれくらい高速化できるのでしょうか? 例えば,セフェム系抗生物質12成分の分析は汎用LCで27.5分かかっていた分析を,超高速HPLC UFLCでは4分で分析できます。 UFLCでは汎用LCに比べて,溶媒消費量は約1/7に削減できます。 また,省溶媒化はLCおよびLC/MSのランニングコストの引き下げに大きく貢献します。 多検体連続分析を行う場合,これまでならば,3Lガロンビンで用意していた移動相が,わずか500mLビンで十分足ります。

では,どのような方法で分析の高速化を図ればよいのでしょうか?  「寸法(長さや内径)の小さなカラムに交換する」あるいは「送液ポンプの流速を上げる」を実施すれば,分析スピードはアップします。
しかし,真の分析の高速化のためには,分析時間を短縮した後においても,

 (1) 目的ピークが全て溶出している。
 (2) 目的ピークの分離が維持されている。

を満足する必要があります。


単純に「寸法(長さや内径)の小さなカラムを使う」あるいは「流速を上げる」だけでは,分離にかかる作用が短くなるため,ピークの分離が悪化します。 高速性を維持したまま,ピークの分離悪化を抑制するにはどうすれば良いのでしょうか?

理想的な高速分析とは?

 分離を損なわず分析を高速するには,「より小さな粒子径の充てん剤を充てんしているカラム」を採用します。 より微細な充てん剤には,「流速を上げたり短いカラムに置き換えたりすることによって生じる分離能の悪化を抑制する効果」があるからです。「微粒子充てん剤のはなし」で説明しましたように,van Deemterの式に従って充てん剤の粒子径を小さくするほど,理論上は,より分離能の高い分析が可能になります。
しかし現実的には,充てん剤の粒子径を小さくしすぎると,さまざまな要因によって,van Deemterの式からの乖離が生じることになります。  例えば,粒子径を小さくしすぎると,充てん剤同士の隙間が小さくなりすぎるため,通常の流速であるにもかかわらず,非常に高い圧力が発生します。 すると,移動相とカラム充てん剤との間で摩擦熱が生じ,これが原因でカラム内部に温度ムラが発生。 その結果としてピークがブロードになるため,分離の悪化を招くことになります。「粒子径を小さくてして,とにかく高圧をかける」という馬力頼りでは,理想の高速分析は達成できないといえます。
そこで,Prominence UFLC,XR-ODSシリーズは,van Deemter理論からの乖離をできるだけ抑えた状況下で高速分析を実現する上で必要な機能が予め搭載されています。

 

溶媒リサイクル

概論

 省溶媒化のひとつとして,検出器の出口から出てくる溶出液の一部を移動相ボトルに戻す「溶媒リサイクル」という方法があります。 吸光光度検出器SPD-20A(V)やSPD-10A(V)vpなど,あるいは一体型LC-2010シリーズのオプションとして用意している「リサイクルバルブキット」を用いると,検出器セルから排出された移動相を移動相ボトルに回収できます。

SPD-20A(V)用溶媒リサイクルバルブキット

原理

 溶媒リサイクルバルブキットでは,吸光度レベルのしきい値を設定して,吸光度がしきい値以下の時だけ回収します (LC-2010の場合は正側に現れたピークのみに機能し,SPD-20A(V)やSPD-10A(V)vpは正と負の両側に現れたピークに対して機能します)。ピーク数が少ないほど移動相ボトルへのリサイクル量が多くなり、溶媒消費量を削減できます。

注意点

 長期間にわたって移動相を利用し続けることなく,定期的に作り直すことを心がければ,溶媒リサイクルを成功させることができます。 なぜならば,長期的に再利用を続けた場合,移動相溶媒の蒸発によって移動相組成比が変わってしまい,その結果として分離パターンに変化が生じる恐れがあるためです。 また,試料中の夾雑物,例えば設定波長では検出されなかった成分(右図参照)も移動相ボトルに回収されてしまうため,長期にわたってリサイクルを実施すると,移動相は次第に汚染されます。 このように,長期間のリサイクルは,ピークの分離に対して影響を及ぼしたり,ベースラインノイズが増大したり,カラムへのダメージが生じたりする恐れがありますが,対象試料の特性や用意する移動相の量によるものの,短期的な再利用においては,無視することができます。 なお,移動相の汚染を考えた場合,溶媒リサイクルは,分析対象成分や夾雑成分が多い試料よりも特定成分しか含まれない試料に適しているといえます。


 溶媒リサイクルに起因するトラブルを抑制する方法のひとつとして,検出波長とは異なる他の波長で同時モニターを行えば,夾雑ピークによる移動相の汚染を低減することができます。 二波長同時測定 * が可能なSPD-20A(V)やSPD-10A(V)vp,LC-2010シリーズなら,容易に夾雑物の確認ができます。また,試料注入量を少なくすることでも移動相の汚染を抑制できます。


* 二波長同時測定の場合,Ch1で設定した波長のクロマトグラムを元に,しきい値に従ってリサイクルします。 Ch1にデータ採取の検出波長より短い波長(210~220nm)を設定して,夾雑物のリサイクルを防ぐことができます。 リサイクル中は,検出器本体のSVランプが点灯します。


 一方,移動相の汚染状態を確認する方法のひとつとして,移動相と同じ溶媒を試料として注入してみます。 すると,目的成分の溶出位置付近で負のピークが確認される場合があります。 移動相内における目的成分の含有量は,リサイクルを繰り返すに従って微量ながら増え続け,これに起因する吸光度の増加が無視できない大きさに上昇すると,この現象が発生します。 このような現象がみられた場合は,移動相を新しいものに交換してください。

制約事項

 なお,上図の流路からわかるように,溶媒リサイクルはイソクラティック分析に対して有効であり,グラジエント分析には利用できません。 同様の理由で,グラジエントシステムを用いたイソクラティック分析(グラジエントシステムで移動相を一定組成で混合)でも利用できません。

HPLC移動相としてよく使われるアセトニトリルが入手困難,流通不足,在庫不足と言われています。溶媒消費量削減するため対策ページです。