6.4. 選択的高感度検出器
ガスクロマトグラフ(GC)
6.4.1. 電子捕捉検出器(ECD:Electron Capture Detector)
親電子性化合物に対する選択的高感度検出器です。有機ハロゲン化合物,有機金属化合物,ジケトン類などを検出できます。 放射性同位元素が装着されていますので,設置の際には文部科学省への使用届け出が必要です。
【主な応用例】 環境分析 残留塩素系農薬・残留PCB 排水中の塩素系VOC 環境中有機水銀 |
ECD検出器の概略図
ECDの検出原理です。 コレクタに捕集されるイオン電流を一定にするための電圧値の変化を読み取り,検出します。
キャリアガスとして用いられるN2は,63Ni線源から放出されるβ線によってイオン化される
N2 → N2+ + e- コレクタに捕集されると電流が流れる
ここに親電子化合物が入ってくると
PCB + e- → PCB-
e-に比べてPCB-は極めて大きく重いので,コレクタに到達するまでに時間がかかる
⇒一定のイオン電流を流すための電圧が上がる
6.4.2. 熱イオン化検出器(FTD:Flame Thermionic Detector)
有機窒素化合物,無機・有機リン化合物に対する選択的高感度検出器です。(リン化合物に対する選択性は,FPDの方が良いです。)無機窒素化合物には,応答しません。
【主な応用例】 医薬品分析 窒素系農薬・リン系農薬分析 |
FTD検出器の概略図
FTDの検出原理です。 コレクタに捕集されるイオン電流の変化を読み取り,検出します。
アルカリソース(ルビジウム塩)を付着させた白金コイルに電流を流して加熱すると,アルカリソースの回りにプラズマ状の雰囲気ができる。
この中にRb*(ルビジウムラジカル)が生成され,
・CNおよび有機リン化合物が酸化してできる
・PO2がRb*と下記のように反応し,イオンとなる
CN + Rb* → CN- + Rb+ コレクタに捕集されると電流が流れる
PO2+ Rb* → PO2-+ Rb+
6.4.3. 炎光光度検出器(FPD:Flame Photometric Detector)
リン(P)化合物,硫黄(S)化合物,有機スズ(Sn)化合物に対する選択的高感度検出器です。水素炎の中で発光する元素特有の光を検出するため,選択性が高い検出器です。
【主な応用例】 リン系農薬分析 硫黄系悪臭分析・食品香気成分分析 海産物中の有機スズ分析 |
FPD検出器の概略図
FPDの検出原理です。
硫黄化合物,リン化合物,有機スズ化合物は,燃焼するとそれぞれ固有の波長の光を発生します。 フィルタを通すことにより,その波長の光のみが光電子増倍管に到達します。 光電子増倍管により,光の強さが電気信号に変換されます。
6.4.4. 化学発光硫黄検出器(SCD:Sulfur Chemiluminescence Detector)
硫黄(S)化合物に対する選択的高感度検出器です。感度が高く,極微量の硫黄化合物を検出することができます。
同様に硫黄化合物を選択的に検出することができるFPDよりも約一桁高い感度を有しており,感度が試料濃度に一次関数比例する点がFPDと異なります(FPDは二次関数比例)。また,SCD検出器は等モル感度を持っており,硫黄化合物を構造によらず同じ相対感度で測定できます。
この特徴により,標準試料が入手できない化合物であっても,他の化合物の検量線を用いておおよその濃度を知ることができます。
また,SCD内部は減圧環境下に保たれていることも,他の検出器と大きく異なります。
【主な応用例】 石油やガス中に含まれる極微量硫黄化合物の検出 ガソリン中の硫黄化合物測定 食品香気成分分析 飲料中の揮発性硫黄化合物測定 |
SCD検出器の概略図
SCDの検出原理です。
化学発光硫黄検出器(SCD)は,オゾン酸化法による化学発光反応を利用した検出器です。
非常に高温(1000℃付近)な酸化還元炉内において,硫黄化合物は化学発光可能な化学種X-S(主にSO)に変換されます。 その後,検出部に運ばれた化学種X-S(主にSO)はオゾンにより励起状態のSO2*(ラジカル)となります。SO2*は基底状態に戻る際に発光を伴うため,その光を光電子増倍管によって測定することにより,硫黄成分の検出を行っています。