顕微鏡測定のテクニック −透過法−

FTIRノウハウ・実務編

FTIR TALK LETTER vol.5(2005)

赤外顕微鏡測定については, FTIR TALK LETTER Vol.3にてサンプリングアクセサリの紹介, Vol.4にてアクセサリの使い方をご紹介しましたが,今回は分析テクニックをご紹介します。
透過測定の場合には,窓板として ダイヤモンドセル や KBr,BaF2などをよく使用しますが,良質のスペクトルを得るためにはさまざまな注意を必要とします。ダイヤモンドセルを使用して測定する場合について,4つの注意点をご説明します。

(1)ダイヤモンドセルの使い方

ダイヤモンドセルは2枚1組になっており,試料を2枚のセル板にはさんで締め付け押しつぶします。その後,試料が付いているセル板1枚を用いて測定します。

ここで2枚のセル板を重ねたまま測定した場合,試料自体のスペクトルに干渉縞が重なることがあります。
カフェイン粉末をダイヤモンドセルで分析した例を図1に示します。赤線がセル板1枚の上で測定したスペクトル,青線がセル板2枚ではさんだ場合のものです。

ダイヤモンドセル(サンプル圧延時)
ダイヤモンドセル
2枚のディスクでサンプルを圧延

 

ダイヤモンドセル構造
ダイヤモンドセル構造
左図のA-B部分 断面模式図

図1を見ると,ダイヤモンドセルを2枚重ねて測定した場合には干渉縞が重なり,ベースラインが100%を大きく超えていることが分かります。干渉縞はダイヤモンドディスク間が平行になることによって起こります。
さらに2枚のセル板を重ねたまま測定すると,特にダイヤモンド自体の吸収がある2000cm-1付近のノイズは大きくなります。
以上のような理由で,通常はダイヤモンドセルで試料を押しつぶした後,試料の付いているセル板1枚のみを使用して測定します。ただし,例外としてゴムのように弾力性のある試料の場合は,2枚のセル板にはさんだ状態で測定することがあります。

透過スペクトル セル板1枚と2枚の違い
図 1. カフェイン粉末の透過スペクトル
 セル板1枚と2枚の違い

(2)試料量

測定する際に必要となる試料量は極微量です。試料量が多すぎると,ベースラインが低下したりピークが飽和したスペクトルになります。その一例を図2に示します。試料はカフェイン粉末です。赤線は試料量が適量の場合,緑線は多い場合のスペクトルです。
試料量が多ければ,薄く押しつぶすことができないために膜厚の厚い状態での測定になります。その結果図2の緑線のように,ベースラインが下がったり,傾いたり,またピークが飽和してしまい,スペクトルの解析を困難にします。
このように,試料量については,ダイヤモンドセル上で薄く調整できる程度の量をサンプリングすることが必要です。

試料量の影響
図 2. カフェイン粉末の透過スペクトル
試料量の影響

(3)バックグラウンド測定もしくは試料測定の "位置"

バックグラウンド(BKG)測定もしくは試料測定の "位置" をどこに決めるかによっても,スペクトルは影響を受けます。
BKG測定位置 については試料測定位置のなるべく近くで行なった方がベースラインがほぼ100%に近い良好なスペクトルになります。
セルロース繊維について,ダイヤモンドセルの隅でBKGを測定した場合(図3中のBKG1)と試料近傍でBKGを測定した場合(図3中のBKG2)のスペクトルを図3に示します。
ダイヤモンドセルの中央付近と周辺付近とを比較すると,赤外光の透過する量が異なり中央から離れた場所でBKG測定を行なうと光量が減少します。その結果として,試料測定で得られるスペクトルのベースラインが100%を超えることがあります。したがってダイヤモンドセル中央に試料を置き,BKG測定は試料近傍で行ないます。もし,試料がダイヤモンドセルの中央から離れた場所にある場合には,BKG位置も中央から離れた試料位置近傍で測定することが必要になります。

BKG測定位置の影響
図 3 繊維状異物の透過スペクトル
BKG測定位置の影響

次は 試料測定位置 についてです。試料表面が平滑に見える位置で測定した場合には,ベースラインに干渉縞が出現することがあります。ポリプロピレン(PP)の測定例を図4に示します。図4の挿入写真は実際測定した場所を示しています。
このようにベースラインに干渉縞が現れると,小さいピークが干渉縞に隠れる場合もありますので注意が必要です。

試料測定位置の影響
図 4. ポリプロピレン(PP)の透過スペクトル
試料測定位置の影響

(4)アパーチャのかけ方

試料(異物)がある程度大きい場合,アパーチャを大きくするよりも,50μm前後に設定し,さまざまな場所でスペクトルを測定する方法が有効です。各測定位置での結果に差異がなければ,異物は単一成分もしくは均一な混合物と考えられます。ピークの飽和や干渉縞による影響のないスペクトルを用いてスペクトル検索などの同定・解析を行ないます。
一方スペクトル間に差異が見られる場合,異物は不均一に混ざった混合物であることが考えられます。このような場合には,差異が見られるスペクトル間で差スペクトルを求めることにより,各成分ごとのスペクトルを得ることができます。紙面上の異物をかき取って測定した例を図5に示します。設定したアパーチャの大きさは30×30μmです。

紙面上異物の透過スペクトル
図 5. 紙面上異物の透過スペクトル
測定位置違い2種

測定位置によって,1500cm-1付近の強度が強い位置 (図5中のS-1)と1000cm-1付近の強度が強い位置 (図5中のS-2) があることが分かります。1000cm-1付近のピークは正常部分の紙成分(セルロース)です。したがって,図5のS-1からS-2のスペクトルの差を計算すると,異物のみのスペクトルを得ることができます。得られた差スペクトルを図6に示します。
図6の差スペクトルに対してスペクトル検索を行なった結果,異物部分は炭酸マグネシウムであることが分かりました。

差スペクトル
図 6. 差スペクトル

今回は,赤外顕微鏡を用いた透過測定における「ダイヤモンドセルの使用上の注意点」について紹介しました。これらのことに注意しながら,赤外顕微鏡をより有効にご活用下さい。


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