vol.15 飲料缶、食缶における異物混入の市場クレーム事例

執筆者紹介

若杉 佳代 先生

大和製罐株式会社 総合研究所 第5研究室 (ご所属・役職は2010年9月発行時)

はじめに
弊社では飲料缶を主要製品とし、食缶、エアゾール缶、チューブなどの製造を行っています。IR分析装置は研究開発や材質調査の他、異物調査に使用しています。
異物の発生は得意先、消費者に多大な迷惑を与えるものであり、弊社全体に対する信頼を失墜させるものです。異物の発生状況を把握することにより、改善策を立てる上で適切な対応が素早く出来、問題解決の近道になります。また、クレームの発生を予防し、製品の品質向上にも大いに貢献できるものと考えます。そのためにも弊社では製造現場で使用している材料、発生したゴミをあらかじめ調査し、データベース化することを進めています。このときIRは非常にその威力を発揮してくれます。
しかし、異物は製造ライン以外でも発生します。今回は製造現場以外で混入したと思われる(製造現場での混入が考えにくい)異物について他社製品も含め、実際に市場クレームとして弊社に持ち込まれ調査を行った事例を紹介します。

事例

<事例1>
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果汁飲料缶:直径20mmの緑色を呈したプラスチックのボール状、中は空洞で一部2mm程の穴が開いています。
IR分析結果:ポリエチレンを示しました。形状と併せ、子供用玩具と推測されます。

 
<事例2>
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炭酸飲料PET:直径6mm、肌色を呈した球体のプラスチックです。
IR分析結果:ポリスチレンです。エアガンに使用されるBB弾と推測されました。
過去にも同一の異物が発生しています。

 
<事例3>
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炭酸飲料缶:約40×25mmの不織布で、片面に粘着性のあるゲルが塗布されています。ゲル側には格子状の模様が見られます。またメントール臭が認められました。
IR分析結果:不織布側はポリプロピレン、ゲル側はSi化合物の吸収が見られました。冷却ジェルシートと推測されます。

■ゲル状側
 
■布状側
 
 
<事例4>
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コーヒー飲料缶:長さ約18mmの針状の物質です。色は薄茶色。
IR分析結果:蛋白、リン酸塩。
EDS分析結果:P、Ca
魚骨と推測されます。

 
<事例5>
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清涼飲料缶:大きさ約20×8mm、薄いピンク色を呈した軟らかい物質です。
IR分析結果:蛋白、脂肪。魚肉ソーセージなど、魚肉類の練り製品と推測されます。
炭酸飲料缶でも類似の異物が発生しています。

 
<事例6>
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アルコール飲料缶:SOT蓋、および缶胴ネック部に青いロウ状の物質が付着していました。
IR分析結果:非イオン系界面活性剤。市販のトイレ用固形洗浄剤とIR結果が一致しました。

 
<事例7>
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果汁飲料缶:大きさ約7×7×1mm 、角の丸い四角形の青色を呈したプラスチック。
表面は光沢がありますが、裏面は茶色の物質が少量付着していました。
IR分析結果:表面:エポキシ、裏面:糖類。
木製の箸の頭の部分の塗装と推測されました。

 
<事例8>
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アルコール飲料缶:大きさ約5×1mmの黄色のフィルム片、片面に粘着剤が認められました。
IR分析結果:フィルム:塩化ビニル、粘着剤:天然ゴム、食品等包装用袋の口のテープとフィルム、粘着剤ともに一致しました。

■テ-プ基材
 
■粘着材
 
<事例9>
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コーヒー飲料ガラス容器:不定形の白色の綿様の異物に赤色や緑色の小片が混在していました。赤色の小片は顕微鏡で観察すると、茶褐色の細かい粒状の模様が見られます。
IR分析結果:赤色の小片:蛋白。タコの表皮と比較すると類似していました。白色の異物も蛋白、糖類の吸収が見られました。以上の結果より、異物は食品の一部と推測されました(たこ焼きなど)。

 
<事例10>
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コーヒー飲料缶:茶色を呈したガラス状の物質です。φ2~3mmの球状の物質が割れたと思われます。
IR分析結果:SiO2。シリカゲル。色は内容液によって着色したものと思われます。(透明のシリカゲルをコーヒーに入れると異物と同様に着色しました。)

 
<事例11>
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コーヒー飲料缶:歯車状の金属の破片。
EDS分析結果:Zn、Al。
100円ライター使用の部品と類似しています。ライターを使って缶のタブを開けようとしてとれたものと思われます。

 
<事例12>
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炭酸飲料缶:涙型の金属、細い側に輪が付いています。
EDS分析結果:表面からはNi、表面を削った部分はCu、Znが検出されました。
異物はニッケルメッキの真鍮製の金属です。外観よりアクセサリー等に使用される金属パーツ(アジャスターの一部)と推測されました。

 
<事例13>
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炭酸飲料缶:大きさ約φ1mmのだ円の粒、表面に網状の模様が見られます。
市販のミックスベリーヨーグルトに含まれるベリー類の種子を比較したところ、外観的に類似している種子が見られました。

  • <事例14>
    野菜果汁飲料缶:安全ピン
  • <事例15>
    食缶:ピアス
  • <事例16>
    紅茶飲料缶:絆創膏
  • <事例17>
    コーヒー飲料カップ:植物の一部(雄しべ)
<事例5><事例9><事例13>など食品と思われる異物の多くは消費者が当該製品と共に飲食し、口中の食品が缶内に逆流し異物と認識されたものと判断されます。

他にセロテープ、ガムテープ、毛髪や爪など人由来のもの、ガラス片、紙片(段ボール、コピー紙、ティッシュなど)、石、砂粒、木片、PPやPSなどのプラスチック片やフィルム、金タワシ、昆虫、園芸用土壌改良土(バーミキュライト)、某有名菓子メーカーの個包装の袋などがありました。

おわりに
このように、身の回りのものすべてが異物になる可能性があります。
しかし、身の回りにあるものであっても、日頃から注意していないと気がつかなかったり、異物として一部を見ただけでは判定が付かない場合が多々あります。また、肉眼で見た場合と顕微鏡で観察した場合では違って見えることもあります。
異物分析を行う方は、まずは身の回りの物をじっくり観察してみてはいかがでしょう。新しい発見があり、必ず次の分析の役に立つでしょう。

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