陸域生活圏から海洋に流れ出るマイクロプラスチックの動態調査

愛媛大学大学院 理工学研究科 理工学専攻

愛媛大学大学院 理工学研究科 理工学専攻

  • INDUSTRY

    マイクロプラスチック

  • キーワード

    MPs、粒子解析

  • 紹介する製品・サービス

    AIMsight™

マイクロプラスチック(MPs)を含む海洋プラスチックごみの多くは陸域から発生し、化学的な劣化や物理的な粉砕によって微小化しながら河川を経由し、やがて海洋へ流出すると言われていますが、その詳細な動態はよくわかっていません。MPsの中でも特に微小サイズ(1 mm未満)の粒子解析には赤外顕微鏡が活用されています。MPsの質量と投影面積との幾何学的関係として独自の相関モデルを開発され、世界中のMPs研究者から注目されている愛媛大学大学院理工学研究科の片岡智哉先生にお話を伺いました。

Customer

片岡智哉准教授

愛媛大学大学院 理工学研究科 理工学専攻

片岡 智哉 准教授

*お客様のご所属・役職は掲載当時のものです。

Kataoka Laboratory
URL https://www.cee.ehime-u.ac.jp/~tkata/index.html

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インタビュー

1:先生の現在の研究テーマについてお聞かせください。

現在のテーマは陸水におけるMPsの動態です。これまで世界中で行われてきたMPsモニタリング調査では、主に300 µmメッシュのネットを使って粒子を採取してきました。プラスチックは砕けて細かくなるほど数が増えると想定されるため、本来はサイズが小さいほど多く検出されるはずです。しかし、これまで河川で採取されてきたMPsのサイズ分布をみると、1 mm未満の粒子が想定よりも少なく検出されるという矛盾が生じていました(図1)。これは、網目より小さな粒子が通り抜けてしまい、正確に捕捉できていなかったことが原因です(図1)。そこで、これまで見落とされてきた1 mm未満の微小サイズをターゲットにした動態調査を精力的に行っています。

1 mm未満の微小なMPsの動態を把握するうえで、大きな課題となっていたのが、質量測定です。サンプリングネットで採取できる1 mm以上の粒子であれば、個々の質量をウルトラミクロ天秤で計測できていましたが、それ未満のサイズになると直接的に質量を計測することが困難になります。そこで、過去の膨大な計測データを解析し、粒子の投影面積(真上から見た面積)と質量の間に強い相関関係があることを突き止めました。この関係性は、粒子の形状特性に基づく幾何学的な関係として理論的に説明できるものでした。これまでにも粒子の厚みを仮定して体積推定に基づく質量換算式が提案されてきていましたが、これらの換算式では、質量の過大評価が生じる傾向が明らかになりました。これに対し、我々が構築した幾何学的な相関モデルは、実環境から採取された粒子の実測値に基づいています。この新たなMPsの質量推計法によって、微小なMPsの質量をより正確に推計することが可能になりました。

河川で採取されたMPsのサイズ分布

図1 河川で採取されたMPsのサイズ分布

2:当社に粒子解析ソフトを提案された背景を教えてください。

従来、FTIRや赤外顕微鏡によるMPs分析では、個数に基づく定量が主流でした。しかし、環境動態や生体影響を評価するうえで、質量や体積のデータが不可欠であり、これらのデータを効率的に取得していくことが必要でした。我々が開発した相関モデルが赤外顕微鏡等の粒子解析ソフトウェアに導入されれば、微小なMPs粒子の質量や体積も自動的に算出できるという期待がありました。そこで、長年御社のFTIRや赤外顕微鏡を利用していく中で、数年前からMPsモニタリングにおける技術的な課題についての情報交換を行っていた島津の環境経営統括室の方に相談したことがきっかけです。

世界的にも広く普及している御社の赤外顕微鏡の粒子解析ソフトウェアに我々のモデルが実装され、大変嬉しく思っています。本ソフトウェアの導入により、FTIRや赤外顕微鏡による粒子特定から、面積計測、さらには質量・体積の推計までが自動化され、分析作業の時間は大幅に短縮され、ヒューマンエラーの防止と研究効率の飛躍的な向上が期待できます。また、国内外で広く普及している製品に共通のモデルが標準実装されることで、世界中でだれがどこで測定しても客観的で一貫性のある質量推計が可能になります。

このような手法の調和化により、世界中のデータの相互比較を容易にし、地球規模でのMPs動態解明を加速させる重要な分析基盤になると期待しています。

MPsについて

3:微粒子になるほどMPsの回収や前処理は難しいと思いますが、どのような注意をされていますでしょうか?

微小MPsのサンプリングは、採水(3 L〜5 L程度)を基本としています。1 mm以上のMPsの採取はサンプリングネットによる調査がメインでしたが、微小なMPsを集めるため、より細かな目合のネットを用いると目詰りの影響が懸念されます。

そこで、橋梁からアルミバケツで河川水を採取し、アルミパック等に入れて持ち帰ったり、ポンプ採水した河川水を現地で直接ろ過をしてフィルターを持ち帰ることにしています。バケツ採水は、河川表面の微小MPsの濃度を調べる際に行い、河川水中のMPs濃度を調べる際は、ポンプ採水を用いています。バケツやポンプによる採水量は、従来のサンプリングネットによる調査の通水量(平均で15 m3)に比べると、5000分の1程度ですが、1 mm未満のMPsは1 mm以上に比べて3桁から4桁多く存在することから適切な採水量と考えています。逆に多く採水しすぎると、分析が大変になることにも留意する必要があります。

研究室に持ち帰ったサンプルは、図2の行程で前処理・分析を行っています。
まず現地採取してきたサンプルをニトロセルロースフィルター(5 μm目合)上でろ過します。
その後、フィルターを溶解し、夾雑物を酸化処理で分解し、遠心分離により比重の軽い粒子を採取します。
2種類の目合(100 μm と26 μm)のフィルターを用いてろ過し、100 μm目合のフィルターに残存した粒子はFTIRで、26 μm目合の粒子は赤外顕微鏡で分析します。

このような微粒子の前処理において重要になるのが、コンタミの防止です。我々は一連の作業をクリーンブース内で行うようにしつつ、ブランクチェックを実施して慎重に分析を行っています。これまで、この前処理で抽出した26 μm目合の残存粒子は赤外顕微鏡のポイント測定で材質を特定してきました。しかしながら、細かくなればなるほど、多くの粒子がフィルター上に残存するため、非常に分析の時間コストがかかっていました。今回製品化された粒子解析ソフトウェアにより、面積・体積の出力が可能になり、エリア測定の高速化が図られたとお伺いしています。そこで、今後は新たな粒子解析システムのエリア測定を活用して、効率的に分析を進めていきたいと考えています。

前処理の工程

図2 前処理の工程

4:当社に期待いただくことを教えてください。

粒子解析ソフトウェアの機能や正確性の向上について期待しています。特に、粒子のイメージング処理に関してAIが導入されると、より高速かつ効率的に分析ができると推測しており、この点について開発を進めていただけないかと考えています。AIを使うためには、解析PCに映像処理ユニット(GPU)を導入しないといけないため、ハードウェアを含めた検討が必要になるかと思いますが、材質同定や分析処理についてより高速かつ正確になると期待しています。

赤外顕微鏡と片岡先生

研究室では、赤外顕微鏡をはじめ多くの当社製品をご活用いただいています。大変貴重なお話をありがとうございました。

※本記事でご紹介した製品名は掲載当時のものとなります。