脳活動を非侵襲的に計測する方法にはさまざまな方法があります。とくにその中でも,機能的磁気共鳴画像(fMRI)は,認知や言語などの脳の高次機能の解明に大きな貢献をしています。しかし,fMRIは計測時に被験者は体,特に頭部を動かすことが許されず,自然な状態での脳機能の計測が難しい場合があります。これに対して,近赤外分光法(NIRS)が近年注目されています。NIRSは自然な状態での脳機能の計測が可能であり,fMRIでの計測が困難だった様々なケース,例えば,自動車や鉄道の運転時の脳機能計測や教育への応用などが期待されています。しかし,NIRSにより得られた信号の解釈については様々な議論があり,統一的な信号処理方法が定まっていないという問題があります。NIRSによって得られた信号は,測定装置のノイズや血圧変動,心拍・呼吸による影響を含んでいます。さらに,NIRS信号は測定開始時からの相対変化の値であり,被験者間の比較を行うことが難しく,課題時の一般的な傾向を評価するのが難しいという欠点があります。

多重解像度解析と標準得点化による信号処理

脳活動に無関係な信号を取り除き,課題時の一般的な脳活動を評価する方法が必要です。そこで,離散ウェーブレット変換による多重解像度解析を用いて,NIRS信号を図1のように様々な周波数成分に分解し,課題に関連する信号成分を抽出し,さらにその信号を標準得点化して,課題時の一般的な脳活動を評価する方法を開発しました。

図1 多重解像度解析

図2は原信号と多重解像度解析を用いて脳活動に関連する信号成分を抽出・再構成した信号を比較した結果です。解析後の信号のほうがOxy-Hb,Deoxy-Hbの変動がよりはっきりと確認できるようになっていることがわかります。

図2 原信号と多重解像度解析後の信号の比較

さらに3種類の難易度の異なる暗算を行っているときの脳活動をfMRIと同時計測し,開発した方法により,脳機能画像を作成しました。ここでは,多重解像度解析後のNIRS信号を標準得点化し,被験者9名分の加算平均を求め,脳機能画像を作成しています。
図3にfMRIとNIRSによる脳機能画像を比較したものを示します。どちらも難易度が高い暗算を行っている時ほど,前頭葉両外側部が活動していることがわかります。

図3 NIRSとfMRIによる脳機能画像の比較(被験者9名)

NIRS信号の解析方法として,離散ウェーブレット変換による多重解像度解析と標準得点化を組み合わせた解析方法を紹介しました。暗算を行っている時の脳活動をfMRIと同時計測し,この紹介した解析方法により作成した脳機能画像とfMRIの結果を比較した結果,同様の傾向を確認することができました。
今後はこの解析方法を利用して,fMRIでは計測が困難な課題への応用,例えば自動車運転時のドライバの脳活動計測への応用,さらには,考えただけで機器を操作することができる技術であるブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)への応用などへの展開が考えられます。

(データご提供:日本大学生産工学部機械工学科 綱島 均先生)
*本データはFOIRE/OMMシリーズを用いて取得したものです。

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