実試験とCAE解析を融合した複合材料解析技術の紹介

Q : 短繊維やタルクで強化したFRTP射出成形品に適用できるCAEもありますか?

A : 一般的な樹脂流動解析ツールでは,流動の影響を加味して,短繊維等の添加材の配向分布を予測することができます。また,製品によっては,その配向分布を弾性率分布などの物性値情報に変換して,構造解析や伝熱解析などと連携することもできます。当社が開発している樹脂流動解析ツールのPlanetsX(※1)でも連携ができます。
ただし,流動解析ツールでは,添加剤の形状を,任意にアスペクト比を定義した回転楕円体を仮定することがほとんどなので,もしタルクがこの仮定から大きく逸脱するような形状の場合には,計算誤差が出てしまうかもしれません。

Q : CAEと実データの関連付けには膨大なデータが必要と思われます。もし,Multiscaeを導入した際にはゼロからデータをとって実データとの関連付けをしていかないと駄目なものでしょうか。ある程度実績データが用意されているのでしょうか。

A : 今回紹介したANSYSに限らず,多くのCAEツールでは,標準で材料データベースが付属していることが多いですが,決して豊富ではなく,お客様の対象材料が,その中に含まれている保証はございません。最近では,より豊富な情報を網羅した材料データベース(※1※2)も別途販売されておりますので,それらをご検討いただくのも一つの対策だと考えます。

Q : X線CTとMultiscale.Simによる短軸引張試験の事例について,織物材料が対象でしたがSMCのようなチョップ材でも同じ検証はできるものでしょうか?

A : 正直,当社での解析実績はありません(2020年9月現在)が技術的には可能であると考えます。ただし,連続繊維材と比較して,微視構造が複雑になりますため,計算コストが大きくなる傾向があります。弾性率や熱伝導率などの線形解析の特性を取るくらいであれば,それほど問題にならないかもしれませんが,弾塑性や粘弾性などの非線形の特性を取得されたい場合には,かなりハイスペックな計算マシンをご準備いただく必要があると考えます。具体的な計算コストは,チョップ材の繊維長などの幾何条件に依存するため,一概には申し上げにくいです。

Q : X線CT撮影からSimplewareを使い,Multiscale.Simと連携された事例について織物構造のCFRPを対象とされていましたが,SMCのようなチョップ材でも同じ検証ができるものでしょうか?

A : 同上

Q : 解析結果と実験結果の数値誤差が何%だと妥当な結果が得られたと判断するのでしょうか。その考え方をご教示いただきたいです。

A : 解析に要求される精度はお客様の目的によって様々であるため,一概に申し上げることはできません。さらに,実験そのものにも誤差は乗るため,定量的に妥当と判断する線引きはより難しくなります。 一方,材料情報はあらゆる解析の最も基本となるデータであるため,解析精度に与える影響は大きく,慎重に準備する必要があります。そのため,クーポン試験のような,不確かさの少ない基礎的な条件においては,実測と解析の誤差を最小限に抑えられるよう準備することが重要です。

Q : 講演内容と少しずれてしまうのですが,複合材料でもガラス繊維を含有させたような複合材料の場合,流動のさせ方,製品形状により繊維の配向方向,度合いが異なり,ヤング率や減衰比等が異なってしまいます。となると,試作品なしでの予測が難しく困っています。
こういった繊維強化樹脂に関して,試作前の段階でCAEを活用する方法についての知見(統計的な手法でも構いません)がもしあれば,ご教示いただけますでしょうか?

A : 最近はCAEを製品設計のより上流段階から活用しようとする動き,いわゆるフロントローディングの取り組みがとても盛んです。ご質問はまさにその点に関連するものと思います。
射出成型品に関しては,成形プロセスの考慮が非常に重要となるため,CAEでは樹脂流動解析を併用して,繊維の配向分布やそれに起因する弾性率の分布などを予測します。本解析を実施するための汎用ツールも多く存在しており,当社でも自社開発しております(※1)。 解析のためには,樹脂の材料特性をご準備いただく必要がありますが,近年は材料データベース(※2, ※3)も豊富になってきているので,お客様の対象材料と合致する,あるいは類似する材料のデータを参考値としてはご利用いただくことで,実測の負担を少しでも減らすことができると期待しております。

Q : 複合材料の解析では,マルチスケールのアプローチを用いることが一般的ですか?

A : 最近は少しずつ材料データベースも拡充されてきており,実試験や仮想試験を実施せずとも物性値の情報を取得することが少しずつできるようになったきました。しかし,まだまだ十分ではありません。データベースが存在していても,特定の変形モードの剛性値だけが記載されていて,解析に必要な情報が全て網羅されていないことも非常に多いです。そのような場合には,今回紹介したような仮想的な材料試験によって不足している情報を補うことが必要になります。
本講演では,均質化法と呼ばれる手法を紹介しましたが,等価介在物法(別名,平均場法)と呼ばれる手法もあります。こちらは手法は計算コストが比較的軽いため,短繊維分散材ような複雑かつ,場所によって微視構造が異なるような,成型品に適用されることが多いです。

Q : 複合材料の中には周期境界を設定することが困難な形態もありますが,このような場合に使用可能なソフトウェアや適用可能な手法はありますでしょうか?

A : ご指摘の通り,均質化法はユニットセルモデルに対して周期対称性を定義するため,一方向強化材や織物材などの連続繊維系の複合材料との相性が高い傾向はあります。しかし,フィラー充填剤や短繊維分散材においても,体積含有率や繊維配向率などの,統計的な情報さえ正しくモデルに反映されていれば,現実的な等価物性値が得られることが,いくつかの論文によって示されております。

Q : 均質化解析では,材料界面の剥離も考慮できますか?

A : 考慮可能です。Multiscale.SimはANSYSのアドイン製品であるため,ANSYSがサポートしているあらゆる非線形性と組み合わせて解析を実施することができます。解析は良くも悪くも定義した通りの挙動しか結果として現れません。剥離を考慮されたい場合には,界面が剥離すること,そしてその剥離挙動の材料パラメータ(剥離が開始する界面応力や亀裂進展の応力解放率 etc.)を与える必要があります。微視構造内の材料界面の特性を計測することは簡単ではないので,そのあたりの入力情報を準備するところに,技術的なノウハウが必要になってくると考えます。

Q : 実試験と仮想試験の誤差を縮める手法をご教示いただけますでしょうか。

A : 最適化解析を併用するのが最も容易かつ現実的なアプローチだと考えます。最適化解析では,解析データに対して入力および出力パラメータを設定し,出力パラメータが最小となるような入力パラメータの組み合わせを探索します。逆解析においては,実試験と仮想試験間の誤差を出力パラメータに設定し,未知の解析条件を入力パラメータに設定します。手動で入力パラメータを微調整することも可能ではありますが,最適化解析では,その調整を自動的に行ってくれます。

Q : 逆解析は解析と実験との差異が物性に起因する,としてフィッティングする手法だと理解しました。境界条件のような別因子にも差がある場合,それら全てが含まれた物性になると思います。解析と実験の差が物性だけであることをどう担保すればいいのでしょうか?

A : 物性値の同定を目的に逆解析を実施される場合には,物性値以外の不確定要素が入らないよう,極限まで簡素化した条件で実測データは準備するべきです。ダンベル試験片を使った単軸引張試験がその代表格になるかと思います。

Q : CTスキャンで測定した結果をどのようにしてモデルに反映するのですか?

A : CTスキャンで奥行方向に複数枚撮影したデータに対して,画像処理によって材料界面を抽出して,stl形式の3次元モデルに変換するためのソフトウェアが存在します。今回のプレゼンテーションでは,そのツールとしてSimplewareを使った例を紹介させていただきました。これらの画像処理は手動で実施することはほとんど不可能ですので,何らかの画像処理ツールを併用することがほとんど必須です。

Q : 逆解析をして実試験と整合のある条件となった場合,それは唯一の解と考えるのでしょうか。全く違う条件で同じように実試験と整合が出る結果が出ることが考えられるでしょうか。

A : 不確定要素が多い場合には,実試験と仮想試験の結果が一致する条件が複数パターン現れることも起こりえます。そのような問題を避けるために,逆解析は不確定要素が少なくなるように,極力シンプルな条件からはじめることが推奨されます。材料物性値を同定する場合には,クーポン試験片レベルの実試験データを用いることが推奨されます。物性値以外の不確定要素が存在しないためです。このようにして,簡単な形状から少しづつモデルを複雑化していき,最終的な実製品レベルの解析へと昇華させていく流れは,ビルディングブロックアプローチと言われており,物性値の計測が困難な複合材料においては特に重要とされております。

Q : ロバスト設計にはCAEのinputにバラつきを考慮して,数十回計算する必要がありますか?inputのバラつき(分布)から直接,出力の分布を得ることはできますでしょうか?

A : いくつかのCAE解析はやはり実施しなければなりません。ただし,代表的な入力値の組み合わせをピックアップして解析します。このピックアップは解析ツールが実験計画法に基づいて自動的に決定します。組み合わせの数(=CAE解析を実施する回数)は,入力変数の数によって変わりますため一概には言えませんが,一例をあげると,ANSYSがデフォルトで採用する実験計画法においては,入力変数の数と解析回数は以下のようになります。

入力変数の数 入力変数の組み合わせ数(CAEの解析回数)
1
2
3
4
5
5
9
15
25
27

代表的な条件における出力が得られたら,入力vs出力の関係を何らかの関数で表現します。これを応答曲面と呼びます。ここまでの処理が済めば,任意の入力変数値における出力はCAE解析をせずに,応答曲面を使って予測することができるようになります。以上がロバスト設計の流れであり,ほとんどの処理は解析ツールの中で自動化されます。

Q : ロバスト設計のためにばらつきを取得する必要があると思いますが,どのように取得することを考えておられますでしょうか?

A : 実測していただくことが最も現実的かつ確実な方法だと考えております。具体的な計測方法は,評価したい対象に依存しますが,例えば繊維やフィラーの体積含有率であれば,いくつかサンプルを切り出して密度から予測する,一方向強化材の繊維角であれば,SEMなどを使った断面画像を基に角度を計測するなどが考えられると思います。

Q : 島津様との共同事例について,織物構造の複合材料をX線CTで撮影した取り組みになりますが,チョップ材や射出成形品のようなものが対象でも実施可能なものでしょうか?

A : 「X線CTとMultiscale.Simによる短軸引張試験の事例について,織物材料が対象でしたがSMCのようなチョップ材でも同じ検証はできるものでしょうか?」の回答を参照ください。

Q : 複合材料でもガラス繊維を含有させたような複合材料の場合,流動のさせ方,製品形状により繊維の配向方向,度合いが異なり,ヤング率や減衰比等が異なってしまいます。 となると,試作品なしでの予測が難しく困っています。
こういった繊維強化樹脂に関して,試作前の段階でCAEを活用する方法についての知見(統計的な手法でも構いません)を,ご教示いただけますでしょうか?

A : 「繊維強化樹脂に関して,試作前の段階でCAEを活用する方法についての知見(統計的な手法でも構いません)がもしあれば,ご教示いただけますでしょうか?」の回答を参照ください。

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