自動車と軽量材料 -その動向と課題-

Q : 熱可塑CFRP(CFRTP)は自動車の構造部材として使用される可能性につきいかがでしょうか?CFRP/CFRTPのCFリサイクルについてはLCAの観点ではどのように計算されるのでしょうか?

A : 熱可塑性CFRPへの期待は,成形サイクルタイムと伸びになります。半面,耐クリープ特性の低さや使用環境温度内での熱特性変化が大きいこと,更には,成形温度が高く,成形時の樹脂の劣化(分子量低下)が懸念されます。部品によってしっかりと採用の可能性を見なければなりません。
今,皆さんがリサイクルといって研究されているのは,成形工程での端材の再利用のことを言ってられることが多いようです。端材は,所在が明らかですし,熱硬化でもポットライフを考えれば,再利用も可能です。ただ,CFRTPは,低温保管ではなく常温保管が利きますので,その分,若干ですが,LCA的には意味はありそうです。最も重要な廃車時のリサイクルですが,この時は,熱可塑,熱硬化を問わず,樹脂のダメージが問題になります。ダメージ度がモノによってまちまちのため,一品一品ダメージ度を測り新材を追加するやり方は,まずもって成立しないと考えます。よって,CFRTもCFRTPも廃車時のリサイクルは樹脂を燃やしたりしてCFをリユースする方法になります。よって,LCA的に差はないと言えるでしょう。この辺の研究はなかなかやれてませんね。

Q : 航空機ではCFRP複合材料の割合が半分近くを占めていますが,自動車の場合,その割合はどの程度まで増えるとお考えですか?

A : 台当たりのボデーへの使用割合としては,スーパーカーなどはフルにCFRPを使用しています。BMWのi3も相当量のCFRPを使用しています。フルにCFRPにすることはできるのですが,価格の問題もありますし,最も大きな理由は,メインの材料が変わると設計も作り方もすべてが変ってきます。工場ごと変える必要が出てきます。製造メーカーが大きなリスクを払って,取り組めるだけの必要性がどれだけ今後出てきそうかが重要ということになります。軽量化に対しては,自動車は航空機よりもニーズが低いということもあるかもしれません。(燃費等の違いになります)

Q : 自動車はその構造の複雑性から,CFRPを部材に用いるとき破壊・強度・寿命の評価が難しいために適用が難しいとお聞きしたことがあります.CFRPを構造部材に用いるのは今後も難しいのでしょうか?

A : CFRPは,複合材になりますので,それだけ評価が難しくなってきます。解析やフラクトグラフィーといった面でもまだまだ,情報や評価手法が定まりません。ただ,スーパーカーでは骨格部位にもCFRPは使われています。この時の信頼性は,時間はかかりますが,部品ごとの信頼性データをもとに現場の管理標準を作って対応しています。今後,標準化も難しいですが進めなければなりません。
CFRPの破壊・強度の評価の最新動向の紹介として,「実試験とCAE解析を融合した複合材料解析技術の紹介」(サイバネットシステム株式会社山本様)「複合材料の新たな設計勘所と試験評価技術の最先端」(国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所松尾様) の講演がございますので,そちらもご視聴いただきご参照ください。

Q : 自動車の軽量化材料としては,CFRPが有力だと思っていましたが,講演の中ではCNFの話題が多いように思いました。CNFが中心になるとCFRP部品は使われないのでしょうか?それともCFRPとCNFが共存する形になるのでしょうか?

A : CFRPは,CNFよりも信頼性があって実績もあり,使い方も確立できてきましたので,今後も軽量化の筆頭材料になるはずです。ただ,残念ながら2050年のゼロエミッション化を考えると,素材製造時のCO2排出量が多いということになります。そのため,高価格で,信頼性はまだまだ難しいですが,CNF強化複合材を研究しているといったところだと思います。現在,素材製造時のCO2排出量が少なく,低コストのCFも開発されていますので,2050年ころは,両者の良いとこどりの材料が採用されているのかもしれません。

Q : CFRPとCNFを組み合わせる利点について改めて教えてください。

A : 質問「自動車の軽量化材料としては,CFRPが有力だと思っていましたが,講演の中ではCNFの話題が多いように思いました。CNFが中心になるとCFRP部品は使われないのでしょうか?それともCFRPとCNFが共存する形になるのでしょうか?」で回答させていただきましたが,信頼性,ゼロエミッションや価格の良いとこどりということになります。講演でも触れましたが,繊維の大きさが一桁違いますので,うまいこと組み合わせれば,ミクロやメゾフェーズで効果が出せるのではと考えています。

Q : 既存の石油系樹脂とCNFを組み合わせた場合のリサイクル性に課題はありませんでしょうか。

A : 講演内でも触れましたが,私は,CNFはバイオマスプラスチックのナノサイズ軽量グリーン強化材(フィラー)が本来の姿として考えています。

Q : セルロースナノファイバーの検討における諸外国の検討状況はどのような感じになっているでしょうか?

A : 詳細はわかりませんが,欧州では,CNFは構造よりは機能材として研究が進んでいると聞いています。シーズ側とニーズ側の調整が難しいのかもしれません。構造の方は,ナノではなくセルロース繊維が検討されるケースが増えています。レースカー関係でも採用のケースが増えています。両者をうまく組み合わせると良いと思います。セルロース繊維のご購入に関しては,ご相談いただければなんとかしたいと考えます。

Q : 植物由来原料の開発はどの程度進んでいるのでしょうか。

A : 2003年にラウムという車で,ポリ乳酸(PLA)やケナフ繊維の部品を出させていただきました。その後,特定の車両(SAI)で,内装の80%面積を改良PLAで採用しています。まだ少々高いといった問題があります。骨格部材への採用は,FORDのヘンプカー以来まだありません。ここはぜひやりたいところですね。

Q : CNFのコスト試算(CNFと鋼材コストを比較し,CNFが鋼材と同レベル若しくは鋼材よりも安くなるという試算が有りました)の背景について教えて下さい。

A : エンジンフードで曲げ剛性を同じとした場合の材料コストを比較しています。材料コストを鋼材製と同等以下にするには,将来,CNFの材料単価を250以下(鋼材100に対して)にする必要があるという意味です。  (軽量化効果はいくらという評価があれば,もっと材料単価は高くても良いのですが。)

Q : 講演中(テキストP.52)の材料単価と材料コストの定義を教えていただけないでしょうか。

A : 材料単価は,単位重量あたりの材料価格です。材料コストは,所定の部品を作るときに使用した材料の価格です。よって,軽量化効果が高く,歩留まり等を考慮した価格になります。この場合は鋼材100に対しての値です。

Q : CNFは耐熱性についても課題があると考えております。エンプラへの適用事例はありませんか?

A : エンプラへの活用の研究は進められている。例えば,ポリアミド6でCNFの複合材料開発が進められています。
ただ,おっしゃられる通り,CNFは耐熱性を気にする必要があります。現状技術では,200℃近辺からは注意が必要と考えます。

Q : CNFの普及やNCV実用化に向けた今後の主な課題は何でしょうか

A : 全体を通して言えば,ユーザーに受け渡すには,技術的に頑張らねばならないところがまだまだあるということです。
共通して言えることは講演中にもありましたがコストです。また,実績がないことから,より信頼性の面でより多くのデータが必要になると思います。特には,吸水時の長期信頼性確保は重要です。その他,衝撃特性です。燃焼性やVOCは,意外と大丈夫なのかといったところです。

① 講演テキスト中(P.39)のカテゴリーAは,うれしさをもう一度見直した方が良いように思います。
もともとのNCVの目的は軽量化。だとすると,内装材すべてに展開できたとしても,車両の10%の内装材の10%軽量化と考えると,車両全体とすると軽量化効果としてはあまり面白くはない。部品としては意味があると思うのですが,車両からの立場をもう一度考えてみる方が良いと思います。見方を変えると,いくつかあるはずだと思います。発泡の品質がCNF導入により良くなるようですので,電動車は室内温調に伴う電費消費の課題も有りますので,断熱効果に結び付けても面白いかもしれません。最も近い技術だと思いますので,量産に向けて期待しています。

② 講演テキスト中(P.40)のカテゴリーCは,CNFらしさが出る部品でもあり,ぜひとも将来的に注目したいですが,ポイントは耐久性の解決だと思います。
透明樹脂ガラスは,PCなどの樹脂に変えることで40%近く軽量化できる。ぜひとも使いたいのですが,樹脂ガラス(グレージング材)自体が,ハードコートの課題があり,まだまだ普及できていません。CNFを入れることにより,解決できれば良いのですが今の段階ではハードコートの課題を並行して追いかけていくことが望まれます。ハードコート技術は日進月歩であり,注目していきたいところです。
100%CNFもオール植物ということで魅力があり,面白いですね。ただ,木を見た場合,セルロース繊維を固定したり保護するためにリグニンが樹脂として入っています。CNFだけでは耐水性や耐候性が弱いという性質を考えると,この辺の耐久性評価と対策をしっかり行なっていければと考えます。木は複合材であるという観点からも樹脂の存在,役割は大きいのかもしれません。

③ 講演テキスト中(P.41, P.50)のカテゴリーBは,講演の中では説明しませんでしたが,配布するデータには入れてますので,それを見ていただければと思いますが,これですね。NCVプロジェクトが終わった後,興味を持ってくれた自動車屋さんがあったので,試作に協力しました。ここでは,更に,深絞り性や安い型で製作できることを確認できて,関係者で共有しました。ただ,今後,このように,量産するには,まだまだ,技術的にもやることが山積みです。一つずつ解決していく予定にしてます。また,ぜひ,自動車以外も検討していきたいですね。ご興味ある方は,ぜひ,連絡ください。

Q : CNF紙を短冊状にする理由を教えて頂けないでしょうか。

A : 一つは,部品には形状がありますので,賦形性を出すためです。一枚の紙だと,形状次第では,しわくちゃになってしまいます。ただ,最も大きな理由は,CNF紙は樹脂の含浸性が極めて悪いことです。そのため,樹脂の通り道をたくさん作る必要があります。短冊状にカットしてその道(パス)を作っています。注入時間を短縮するためには,もっと細かいほうが良いかもしれません。繊維長がガラス繊維や炭素繊維に比べかなり短いため,短くしても強度低下に繋がりにくいと考えています。これもCNFのメリットかもしれません。

Q : 衝撃力アップのため,織物のセルロース繊維を持ってきた理由は何ですか。

A : セルロースにしたのは,植物系だからです。織物にしたのは,繊維に絡み合いを持たせ,ほどけにくくして,耐えられるようにしたかったからです。どうしてもCNFだけでは,繊維の絡み合いが不十分と感じたからです。ただ,織物はコストが高くなりますし,歩留まりが悪いです。本当に必要な箇所に展開するのがよいでしょう。

Q : RTMのような大型一体成形が型費が安いのは,低圧成形のためですか。

A : その通りです。RTMは上下型が必要ですが,低圧のため,安価な樹脂型でも可能です。VaRTMになりますと,下型だけで成形できますので,より安価になります。大きなものから小さいものまで比較的簡単に成形でき,中小量多品種の生産に向いています。省スペースで成形できるのも魅力と考えています。成形屋さんの悩みの一つとして重い型の保存がありますが,かなり楽になるはずです。地方生産向きかもしれません。

Q : ユニット系の部品の軽量化も重要とのことですが,進んでいるのでしょうか。

A : なかなか進んではないと思います。車体はかるくなるのですが,ユニット系は電動化とともに重くなってきます。軽いものの先に重いものがあると,走行安定性が著しく低下するはずです。車体軽量化をすればするほどにユニット系の軽量化が重要になってきます。ここの進め方を考える必要があると思っています。
足廻りは,剛体要素,バネの要素,粘性の3つの要素を成立させる必要があります。一つの材料で全てをまかなう手段ではなく,トポロジー設計やマルチマテリアル化もユニット系の軽量化に活用できる可能性も秘めていると考えられる。

Q : CO2排出規制についてEUが特に基準が厳しい,というお話がありましたが,日本の基準が緩いため,国内の軽量化技術(マルチマテリアルのための接合など)が向上しにくいのでは?と考えます。技術力向上のための方策等ありますでしょうか?

A : 日本でも国のプロジェクトでテーマを上げ,ISMAが進めています。10年前に新設されて7年半が経過して各種材料の開発が進められてきました。残り2年半はマルチマテリアルへの取り組みが進められると考えられます。

Q : 鉄を新材料で代替するための信頼性の担保が時間と労力がかかりすぎていると感じます。材料代替を高速化するには何が必要なのでしょうか?

A : 部品に使用する材料を代替した際にどのようなメリットがあるか,といった視点で開発を進めることが多いです。もう一歩踏み込んで,材料が変わると,設計,製造方法,評価方法まですべてが変わるので,企画段階からこれらの項目を検討をして開発をすすめることが重要と考えています。
材料代替は,生産工場自体を変えてしまうことにもなり,かなりのリスクを伴うわけです。スポーツカーがスーパーカーのようにオールCFRPやオールアルミボデーではなく,一部の限定部品にしか採用されていない現状を考えると納得できるのかもしれません。ただ,環境問題等の規制が厳しくなると,大きく変わる可能性があります。最も現実的なのが,マルチマテリアルと考えています。

Q : P7の将来モビリティと材料についてもう少し詳しく教えて頂けないでしょうか。特に2030年の意味などに興味があります。

A : これは,2040年位をイメージしたもので,スマートシティを中心としたモビリティが走り回っている光景をイメージした結果です。使われ方や,いろいろなモビリティ,更には使用材料の案を示したものです。
2030年ですが,自動車の緊急課題といえば,走行時のCO2排出規制です。(ひょっとしたら,コロナが一番かもしれませんが)。NEDOの革新新構造材料開発プロジェクトでは,早くから走行時のCO2排出対策として活動し,2030年の車を目指して材料開発を行っています。緊急であることや,衝突安全性を考えると実績のある材料で軽量化を図る方向で進めています。そのため,2030年と書きましたが,2030年以降も特に中高速レーンのモビリティに展開できると考えています。中高速での衝突は運動エネルギーが速度の2乗に比例することを考えると極めて重要で,実績のある材料をうまく組み合わせて使うマルチマテリアルが進むのではと考えているんです。
逆に,中低速レーンや空や水上などは,中高速レーンほど衝突安全対策は必要ではなくなるかもしれません。ここでは,更に軽量化しなければならず,超軽量材料,例えば,まだまだ課題は多いのですが,CNF複合材料などが出てきてもおかしくはないといったところで,これは,私なりに整理したものです。

Q : 断熱を目的に自動車筐体を樹脂化するという視点での検討は従来少なかったですが,具体的な検討の事例がありましたらご紹介いただけるでしょうか?

A : 自動車筐体が何を示すかによりますが,例えば,バッテリーについては熱マネージメントが重要であります。熱マネージメントの基本は家の構造と同じよう(発泡断熱材,サッシの樹脂化,複層窓など)に,樹脂や樹脂系複合材や発泡体が重要視されると思っています。

Q : ガラスの樹脂化による軽量化について教えてください

A : 「CNFの普及やNCV実用化に向けた今後の主な課題は何でしょうか」の回答を参照ください。

Q : 先生は色々なプロジェクトに携わっておられますが,この様なモノづくりを進めるうえで重要なポイントはなんでしょうか?また,気を付けている事などがあれば教えて下さい。

A : 学に入って6年になりますが,いろいろと見させていただきましたが,たぶん企画,英語ではplanningが重要で,そこが抜けているところだと思います。企画を十分に練らないうちにプロジェクトに入ってしまうと,特にシーズ開発の場合は,途中で,何のためにやってるんだったっけとなって,最悪の場合は,棚上げになってしまうケースが多いんです。問題が出てないのに答案を書いているような状況になってしまうんですね。企画の段階で,全体を俯瞰しながら,シーズ側とニーズ側の十分すぎるだけの議論をすることが本当に重要なんです。結果,問題解決型の展開にならないんですね。そのため,目的やゴールが見えなくなったりするんですね。目的はマストにならなければならないんですが,いい加減だと,危機感がなくなり,モチベーションも下がってしまいます。

また,例えば,材料開発のプロジェクトの場合,大抵の方は,部品を材料置換することのみを考えてしまうんですね。実はそれだけではないんです。材料が変われば,設計も製造も評価もすべてが変ってくるはずです。
例えば,
P43, P44ですが,
これは,CFRPやCNFの複合材にすれば,2分割の車体構造も可能かもしれないことをお話したつもりです。作り方もRTMのような作り方になるはずです。
P53
ここでは,CFRPの最も設計的にうれしい使い方は,連続繊維で異方性を活かして使う方法かもしれませんねと述べたつもりです。
いまの車の設計とか作り方は鉄を意識したものなんですね。よって,材料を変えることは,その材料用の設計とか作り方が必要で,かなりのリスクがかかるんです。ただ,逆に面白いのは,その材料にあったいままでにない時代に合った設計や作り方,評価ができるかもしれないんです。 リスク回避を取るかチャレンジするかですが,いま車が100年来の改革期と言われていることを考えると,チャレンジしても良いのではと考えます。材料を変えるということは全てを変えること,単なる材料置換ではないことを企画段階で盛り込まなければなりません。この辺がいまのプロジェクトに欠けているのではと思うところです。

Q : 影山先生は虎ノ門キャンパスではどのような仕事をなされているのでしょうか。

A : 東京の虎ノ門キャンパスになります。学生さんの講義ももちろんあり,その時は金沢に出向いていますが,東京は省庁,ヘッドオフィスが多く,産学官で本音で対話するのに好都合な場所です。私自身,研究で最も重要なのは企画だと思っています。企画ができれば,どことやれば最適かが見えてきますので,金沢の方に投げることも可能ですし,他の機関とも可能です。皆さんの悩みを聞きながら,一緒に改善策を考えていくことをミッションとしていますので,何なりと声をかけてください。

Q : 部品点数の激減は,軽量化のためだけでしょうか?

A : 部品点数を減らすということは,接合箇所が少なくなるということです。よって,軽量化だけでなく,コスト低減にも大きく寄与します。ただ,最も重要なのは,接合箇所が少なくなくなりますので,車両剛性がかなり向上すること,信頼性が大きく向上するということだと考えています。

上記以外にも,ご質問をいただいております。順次回答を進めて更新する予定です。

Contents for Researchers and Engineers

自動車ソリューション

島津製作所が提供する自動車に関する最新事例・技術を紹介しています。
*閲覧登録,参加費不要です。

Solutions Navigator

島津製作所が提供する各種webinarの視聴,最新の分析・計測事例,これらの最新情報をお届けします。
*会員登録が必要です。