
工業材料・マテリアル
繊維強化複合材料(FRP)は、重量当たりの力学特性が鉄鋼やアルミなど金属材料より優れるため、様々な工業製品に金属の代替素材として使われるようになってきました。特に最近では、高品質の炭素繊維やその樹脂含浸プリプレグ、高度な成形技術が開発されてきており、高い信頼性が必要な航空機や自動車の主要構造にも使われ始め、多くの実績を伴って広く普及してきました。 しかし一方で、炭素繊維と樹脂で構成される炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、接着界面の存在も相まって壊れる過程で非常に複雑なメカニズムを有します。さらに、成形性向上の観点から、繊維をある一定の長さにカットして積層した不連続繊維タイプのシートも実用化されるようになり、形状自由度が飛躍的に上げられる半面、力学メカニズムがより複雑化します。昨今の炭素繊維複合材料は成形性や性能が高まり、広範囲の工業製品への適用が期待され、注目度の高さから実用化研究は活発であると言えそうですが、信頼性を理論的・定量的に説明するための力学メカニズムの解明がまだ不十分である、というのが現状と考えられます。そこで重要になるのが、現象を厳密に観察するための可視化技術と実用環境を再現した中での力学特性の計測技術です。最近では、分析技術や計測技術の進歩によって、従来不明瞭だった現象や挙動が明らかになりつつあります。こういった分析・計測技術の積極的な活用により、将来有望な高性能素材の力学メカニズムを解明できれば、製品設計にフィードバックできて、仕様を満足する信頼性設計が実現でき、新素材のさらなる普及・拡大に貢献できます。 力学特性を簡単に計る方法に曲げ試験法があり、標準規格化されています。単純な操作および比較的小さい容量の小型試験機で実施できるので、複合材料の分野でも多用されています。しかし、試験力点である圧子と試験片の接触点近傍は素材の異方性の影響で特異な応力場を示し、板厚や支点間距離などの条件にも依存しますので、特に圧縮側で破壊する場合には、得られた強度評価値の扱いに注意が必要です。加えて、実用面でも接触物による曲げ変形で壊れる現象も高頻度で起きます。したがって、曲げ破壊がどのように進み、強度の設計応力をどのようなプロセスとロジックで決定すべきかを現象の把握と相互補完的に検証していくことが求められます。
2018.09.19