アミノグリコシド系抗生物質の分析(1)
はじめに
“乳及び乳製品の成分規格等に関する省令”および“食品・添加物等の規格基準”の一部が,平成14年12月20日厚生労働省令164号および厚生労働省告示第387号をもって改正されました。分析面での改正点は,乳に残留するゲンタマイシン,シロマジン,スペクチノマイシン,ネオマイシンについて,残留基準値および試験法が新たに設定されたことです。ここでは,液体クロマトグラフ質量分析計の使用が明記されているアミノグリコシド系抗生物質,“ゲンタマイシン,スペクチノマイシン及びネオマイシン試験法(以下,本試験法と略記)”を参考にしたゲンタマイシン類およびネオマイシンの分析例を紹介します。乳試料の分析(添加回収実験)などは後日ご紹介させていただく予定です。 本試験法には,移動相にアセトニトリル/5mM ヘプタフルオロ酪酸水(1:9)を用いることが記載されていますが,アセトニトリル比10%では対象化合物はカラム内に強く保持され溶出させるのに長時間を要しました。混合比率を変えて分析した結果,アセトニトリル比25%ではゲンタマイシンは10分付近に溶出されますが,対象成分のピーク形状が悪いため,ここではグラジエント溶出を用いました。また,イオンペア法を用いているため注入量の制限を受けやすいことから,内径3.0mmのカラムを使用しました。 Fig. 1にはゲンタマイシンおよびネオマイシンの正イオンESIマススペクトルを示しました。ゲンタマイシンはC1(主成分),C2およびC1aの混合物で,良好にプロトン化分子(m/z 478, 464, 450)が確認され,プルプロサミンが解離したm/z 322のフラグメントイオンも観察されます。ネオマイシンもプロトン化分子(m/z 615),アミノ糖が解離したフラグメントイオン(m/z 455)および二価イオンが確認されます.従って,これらの成分を定性するには,保持時間とプロトン化分子の質量数で行うことになります。 Fig. 2には,ゲンタマイシン類およびネオマイシンBのSIMクロマトグラムを,Fig. 3にはゲンタマイシンC1およびネオマイシンBの検量線を示しました。官報に示された精製法では5倍濃縮を行っているため,基準値の10分の1は十分検出できます。また,この条件では試料溶液100μL注入した場合でも,ピーク形状を損なうことなく分析することが可能です。
2003.04.01