食品・飲料
MALDI-TOF MS による乳製品のプロファイリング
はじめに
MALDI-TOF MS による微生物同定の手法は,微生物以外のサンプルの分子プロファイリングに応用できる可能性があります。当社の MALDI-TOF MS ラインナップである AXIMAと微生物同定のためのデータベース検索用ソフトを組み合わせた AXIMA 微生物同定システムが有するオープンデータベースの柔軟性が,分子プロファイリング,すなわち各サンプル固有の特長に基づいたサンプルの識別を可能にします。 新規に登録したサンプル固有のデータ(SuperSpectraTM)を既存のデータベースに追加することにより,特定の分野の研究に関連するカスタマイズデータベースを作成することが可能です。MALDI-TOF MS による分子プロファイリングが報告されている分野は様々で,細胞株の同定,昆虫学,動物プランクトンの研究,魚種の鑑別や食中毒菌の研究など多岐に渡ります(参考文献 1-7)。 乳製品の偽装混入が,ヨーロッパにおいて問題となっています。牛以外の動物の,高級なミルクから作られる乳製品に,コスト削減の意図から故意に添加した牛乳を検出する手法は,偽装混入を根絶するために重要です。 欧州連合(EU)が規定する原産地名称保護制度(PDO)は,イタリアのカンパニア州地域で生産され,珍重されている,水牛のモッツァレラチーズを保護しています(カンパニアの水牛モッツァレラ)。モッツァレラチーズは牛乳からも作ることができますが,その場合は,PDO の認定を受けることが出来ず,より安価な製品となります。2010 年にイタリアの農業省が “ カンパニアの水牛モッツァレラ “ とされる製品をチェックしたところ,少なくとも 25 %に牛乳が含まれて いることが判明しました。これにより,牛乳のモッツァレラを水牛乳のモッツァレラとして偽装する試みが広く行われていることが明らかとなっています。 ここでは,乳製品の迅速な識別による不正行為の特定のための AXIMA 微生物同定システムの有効性について紹介します。この技術のコンセプトを,いくつかの異なる種類のミルクのプロファイリングにより示します。確立した手法を,次に,モッツァレラをモデル試料とした食品の真正性確認に適用しました。
2015.07.23