環境
MALDI-MSn分析を用いた修飾シクロデキストリンの異性体構造解析方法
はじめに
シクロデキストリン(以下CyD)とはD-グルコースがα1-4結合した環状オリゴ糖で,グルコースユニットの数によりα (グルコース6個),β (グルコース7個),γ- (グルコース8個)-CyDと呼称されます。CyDはドーナツのように中心が空洞となっており,この空洞内に通常では水溶液中で溶解しないような疎水性物質(ゲスト分子)を包接して溶解させるという特徴があります。この機能のおかげでCyDは医薬品や食品,化粧品などに広く利用されてきました。 しかしながら,天然に存在するCyDだけでは,包接できる分子や溶解できる溶媒に限りがあります。そこで,このCyDに様々な修飾を施して,その適応範囲を広げようという研究がなされてきました。 ここで課題となるのは,CyDを構成する複数のグルコースのどこに修飾を施すか,また人工的に合成した修飾CyDの修飾部位をどのように確認するのかということになります。 例えば,7個のグルコースからなるβ-CyDでグルコースの6位のOH基のいずれかを修飾するとした場合,修飾部位の個数として1個~7個の修飾CyDが存在可能であり,さらに2~5個の修飾が同時に導入された場合には位置異性体が生じるために19種類もの修飾CyDが存在することになります。 このような修飾CyDはその合成や精製分離も困難ですが,無事合成された分子の位置異性体を決定,識別することもまた困難な作業となります。 今までは多くの場合,NMRを用いた構造解析によりこれら分子の構造決定がなされてきましたが,高い精製度や合成量を必要とし,小スケールでの合成スクリーニングには不向きといえます。 そこで本稿では少量の合成量であっても,簡便且つ迅速に修飾CyDの位置異性体を識別する手法をご紹介いたします。
2009.04.22