低分子医薬品
In-Source DecayによるオリゴDNAのシークエンス解析
はじめに
DNA塩基配列の決定には,サンガー法を基本原理とする手法が汎用されていますが,この手法ではプライマーの塩基数に近い短鎖DNAの配列解析は出来ません。 一方,最近短いオリゴDNA(30 mer程度以下)の塩基配列決定に,MALDI-TOF MSが応用され始めています。この方法では断片化したオリゴDNAの質量スペクトルを取得し,ピーク間の質量差から配列を解読します。これまで,イオン化したオリゴDNAを不活性ガスと衝突させる気相分解法や,酵素消化・化学分解によりDNAの断片化を行い,その質量スペクトルを得る手法などが検討されてきました。 ここで紹介するIn-Source Decay (ISD)は,MALDI-TOFMSのイオン源内で起こるイオンの解裂であり,主にタンパク質やペプチドのアミノ酸配列解析に利用されています。この方法で用いる1,5-Diaminonaphtalene(DAN)は,ISDを効率よく引き起こすマトリックスとして報告されました(参考。本稿では,オリゴDNAの断片化に対するDANの効果を検討しました。DANだけではオリゴDNAのISDが生じませんでしたが,DNA検出用として汎用されている2,4-Dihydroxyacetophenone (DHAP)とDANの混合物をマトリックスとして使用することで,ISDによるフラグメントイオンを検出できました。ISDにより生じたイオンは理論質量よりも数Da大きい値で検出されました。ISDによる解裂に要するナノ秒単位の時間が質量誤差の原因と推察しています。この誤差を補正するため,チミジンの70量体のISDで生じたイオンを質量較正に用いています(データ未掲載)。このため,ISDで生じたイオンではないオリゴDNAの質量は,理論値(m/z 9111)より大きく検出されました。
2009.12.17