バイオ医薬品
バイオ医薬品中の糖鎖評価法の検討-O-glycan分析前処理におけるPeeling反応の抑制-
はじめに
抗体医薬品に代表されるようなタンパク質性バイオ医薬品の多くは、CHO(Chinese hamster ovary)細胞など真核生物由来の培養細胞で合成されます。そのため、生合成されたタンパク質には必然的に多くの翻訳後修飾が存在します。その中でも糖鎖の修飾は、タンパク質の機能調節に関わっている他、構造によっては抗原性を生じてしまう場合もあるため、バイオ医薬品の品質に関する評価項目として注目されています。しかしながら、糖鎖の評価には様々な技術的課題が存在します。特に O-結合型糖鎖(O-glycan)は、酵素を用いてタンパク質から糖鎖を網羅的に切り出すことが難しいために、化学的に切り出す方法としてヒドラジンによる脱離反応やアルカリ触媒による脱離反応が主に利用されているのですが、この方法には改善しなければならない課題があります。ヒドラジンによる脱離反応では爆発性試薬の取り扱いに細心の注意が必要となるため手軽に実施するというわけにはいきませんし、アルカリ触媒を用いた方法では連続的なβ脱離反応により糖鎖が段階的に分解してしまう Peeling 反応が起こることが知られています。これまで、アルカリ触媒を用いた O-glycan の分析では、アルカリ条件での糖鎖切り出しと還元剤による糖鎖の根元部分の還元を同時に行う還元的アルカリ触媒β脱離法を用いて、連続的なβ脱離反応を起こさせないように糖鎖の切り出しが行われてきましたが、この方法では糖鎖の根元部分を完全に還元してしまうため、糖鎖切り出し後に蛍光試薬などでの標識を行うことができずに分析手法が限定されてしまうというデメリットがありました。また、このようにして得られた糖鎖を質量分析を用いて分析する場合にも、糖鎖自身のイオン化効率が高くないためにペプチド分析のようには高感度に分析することはできませんでした。そこで、糖鎖の根元を還元せずに 2-AB や PAなどの蛍光標識試薬を結合させる方法として非還元的アルカリ触媒β脱離/蛍光標識法が検討されてきたのですが、連続的なβ脱離反応を大幅に抑制するには至っていません。それでも、これまでの O-glycan を分析対象とした学術的研究の中では、この Peeling 反応による副生成物の存在が研究の大きな妨げになるほどの問題にはなりませんでした。しかしながら、バイオ医薬品などヒトの体に投与することが前提となる医薬品においては品質管理の面で糖鎖を評価しなければならず、その際に生じる副生成物の存在をどのように取り扱うべきかは大きな問題となります。 本稿では、Peeling 反応を抑制した O-glycan の化学的な切り出し方法について、PMP 標識法をベースに検討した結果を報告します。
2017.07.19