ライフサイエンス
SPFおよび抗生剤投与マウス糞便試料中の短鎖脂肪酸・有機酸(3-NPH 誘導体)分析
はじめに
ヒトの腸内には数百種類以上もの腸内細菌が生息しています。その姿を顕微鏡で観察すると、まるで群生している「お花畑」のように見えることから、腸内フローラとも呼ばれています。腸内細菌は難消化性糖類を主なエネルギー源として、酢酸・プロピオン酸・酪酸といったいわゆる短鎖脂肪酸を産生しています。近年、この短鎖脂肪酸が体内に吸収されることで自己免疫疾患 1) や肥満・糖尿病をはじめとする生活習慣病と関連していることが報告されており、短鎖脂肪酸と疾患との関連を理解するために、また腸内細菌と宿主体との代謝活動をより深く理解するためにも、短鎖脂肪酸の定量分析への要望が高まっています。 一般に短鎖脂肪酸は揮発性が高く、親水性も高いため、通常の逆相系での LC/MS 分析は困難です。また一般的な GC/MS法で広く使われている誘導体化法では、試料を乾固させる必要があり、揮発成分を失う可能性があります。そこで水溶液中での誘導体化による分析が実施されており 1) 、本稿ではカルボン酸を 3-ニトロフェニルヒドラジン(3-NPH)で誘導体化することにより、C2~C5 の短鎖脂肪酸(6 成分)と乳酸、ピルビン酸、コハク酸などの有機酸(16 成分)を合わせて分析しています。分析にあたっては LC/MS/MS メソッドパッケージ【短鎖脂肪酸】に登録されている MRM トランジションおよび分析メソッドを用いました。 2-ニトロフェニルヒドラジンによる誘導体化法は以前から知られていますが、脂肪酸を主な分析対象としていました。本稿では 2-NPH ではなく、3-NPH を利用することにより、短鎖脂肪酸のみならず、有機酸も効率よく誘導体化を行い、短鎖脂肪酸・有機酸を合わせた分析に対応しています。登録されている MRM トランジションは 3-NPH 誘導体をもとに最適化されています。また 3-NPH はケトン体とも反応するため、カルボニル基を有するピルビン酸、オキサロ酢酸などはカルボン酸だけではなく、カルボニル基も誘導体化した MRM トランジションとして設定されています。 ここでは生理的な腸内細菌叢の存在する SPF(SpecificPathogen Free)マウスと、抗生剤投与による腸内細菌叢が著しく減少したマウス糞便を試料として、短鎖脂肪酸あるいは有機酸分析を行いました。それぞれのマウスから糞便資料を回収、秤量した後、エタノールで懸濁してから遠心分離により上清を回収しました。この上清を 3-NPH による誘導体化に供しました。3-NPH 誘導体化にあたっては、触媒にピリジン、縮合剤にカルボジイミドを使用して、室温・30 分間にて反応させました。反応後、ギ酸を含むメタノール溶液にて希釈した後、LCMSTM-8060 による一斉分析を行いました。
2018.03.17