MALDI-MS プロテオタイピングによるアクネ菌の分類

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はじめに

Cutibacterium acnes(通称アクネ菌)は、ヒトの主要な皮膚常在菌の一種で、2016 年に Propionibacterium 属から新属として独立して、現在は C. acnes subsp. Acnes、C. acnessubsp. Defendens、および C. acnes subsp. elongatum から構成される 3 亜種に分類されています。C. acnes は、皮脂から脂肪酸を産生して皮膚を弱酸性に保つことで、病原菌から皮膚を守る重要な役割を担っている一方、ニキビや人工関節感染症の起炎菌としても知られています。このように、同じ種でも特徴が異なるため、C. acnes を種より細かく分類する必要があります。C. acnes は、複数のハウスキーピング遺伝子の配列解析を行う multilocus sequence typing(MLST)法により細分されており、C. acnes subsp. acnes を細分したサブタイプ IA1、IA2、IB、および IC、C. acnes subsp. defendensにより構成されるサブタイプ II、および C. acnes subsp.elongatum により構成されるサブタイプ III に分類されています。しかし、この方法では手間も時間も掛かるという課題があります。これに対して、MALDI-TOFMS で C. acnes を分析し、検出される数本のピークを利用するフィンガープリント法による分類法も提案されています。しかし、フィンガープリント法ではサブタイプ IA1、IA2、および IB のうち識別できないものがあるうえ、分析に利用されるピークが帰属されていません。このため、バイオマーカータンパク質の観測質量の理論値をアミノ酸組成から計算することができず、分析に用いるピークの観測質量も研究者により異なっており、分析結果の理論的な根拠や信頼性において課題がありました 上記の通り、MALDI-TOFMS による微生物同定システムで用いられているフィンガープリント法では、ピークの帰属は行われません。これに対して、タンパク質遺伝子の塩基配列情報を翻訳したアミノ酸配列から計算により求める『観測質量の理論値』によりタンパク質のピークを帰属して、微生物を同定あるいは分類する『MALDI-MS プロテオタイピング』と称する方法があります。この MALDI-MS プロテオタイピングでは、間接的に遺伝子情報を利用することで、類縁性の高い菌群でも、理論的根拠に基づいた信頼性の高い分類が可能となります。 本アプリケーションニュースでは、バイオマーカー探索にも利用できる統計解析ソフト eMSTAT Solution™や AXIMA™微生物同定システム対応高精度細菌識別ソフトウェアのStrain Solution™を用いて C. acnes を MALDI-MS プロテオタイピングによりサブタイプレベルで分類した成果をご紹介します。

2020.09.29