組織MALDI解析-脳虚血モデルマウスのエネルギー代謝関連物質の解析-

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はじめに

脳組織はその機能を維持するために,常に大量のグルコースと酸素を必要としています。例えば血栓による血管の閉塞が起これば,脳内への血流量が急速に低下して,ただちにグルコースの欠乏を招きます。これにより,血流が途絶えた虚血部位においてATP(アデノシン三リン酸)の枯渇が引き起こされます。このため,脳虚血が起きると短時間のうちに脳機能活動が重篤な損傷を受けることとなります。 そのため脳虚血を起こした脳内において,虚血部位そのものと,適切な処置により回復が見込まれる周辺部とを見分けることは,その後の治療において非常に重要となります。このためこのような微小領域における詳細な解析が今後ますます重要となることが予想されます。今回,CHIP-1000とAXIMA Performance®を組み合わせた島津MALDIイメージングシステムによって,エネルギー代謝関連物質の分布を描くことで, 虚血部位とその周辺部(ischemicpenumbra)をはっきりと区別できた最新の研究成果が報告されましたので,ここでご紹介いたします。 脳虚血モデルとして,10分および60分間にわたって中大脳動脈を閉塞したC57BL/6Jマウス(♂,22-26 g)から調製した脳組織の新鮮凍結切片を使用しました。閉塞によって脳内における血流量は閉塞前の約20%程度まで低下していたことが組織血流計によって確認されています。また脳虚血切片とは別に,閉塞措置を行っていないマウス脳組織切片をコントロールとして,それぞれの組織切片のMALDIイメージング解析を行いました。 コントロール切片と脳虚血切片(10分と60分)それぞれをHE(Hematoxylin-Eosin)染色したものです。それぞれの脳虚血切片(10分と60分)では,点線で囲んだ部位に虚血部が存在していますが,HE染色画像では虚血部位を観察することはできませんでした。

2011.01.23