環境
原子吸光法による鉄の測定
はじめに
鉄は,地殻中にO,Si,Alに次いで多く存在し,赤鉄鉱(Fe2O3),褐鉄鉱(Fe2O3・3H2O),磁鉄鉱(Fe3O4),菱鉄鉱FeCO3),硫化鉄鉱(FeS2),クロム鉄鉱(Fe(CrO2)2)等の鉱石として産出されます。金属鉄は鉱石をコークスで還元し得られますが,不純物を取り除くため,さらに水素で還元します。また,純鉄は電気分解によっても得ることができます。 鉄は反応性が強く,湿った空気中で侵されますが,濃硝酸に浸すと表面に酸化被膜が形成され,不動態となり,これ以上侵 されなくなります。 鉄を主成分とする合金は,炭素含量により純鉄(炭素0.02%以下),鋼(炭素0.02~2%),鋳鉄(炭素2~4.5%),銑鉄(炭素3%以上)に分類されます。鋼には,炭素鋼や合金鋼,普通鋼,特殊鋼などがあります。合金鋼はCrやMn,Mo,Ni等を添加した鋼であり,Crを添加したステンレス鋼は強度が高く,18-8ステンレス鋼(Cr18%,Ni8%含有)が代表的です。 鉄は,生体の必須元素であり,生理機能には鉄の酸化還元反応が関わっています。鉄は,食物中に無機鉄化合物(3価鉄イオ ンとアミノ酸,ペプチドとの錯体)や非ヘム鉄蛋白質,ヘム鉄蛋白質(ポルフィリンの鉄錯体)として含まれます。無機鉄化合物は,胃で2価鉄イオンになり,主に,十二指腸から吸収されます。一方,ヘム鉄は,胃酸により蛋白質から遊離し腸管から吸収されます。栄養障害の一つである鉄欠乏症は,食物中の鉄の約90%が,腸管吸収率の低い非ヘム鉄であることに起因します。最近,鉄欠乏予防のため,吸収率の高いヘム鉄を成分とするサプリメント等が販売されているのを見かける機会が増えています。 鉄の測定は,環境や工業,食品・医薬品などの広い分野で行われています。今回はサプリメント中鉄のフレーム測定例とファーネス法におけるグラファイトチューブの種類と使い分けについて紹介します。
2021.03.29