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はじめに

吸着・分解性のある農薬分析では,試料注入部への吸着を低減するために不活性化処理インサートを用い,内面不活性なフューズドシリカ製キャピラリカラムを使用することが一般的です。 不活性化処理を行っていないインサートを使用した場合,吸着性の強い成分が微量域で検出できないことは以前から経験的にもよく知られており,目的によって様々な不活性化処理方法も検討され,処理を施したインサートも市販されています。また,ガラスカラムに比較して圧倒的に不活性なフューズドシリカ製キャピラリカラムを用いた分析でも,分析中カラム内で試料が受ける積算熱量が大きくなると分解が起こることも少なくないため,溶出時間を早くする目的で液相膜厚の薄いカラムを使用することが多くなっています。分離を損なわないことが前提ですが,最近では市販カラムを短くカットした自作ショートキャピラリによる検討も行われています。 それでも特定の農薬成分においては,微量域になるとピーク形状不良等により直線性不良が起こることがあるため,キャピラリカラムを使用した場合でも,吸着等が起こる要因が別に存在するものと推測されます。 通常膜厚の厚いカラムは溶出時間が遅くなり,カラム内で分解の可能性が高いために敬遠されがちですが,膜厚の厚いカラムを使用する場合でも高線速度一定制御で分析を行なうことで膜厚の薄いカラムとほぼ同等の分離と溶出時間を得ることが可能です。溶出時間を揃える事によって農薬成分がカラム内で受ける積算熱量を同一にすることになり,カラム内面活性度と液相膜厚の差による挙動の変化のみを比較することができます。 残留農薬分析など食品や環境分野においては非常に微量領域までの測定が求められており,現状では繁雑な抽出,濃縮,クリンナップなど試料前処理操作を経た後にGC測定を行なっています。微量域での不安定な農薬成分の吸着や分解を防ぎ,直線性を改善,高感度化することができれば,前処理操作を簡略化できる可能性があります。本アプリケーションニュースでは,カラム内での微量農薬成分の吸着,分解に対して液相の膜厚,フューズドシリカチューブの内面処理がどのような影響を及ぼすかについての比較を行ないました。100%ジメチルポリシロキサンの無極性液相で,膜厚の異なる2種のカラムを用いました。カラム内面活性度の違いを比較するため,異なるメーカーのカラムでも比較しました。 リン系農薬10成分各0.01μg/mL標準溶液を,A社製の膜厚の厚いカラム(厚膜カラム1.0μm)で分析したクロマトグラムをFig.1に,B社製の膜厚の薄いカラム(薄膜カラム0.25μm)で分析したクロマトグラムをFig.2に,B社製の厚膜カラム(1.0μm)で分析したクロマトグラムをFig.3に示しました。微量域では薄膜カラムにおいてジメトエートなど特定成分がピーク形状不良により未検出となり,厚膜カラムでは充分検出できていることがわかります。

2006.10.09