UV TALK LETTER vol.8 UV分析基礎-装置バリデーションの内容と点検方法-

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今回のテーマは紫外可視分光光度計の装置バリデーションについてです。装置の健康状態を把握・管理するために欠かせない装置バリデーションについて,そもそもバリデーションとは何か,どのように進めればよいのかといった内容を解説します。

1. バリデーションとは

製品開発・製造の現場では様々な設備や装置を使い,複雑な作業工程を経て製品を生み出します。そのようにして作られた製品が期待通りの品質を持っていると言うためには,使われる設備,装置,運用手順に問題がないかどうかを検証しなければなりません。
 いつ誰がやっても同じ内容の検証となるよう,検証は手順化されている必要があります。定められた手順に従って検証を行い,検証結果を文書として記録する一連のプロセスを一般にバリデーションと呼びます。
 バリデーションの対象は,設備や装置といった有形のものから作業手順や工程といった無形のものまで多岐にわたります。本稿では紫外・可視分光光度計に対するバリデーション(装置バリデーション)について,その内容をご説明します。

2. 紫外可視分光光度計の装置バリデーション

 分光光度計は試料に様々な波長の光を当て,光の吸収や反射,透過の度合いを調べることで,試料を定性的または定量的に分析するための装置です。それでは,分光光度計の性能にはどのようなものがあるでしょうか。
「JIS K0115 吸光光度分析通則」によると,装置が表示すべき性能項目として表1に示す項目が定義されています。
 表1から分かるように,一言に性能といっても,着目する観点によって分光光度計には様々な種類の性能があります。分光光度計の装置バリデーションでは,これらの性能項目の中から装置の管理や状態把握に必要な項目をピックアップして検証を行うことになります。

 

波長正確さ 迷光
波長設定繰り返し精度 ベースライン安定度
測光正確さ ベースライン平たん度
測光繰り返し精度 ノイズレベル
分解  
表1. JIS K0115に記載されている性能項目

 

3. 装置バリデーションの進め方

<波長正確さ>
 「波長正確さ」の検証では,一般に重水素ランプや低圧水銀ランプの輝線,または波長校正用光学フィルターの吸収ピークが利用されます。
 図1は重水素ランプのエネルギースペクトルです。重水素ランプは波長656.1nm及び486.0nmのところに鋭いエネルギーピーク(輝線)を持つことが知られています。従って,重水素ランプのエネルギースペクトルを測定し,656.1nm付近に存在するピークの波長を調べ,その波長値を656.1と比較することで装置の波長正確さを検証することが出来ます。
 例えば,検出されたピーク波長が656.2nmであった場合,真の値656.1nmからの誤差は0.1nmとなり,これがこの装置の波長正確さの精度となります。

重水素ランプの輝線

図1. 重水素ランプの輝線

 いくつの輝線(または吸収ピーク)を使って波長正確さの確認を行うべきか,誤差がいくら以内であれば問題なしとすべきかは,製品を開発・製造するに当たって装置にどれだけの性能が要求されるのかによって変わってきます。試料のスペクトルを測定し,仮にそのスペクトルのピーク波長を誤差1nm以内で特定する必要がある場合,波長正確さとして0.1nmの精度があれば十分であるといえるでしょう。

<迷光> 「迷光」とは,試料に照射される指定波長以外の光のことです。例えば波長220nmの光の吸光度を測定したいとき,試料に220nm以外の波長の光が多く当たってしまっては,正しい吸光度の測定が出来ません。
 例として,指定波長において0.01%の迷光が存在する場合を考えます。このとき,迷光の影響により透過率1%(吸光度2)の試料は透過率が1.01%(吸光度1.9957)であるように見え,また透過率0.01%(吸光度4)の試料は透過率が0.02%(吸光度3.6990)であるように見えてしまいます。
 すなわち,それぞれの試料において吸光度0.0043及び0.3010の誤差が生じるのです。また,この例から分かるように,迷光の影響は測定したい試料の吸光度が高いほど大きくなります。
 迷光の存在は,検量線のひずみの原因にもなります。従って,標準試料を使って検量線を作成し,高濃度の(吸光度が大きい)未知試料の定量を行う場合は,装置の迷光が小さいことが求められます。

NaI水溶液を用いた迷光測定

図2. NaI水溶液を用いた迷光測定

 迷光の大きさを評価するときは,ヨウ化ナトリウム(NaI)水溶液など,特定の波長で光を透過しないことが分かっている水溶液が用いられます。例えば,NaI水溶液は波長220nmの光を透過しません。測定ではまず,全ての光を完全に遮断するシャッターブロックを試料室にセットした状態で透過率を測定し(透過率X),次にNaI水溶液セルをセットした状態で透過率を測ります(透過率Y)。このとき,Y ‒ Xの値を装置の迷光量と定義し,迷光の大きさを評価します。図2はこの様子を示したものです。
 装置バリデーションの目的は,装置が製品の検査や製造を行うのに十分な性能を有しているかどうかを確認することです。実際にバリデーションを行う場合は,必要とされる装置性能を理解した上で適切な検査項目を選び,合格基準を設けることが大切です。

4. バリデーションは装置の健康診断

 分光光度計は多くの部品から構成されており,その中には経年や使用頻度によって劣化してゆく消耗品もあります。装置バリデーションは,装置内部の構成部品の状態を知る上でも役立ちます。
 例として,「ノイズレベル」を見てみましょう。分光光度計においてノイズレベルは光源(ランプ)の状態を知る一つの手がかりとなります。ノイズレベルは,特定の波長における吸光度0付近の時間変化を1分間測定したときの吸光度の最大の振れ幅(隣り合う山と谷の距離のうち,最大のもの)という形で定義されています。図3にノイズレベルを測定したグラフを示します。
 ランプが経年劣化して放射光の強度が小さくなってくると,雑音の大きさは相対的に増大し,ノイズレベルが高くなります。ノイズレベルの上昇はデータの再現性の低下を意味しますので,測光値を正確に知りたい場合には悪影響が出てきます。

ノイズレベルの測定結果

図3. ノイズレベルの測定結果

 また,非常に小さな吸収ピークを検出しなければならない場合,ノイズレベルが大きいとピークがノイズに埋もれてしまい,正しく検出できなくなる可能性があります。
 分光光度計の光学系には,集光や分光のため色々なミラーが使われています。これらのミラーは経年とともに表面が劣化してゆくことがあります。また,装置が置かれている環境によっては,空気中のほこりや粉塵が付着する可能性もあります。例えば,分光用のミラーの劣化は前述の迷光量の増加の一つの要因となりえます。
 このように,装置バリデーションの結果から装置の健康状態を把握するのに有益な情報が得られます。装置の状態を常に把握し,管理するためには,装置バリデーションを定期的に行うことを推奨します。また,消耗品を交換した後や装置の据付場所を変更した後など,装置環境に変更があった場合にもこまめにバリデーションを行うことが大切です。

5. ソフトウェアによる装置バリデーションの自動化

 装置バリデーションで確認しなければならない性能項目は多岐にわたり,これらの項目を一つ一つ手作業で確認してゆくのは時間がかかります。また,煩雑な検査手順に伴う人為的な操作ミスも起こしやすくなります。
 バリデーション作業を行う際,バリデーションに必要な測定や計算を自動的に行うよう設計されたプログラムがあれば装置管理の負担は大きく軽減されます。
 島津では紫外可視分光光度計の装置バリデーションに特化したソフトウェア(UV Performance Validationソフトウェア)を提供しています。図4はUV Performance Validationソフトウェアの画面例です。
 ソフトウェアを用いると検査項目,検査条件,合格判定基準の設定が柔軟かつ容易に行え,測定から計算,判定までが自動で行えます。また,校正用光学フィルターなどの検査ツールの管理やバリデーション結果のレポート印刷など,様々な機能で装置バリデーション作業を支援します。
 図5はソフトウェアを用いた装置バリデーションの流れを一例として示したものです。
 このように,装置バリデーションのためのソフトウェアを有効に活用することで確実で効率的な装置バリデーションが行えます。

UV Performance Validationソフトウェアのメイン画面

図4. UV Performance Validationソフトウェアのメイン画面

ソフトウェアを使った装置バリデーションの流れ

図5. ソフトウェアを使った装置バリデーションの流れ

6. おわりに

本稿で述べたことを以下にまとめます。

  • 製品の開発・製造に用いる装置の状態を把握するためには,装置バリデーションを行うことが大切です。
  • 実際に装置バリデーションを行う際は,様々な性能項目の中から必要なものを選択し,適切な合格基準を設けた上で検査します。
  • バリデーション用のプログラムを有効活用することで,確実で効率的な装置バリデーションを行うことができます。


今回は装置バリデーションについて解説しました。装置管理や装置の健康状態の把握に役立てて頂ければ幸いです。

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