UV TALK LETTER vol.4(2009) 検出器

UV-Basic

UV TALK LETTER vol.4(2009)
分光光度計において,検出器とは光のエネルギーを吸収して電気的な変化を起こす受光素子を指します。光電変換には,光電面から真空中への光電子放出で代表される外部光電効果と,光電子を伝導帯へ励起する内部光電効果とがあり,前者の代表的なものが光電子増倍管です。今回は,UV talk letter Vol.2の「分光光度計の構造」で解説した分光光度計の中でこの「検出器」について解説します。

1.はじめに

光を感じて信号に変換するものとして,最も身近なものに人間の視神経があります。人の目はおよそ400nmから700nmの波長の光を感じ,神経組織を通じて脳へと信号を送ります。いわば目は可視光を検出する最も身近な光検出器です。人の目は可視光領域に感度を持ち,最も感度が高い波長は緑色の550nm辺りになります。分光光度計用の検出器も同様に使用できる波長領域があり,波長により感度が異なります。紫外可視域において感度を持つ代表的な検出器としては,光電子増倍管(フォトマルチプライヤーチューブ)とシリコンフォトダイオードがあります。光電子増倍管はフォトマルとも呼ばれています。また,近赤外域用検出器としては,専らPbS光導電素子が使用されてきましたが,最近ではInGaAsフォトダイオードが近赤外領域の一部に用いられる装置もあります。図2に各検出器と波長範囲の対応表を示します。

図1 分光光度計の構成
図1 分光光度計の構成
図2 検出器と波長範囲
図2 検出器と波長範囲

2. 光電子増倍管

光電子増倍管は光電面に光が当ると光電子が放出される現象,すなわち外部光電効果を利用した検出器です。図3に光電子増倍管の動作原理図を示します。光電面から出た光電子(一次電子)は多段に組まれたダイノード(電子増倍電極)で二次電子放出を繰返し,陽極(アノード)に達します。一次電子1個当たりδ個の二次電子を放出し,これをn段繰り返すとδn倍の増倍率が得られます。少ない光量で最終的に大きな出力が得られるため,光電子増倍管の最大の特長は,他の光センサーでは得られない際立った高感度にあります。δを二次電子放出比と呼びます。電子を加速するために外部から高電圧(-HT)を印加しますが,二次することで増倍率を変えることができるのも光電子増倍管の特長です。光量が十分ある場合には,高電圧を小さくし,光量が減る場合には高電圧を大きくして使用します。スリットを切り替えたり,積分球などの極端に光量が減少する付属装置を使用したりする場合に,この光電子増倍管の特長が生きてきます。このため,光電子増倍管は,高いグレードの装置に使われています。

光電面の感度と入射光の波長との関係を分光感度特性といいます。分光感度特性は,主として光電面の材料により決まります。紫外可視領域に感度を持つマルチアルカリ光電面の分光感度特性の例を図4に示します。

図3 光電子増倍管の動作原理
図3 光電子増倍管の動作原理
図4 光電子増倍管の分光感度特性 2)
図4 光電子増倍管の分光感度特性2)

3. シリコンフォトダイオード

シリコンフォトダイオードは,光が当ることにより検出器自体の電気的性質が変化する現象,すなわち内部光電効果を利用した検出器です。シリコンフォトダイオードはその名のとおり半導体です。半導体に光を当てると,そのエネルギーが禁止帯の幅(バンドギャップ)よりも大きい場合に,価電子帯の電子が伝導帯に励起され,元の価電子帯には正孔が残ります。図5に示すようにこの電子-正孔対は半導体のいたるところでできますが,空乏層中では電界のため電子はN層へ,正孔はP層へ加速されます。これにより電子はN層に,正孔はP層に蓄積されそれぞれ正と負に帯電します。これを回路に接続すれば電流が流れるという仕組みです。

図5 シリコンフォトダイオードのエネルギーモデル
図5 シリコンフォトダイオードのエネルギーモデル

シリコンのバンドギャップは1.12eV程度なので,これを越える波長の光エネルギーがないと電流は流れません。従ってその限界波長は1100nm程度になります。シリコンフォトダイオードの分光感度特性の例を図6に示します。

シリコンフォトダイオードは,光電子増倍管と比較して,低価格,受光面における感度ムラが少ない,特別な電源を必要としない等の長所を持っています。感度面においても,光量が比較的大きい場合には,光電子増倍管と比べても遜色の無い測光データが得られます。しかしながら,光量が少ない場合には,電流を取り出す電子回路にて信号の増幅を行うため,増幅率を大きく取ると時間応答が遅くなります。

図6 シリコンフォトダイオードの分光感度特性 3)
図6 シリコンフォトダイオードの分光感度特性3)

4. InGaAsフォトダイオード

InGaAs(インジウムガリウムひ素)は化合物半導体です。InGaAsフォトダイオードはシリコンフォトダイオードと同様にPN接合を持つ光起電力素子ですが,Si(シリコン)と比べてバンドギャップのエネルギーが小さいのでより長い波長の光を吸収します。このためInGaAsフォトダイオードはシリコンフォトダイオードより長い波長に対して感度を持っています。InGaAsフォトダイオードの分光感度特性の例を図7に示します。

図7 InGaAsフォトダイオードの分光感度特性 3)
図7 InGaAsフォトダイオードの分光感度特性3)

5. PbS光導電素子

光導電素子は光の照射によって電気伝導度(抵抗)が変化する光導電現象を利用した光電変換素子です。動作原理を図8に示します。伝導帯と価電子帯との間のエネルギーギャップより大きいエネルギーを持つ光が入射すれば価電子帯の電子は伝導帯に励起され,その後に正孔ができます。PbS光導電素子では入射光量により抵抗が減少しますので,これを外部回路により信号として取り出します。

冷却して使用すると分光感度特性が長波長側にシフトするため,長波長側の感度が向上します。一方で応答速度が遅くなります。PbS光導電素子は他の近赤外検出素子に比べて室温で使用できるというメリットがあるのですが,それでも温度によって感度,応答速度,暗抵抗が変化するデリケートな素子です。図9にPbS光導電素子の分光感度特性を示します。

図8 光導電素子の動作原理
図8 光導電素子の動作原理
図9 PbS光導電素子の分光感度特性 3)
図9 PbS光導電素子の分光感度特性3)

6. おわりに

今回は,「光を電気信号に変換する」検出器について解説しました。
溶液試料を測定する場合には意識する必要はありませんが,ガラス板やレンズなど厚みをもった固体試料の透過測定を行うときに,試料の有無によって検出器に入射する光束形状が変化することがあります。この場合,検出器の検出面の感度むらによって測定誤差が生じます。この検出器の感度むらの影響をなくして測定を行うことができる積分球という付属装置があります。
次回は検出器の一部ともいえる積分球に関する解説を予定しています。引き続きご愛読くださいますよう,よろしくお願いいたします。

分析計測事業部 スペクトロビジネスユニット
大隅 太郎

1) 島津吸光分析講座 講義テキスト
  「分光光度計の原理・構造・応用」(島津製作所)
2) 浜松ホトニクス株式会社 光電子増倍管カタログ
3) 浜松ホトニクス株式会社 光半導体素子カタログ

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