固体試料の反射測定

紫外可視近赤外(UV-Vis-NIR) 分光光度計

紫外可視分光光度計は,溶液試料の測定だけでなく固体試料の透過測定や反射測定にも使われます。反射測定には相対反射測定と絶対反射測定があり,今回は主に相対反射測定について説明します。

 

1. 反射測定とは

 反射測定は,試料に光を照射し,試料で反射した光を測定する方法です。反射光には,鏡面反射光(正反射光)と拡散反射光があり,それらをあわせたものを全光線反射光(鏡面反射光+拡散反射光)と呼びます。それらを模式的に示すと図1のようになります。試料に照射する光を入射,光入射光の試料に対する角度を入射角といいます。図1ではθで表しています。

図1 反射光の種類
図1 反射光の種類

 鏡面反射光は,ミラーのような光沢のある面で反射する光で,入射角と同じ角度で反射する光のことです。拡散反射光は,紙や粉のような粗い面で反射する光で,四方八方に拡散する光のことです。また全光線反射光は,鏡面反射光と拡散反射光を合わせた光のことです。プラスチックや塗料のようにざらつきと光沢の両方を持つような試料では全光線反射光を測定することがよくあります。鏡面反射光を測定する方法を鏡面反射測定法,拡散反射光を測定する方法を拡散反射測定法,そして全光線反射光を測定する方法を全光線反射測定法と呼びます。

 反射測定には相対反射測定と絶対反射測定があり,測定値は反射率で表されます。相対反射測定では,硫酸バリウムやミラーなどを基準板として,基準板で反射した光の量に対する実試料で反射した光の量の比率で反射率を計算します。基準板での反射率を100%としたときの相対的な反射率が計算されます。基準板を別の基準板に代えたり,基準板が汚れたり変質したりすると,先の反射率とは異なる反射率が得られることがありますので,基準板の管理には注意が必要です。

相対反射率 計算式

 一方,絶対反射測定は硫酸バリウムやミラーのような基準板を使用せずに,光源からの光を直接測定した光の量に対する実試料で反射した光の量の比率で計算されます。空気を反射率100%としたときの反射率となります。絶対反射測定では絶対反射率という試料の真の反射率が得られます。

絶対反射率 計算式

反射測定は図2のように分類することができます。

図2 反射測定の分類
図2 反射測定の分類

2. 相対鏡面反射測定

 相対鏡面反射測定では,図3-1のように試料に光を照射し,照射された光と同じ角度で反射した鏡面反射光(正反射光)を測定します。この相対鏡面反射測定は,ミラーや金属面上の薄膜のような試料の測定に有効です。
 図3-2は相対鏡面反射測定に使用する鏡面反射測定装置です。本装置の入射角(図3-1のθの角度)は5度です。鏡面反射測定装置で測定する場合,基準板には標準で添付されたアルミ蒸着ミラーがよく使われます。試料は測定面を下向きに設置します。

図3-1 相対鏡面反射測定
図3-1 相対鏡面反射測定
図3-2 鏡面反射測定装置
図3-2 鏡面反射測定装置

 図3-3は鏡面反射測定装置を使用して,ウエハ上フォトレジスト膜の測定を行った結果です。使用したアルミ蒸着ミラーを基準とした場合の試料の相対反射率が得られました。
 なお,表面がざらついた試料から反射する拡散反射光はこの鏡面反射測定装置では測定できません。

図3-3 フォトレジスト膜の相対鏡面反射測定結果
図3-3 フォトレジスト膜の相対鏡面反射測定結果

3. 相対拡散反射測定

 相対拡散反射測定では,図4-1のように鏡面反射光を除いた拡散反射光を積分球を使って測定します。紙など表面が粗い試料を測定する際に用いられます。
 図4-2は相対拡散反射測定に使用する積分球付属装置です。積分球付属装置で測定する場合,基準板(標準白板とも呼ばれます)には硫酸バリウムやフッ素系特殊樹脂などを使います (注意1)

図4-1 相対拡散反射測定
図4-1 相対拡散反射測定
図4-2 積分球付属装置(ISR-2600 Plus)
図4-2 積分球付属装置(ISR-2600 Plus)

測定の模式図を図4-3に示します。測定手順は次のとおりです。

1.図4-3の積分球の(1)の位置に標準白板の硫酸バリウムなどを取り付けます。
ベースライン補正を実行します。測定光が標準白板に照射されます。

2.図4-3の(1)の位置の標準白板を取り外し,代わりに測定試料を取り付けます。
測定を行うと拡散反射率が得られます。鏡面反射光は測定光入口の積分球開口部から積分球外に反射されるために検出されません (注意2)

図4-3 相対拡散反射測定
図4-3 相対拡散反射測定

 上記の手順で拡散反射光が積分球で測定されます。図4-4は,硫酸バリウムを標準白板として,積分球を使用してプラスチック表面の相対拡散反射率を測定した結果です。

図4-4 プラスチックの相対拡散反射測定
図4-4 プラスチックの相対拡散反射測定

(注意1)
硫酸バリウムは水分を若干含んでいるため硫酸バリウムを標準白板として近赤外域の反射スペクトルを測定すると,データの1450 nm,1950 nm,2500nm付近に硫酸バリウム内の水分の吸収の影響が出ることがあります。一方,フッ素系特殊樹脂は水分を含まないため,水分の影響を受けることはありません。

(注意2)
図4-3における“対照光”は,光源の変動をリアルタイムに補正する役割を担っています。

4. 相対全光線反射測定

相対全光線反射測定では,図5-1のように鏡面反射光と拡散反射光の試料で反射した全ての光を測定します。表面がざらついている試料や光沢があるような試料に有効です。

図5-1 相対全光線反射測定
図5-1 相対全光線反射測定

 測定には積分球付属装置を使用します。相対全光線反射測定では,試料に対して約10度以下の入射角(当社積分球では8度)で光を照射し,拡散反射光だけでなく鏡面反射光も積分球で測定します。
 基準板には硫酸バリウムなどのような粗面の白板がよく使われますが,鏡面反射光を含まない相対拡散反射測定とは違い,基準板としてアルミ蒸着ミラーが使われることもあります(後述の[全光線反射測定における基準板に関する注意]参照)。

 測定の模式図を図5-2に示します。測定手順は次のとおりです。
1.測定条件設定において測定光と対照光の役割を逆転させます。
当社ソフトウェアでは「S/R切替」機能で「反転」に設定します。

2.図5-2の積分球の(2)の位置に標準白板を取り付けます。ベースライン補正を行います。測定光が標準白板に照射されます。

3.図5-2の(2)の位置の標準白板を取り外し,代わりに試料を取り付け測定します。当社の積分球では,光は入射角8度で試料に照射されます。

図5-2  相対全光線反射測定の測定手順
図5-2  相対全光線反射測定の測定手順

図5-3は,「3.相対拡散反射測定」で測定したプラスチックに対し,硫酸バリウムを基準板として相対全光線反射測定を行った結果です。
図5-4は,相対拡散反射スペクトルと相対全光線反射スペクトルとの比較です。相対全光線反射には鏡面反射成分が加わるので相対拡散反射よりも反射率が高くなっています。

図5-3 プラスチックの相対全光線反射測定
図5-3 プラスチックの相対全光線反射測定
図5-4 相対拡散反射測定(青線)と相対全光線反射測定(赤線)の比較
図5-4 相対拡散反射測定(青線)と
相対全光線反射測定(赤線)の比較

[全光線反射測定における基準板に関する注意]

 ベースライン補正時と試料測定時で積分球内の光の散乱状態をできる限り一致させるために,基準板として,鏡面反射が優勢な試料を測定する場合はアルミ蒸着ミラーなどのような表面が鏡面のものを,一方拡散反射の方が優勢な試料を測定する場合は硫酸バリウムなどのような表面が粗面のものを使用します。
 例えば,紙の全光線反射率を測定するとき,アルミ蒸着ミラーを基準板とすると,反射光が最初に積分球内に当たる位置が試料測定時とベースライン補正時で異なり,その後の光の散乱状態も試料測定時とベースライン補正時で異なるために,その差が測定値に付加されます(光の散乱状態の違いと積分球内面が完全には一様でないことによる影響が付加されます)。そのため測定結果は誤差を含んだものとなります。検出器切り替えのある装置では,切り替え波長で段差が生じる原因にもなります。
 一方,紙の測定で硫酸バリウムを基準板に使用すれば,反射光が最初に積分球内に当たる位置が試料測定時とベースライン補正時でほぼ同じになり,正しい相対反射率が得られます。
 鏡面(光沢)の優勢な金属板上の膜などの相対全光線反射測定を行う場合は,同様の考察からアルミ蒸着ミラーなどの鏡面の基準板を使う必要があります。
 以上が,「鏡面的な試料には鏡面的な基準板を使用し,拡散的な試料には拡散的な基準板を用いる」理由です。

5. まとめ

今回は,主に相対反射測定の原理,測定方法,注意点などを説明しました。反射測定は試料表面の状態や目的によって用いる方法も異なります。本解説を参考にしていただければ幸いです。反射測定では絶対反射測定も重要ですので,次回は絶対反射測定について説明します。

関連情報