紫外可視分光光度計におけるシングルモノクロメータ方式とダブルモノクロメータ方式の特徴

紫外可視分光光度計には,シングルモノクロメータ方式とダブルモノクロメータ方式の2種類の装置があります。シングルモノクロメータ方式は分光器を1つ備えた装置で,ダブルモノクロメータ方式は分光器を2つ備えた装置です。なぜこのようなタイプの異なる装置が存在するのでしょうか。本稿ではその理由を解説し,それぞれの装置の特徴について説明いたします。

 

1. モノクロメータとは

 光源からの単色の光を取り出す機構を“ モノクロメータ”または分光器といいます。分光器についてはUV TALK LETTER Vol.3でも解説していますのでご参照ください。単色の光を得るためには分散素子,一般的にプリズムもしくは回折格子を使用します。プリズムはガラス内に光を通し,光の波長によって屈折率が異なることを利用して分光します。回折格子の表面は刻線が等間隔に並んでおり,鋸歯状の各刻線にて反射した光が回折を起こすことにより分光します。図1ではプリズム方式と回折格子方式の分光器のイメージを示しています。

図1 分光器の原理
図1 分光器の原理

2. 迷光

 モノクロメータのスリットより取り出される単色光には,目的波長以外の波長もわずかですが含まれています。これを「迷光」といいます。例えば試料に照射する単色光の中に迷光が0.01%含まれている場合に,その波長での吸光度が3(透過率は0.1%)の吸収ピークがある試料を測定すると,透過光の0.1%に吸収されない迷光の0.01%が加わるので,結果として透過率は0.11%となります。吸光度に換算すると2.959と測定され,実際の吸光度よりも0.041低い値となります。図2は重クロム酸カリウムの吸光度を測定した例で実際に迷光が混入している場合には正しい吸光度より低い吸光度を示していることがわかります。

図2のような高い吸光度の試料を測定する場合は迷光の極めて少ない「ダブルモノクロメータ方式の分光光度計」を使用します。

図2 迷光の影響 重クロム酸カリウムを測定した例
図2 迷光の影響
重クロム酸カリウムを測定した例

3. シングルモノクロメータ方式とダブルモノクロメータ方式の構成

 下図3はシングルモノクロメータ方式とダブルモノクロメータ方式の構成の違いを示します。

図3 シングルモノクロメータ方式とダブルモノクロメータ方式の構成
図3 シングルモノクロメータ方式とダブルモノクロメータ方式の構成

 シングルモノクロメータ方式は分光器が一つなのに対してダブルモノクロメータ方式では分光器が二つ直列に配置され,第一分光器(上図の分光器1) で分光した光をさらに第二分光器(上図の分光器2) で分光して迷光を減らし高い純度の単色光を作り出します。

4. シングルモノクロメータ方式とダブルモノクロメータ方式の光学レイアウトと特徴

 図4に島津製作所製紫外可視分光光度計UV-2600 とUV-2700を例とした光学系統図を示します。

図4-1 シングルモノクロメータ方式 紫外可視分光光度計 UV-2600
図4-2 ダブルルモノクロメータ方式 紫外可視分光光度計 UV-2700

 

図4 分光光度計の光学系統図

 

4-1 シングルモノクロメータ方式の特徴

 シングルモノクロメータ方式はダブルモノクロメータ方式と比べて光学系が明るいという特徴があります。散乱性のある透過材料や反射材料のスペクトル計測を目的とする積分球付属装置を使用する場合や,光束を小さく絞る必要のある微小試料の計測など光量ロスの大きな測定に適しています。図5にシングルモノクロメータ方式に適した付属装置を紹介します。

図5-1 積分球付属装置ISR-2600
図5-2 微小試料ホルダ

 

図5 シングルモノクロメータ方式の分光光度計に適した付属装置

 

4-2 ダブルモノクロメータ方式の特徴

ダブルモノクロメータ方式はシングルモノクロメータ方式に比べ迷光量が極めて少ないため高い直線性を実現しています。光学フィルタなど低透過率材料や高濃度溶液試料の測定に適しています。図6に高吸光度試料の測定例を示します。ダブルモノクロメータ方式の島津製作所製紫外可視分光光度計UV-2700では8Absの吸収スペクトル計測が可能であることがわかります。

図6 高濃度の過マンガン酸カリウムを測定した例
図6 高濃度の過マンガン酸カリウムを測定した例

5. 最後に

 今回は,シングルモノクロメータ方式とダブルモノクロメータ方式の分光光度計についてそれぞれの特徴を解説しました。精度の高いスペクトル計測をしていただくために分光光度計の特徴を理解し試料の特性や計測目的に応じたご使用をお勧めいたします。