分光光度計を用いると単層の膜の厚さを容易に測定することができます。 ただし,測定可能な膜厚の範囲は0.3μm~60μm程度で,膜物質の屈折率が必要となります。 反射測定での原理を説明します。 膜に光がある角度で入射すると,図1に示すように膜の表面からの反射光Aと裏面からの反射光Bが干渉して,図2に示すような波打った干渉スペクトルが生じます。 ある波長範囲内における干渉スペクトルのピーク(山または谷)の数を数えることで(1)式から膜厚が算出できます。

干渉の原理
図1. 干渉の原理

ここで,dは膜の厚さ,Δmは計算波長範囲の間の山の数,nは屈折率,θは試料への入射角,λ1とλ2は計算波長範囲の始点と終点の波長です。 オプションとして販売されている膜厚測定ソフトウエアを使用すると,計算波長範囲と屈折率を設定するだけことで,図2のように簡単に膜厚を算出することができます( 図2では,Δm=4,n(屈折率)=1.65,θ(入射角)=5,λ 1 =800,λ 2 =559.8より(1)式を用いて算出)。 図2の「ピークSD 補足 」値は膜厚計算の確からしさ示す指標となるので,「ピークSD」値を目安に計算範囲を決めます。

島津膜厚ソフトウェアの再計算画面
図2 島津膜厚ソフトウェアの再計算画面

図3,図4に示すように,膜厚が薄いものほど波形の周期が長く,厚いものほど短くなります。

膜厚10μm(ポリ塩化ビニリデン膜)
図3 膜厚10μm(ポリ塩化ビニリデン膜)
膜厚46μm(ポリカーボネート膜)
図4 膜厚46μm(ポリカーボネート膜)

ウエハ上の膜など基板が不透明なサンプルの場合は,反射測定により膜厚を測定します。 また透明基板上の膜や膜単体を測定する場合は,透過測定でも膜厚が測定できます。
膜厚測定では,膜の表面がきれいな鏡面状態である必要があります。 表面がざらついているサンプルでは測定できませんので,ご注意ください。

同様の方法で,FTIRでも膜厚測定は可能です。 また,FTIRの場合,膜厚既知の標準試料があれば,膜によるピークの強度と膜厚との検量線を作成することで未知試料の膜厚を求めることも可能です。 高感度反射法では膜厚1μm以下の薄膜の測定も可能なため,より薄い薄膜の膜厚測定も可能です。


補足:ピークSDについて
計算範囲の中のピークの最長波長を山(谷)の数の基準として,横軸にΔm,各ピークと谷の波長の逆数を縦軸にをプロットすると,各点は理論的には一直線上に分布します。 実際には,ピーク波長は多少ばらつきますので,最小二乗法で直線をあてはめます。 このようにして求まった直線の傾きの逆数が(1)式の

に相当します。 単に2点の波長から膜厚を計算するよりも,より精度の高い計算結果が得られます。 SD値は,ピーク波長の逆数が,推定数値(この直線上の点)に対してどれだけ離れているかを示す標準偏差値の10 6 です。