気候変動対策を水田から~温室効果ガス3成分自動同時分析装置の開発から活用へ

今回のCustomer

須藤 重人(すどう しげと)グループ長

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
農業環境研究部門
気候変動緩和策研究領域
緩和技術体系化グループ

 

※掲載内容(所属団体,役職名等)は取材時のものです。

インタビュー

気候変動の要因とされる温室効果ガスの主なものとして、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)などがあります。温室効果ガス排出量で最も多いものは二酸化炭素で、その次に排出量が多いメタンは、単位あたりの温室効果が二酸化炭素の20倍以上あるといわれており、削減に向けた対応が必要です。2021年11月に開催された国連気候変動枠組条約第26回締結国会議(COP26)では、世界のメタン排出量を2030年までに2020年度比で30%削減する「グローバル・メタン・プレッジ」に、100を超える国や地域が参加を表明しています。世界のメタン発生源は牛のゲップなどに代表される家畜に由来するものだと言われていますが、日本では最大のメタン発生源は稲作です。
今回は、温室効果ガス3 成分(CO2、CH4、N2O)を自動かつ同時に測定できる分析計を開発され、水田からの気候変動対策を研究されている、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(以下、農研機構)の須藤重人先生にお話を伺いました。

 
研究内容についてお聞かせください。
 
 

大学時代は化学を専攻していたが、1990年の大学院進学時から大気化学を専門として、当時の環境問題で大きく取り上げられていたオゾンホールの原因について研究をしていました。N2Oの年代測定として、南極の氷の中に含まれている気泡からN2Oの濃度を抽出する分析手法に取り組んでいた時に、島津のGC14Aを使い始め、現在でも活用しています。博士論文のテーマが、臭化メチルという農業で使用される土壌の消毒剤であったことに加え、農業が多くの発生源となっているN2Oの両方を研究テーマとしていたことから、現在所属している農研機構(当時、農業環境技術研究所)からお声をかけていただきました。 

温室効果ガス3成分自動同時分析システム2号機

温室効果ガス3成分自動同時分析システムは、私が着任した1999年からスタートして頭の中で考えること丸5年、組み上げに約半年という歳月を要して、ガスクロマトグラフ(GC-14 B)2台を組み合わせた1号機が完成しました。完成までの約5年間で温暖化問題が深刻になり、より多くのサンプルを測ることが求められる状況になったことから、2005年後半に、オートサンプラ―(HSS2B)を改良した2号機が完成しました。1号機完成までの道のりは、すべて一人で手作業であったことから大変でしたが、完成後に特許を出願し、2号機からは島津製作所に特注で製作を依頼しました。

 

温室効果ガス3成分自動同時分析システム4号機

温室効果ガス3成分自動同時分析システムは、従来同時分析が不可能であった、CO2、CH4、N2Oを1回の試料注入で計測できるようになったことで分析誤差が低減され処理速度が速まるとともに、キャリヤーガス共通化により大幅なランニングコストの削減になったことなど大きなメリットがありました。
ガスクロマトグラフをGC-2014、オートサンプラ―をAOC-5000に変更した3号機を経て、2019年に完成した4号機では、2つの大改革を実施しています。1つ目は、キャリヤーガスを窒素に変更したことです。従来使用していたヘリウムガスは、供給減の影響を受け、2010年から入手困難となったことへの対応です。この変更は一筋縄ではいかず、開発に2年間かかりました。2つ目は、ガスクロマトグラフを同じ機能をもたせたまま2台から1台に減らしたことです。装置としてのスリム感が出たことに加え、費用についてもスリム化することができました。

 
 
 
温室効果ガス3成分自動同時分析システムの活用事例として、水田のメタン抑制の取り組みについて教えてください
 

日本のメタンの排出源の1番目は稲作です。温室効果が二酸化炭素の20倍以上といわれるメタンを減らすためには、日本人の主食である米を生産する水田で発生するメタン発生抑制が重要です。

農業に起因する温室効果ガスの発生メカニズム (出典 農研機構)

農研機構 構内の温室効果ガス発生制御施設

水田からメタンが発生する時期は地域差があるものの、6月中旬から下旬ごろのイネの分げつ期に、水田に水があるとメタン生成菌の活動が活発になり、その後8月頃には稲がストローの役割をして大気中に大量のメタンが発生します。メタン生成菌の活動を抑え、メタンの発生を抑えるためには、伝統的に稲作で行われていた稲の生育を調整し、根を健全に保つための水田から水を抜く、中干し期間の延長が有効だということがわかりました。農研機構からマニュアルを2012年に発行しており、各地の行政が発行する栽培指針の検討の参考としていただいています。
このメタン発生抑制のマニュアル作成に重要な役割を果たしたのは、ガスの自動採取から自動挿入、温室効果ガス3成分自動同時分析システムを活用することによる、温室効果ガスの濃度変化の把握です。システム開発による、迅速かつ高精度の分析技術は、日本のメタン発生抑制につながっています。また、稲作を行っているインドや東南アジアでも実証しており、日本だけでなく、世界の稲作におけるメタン抑制につなげていきたいと考えています。

ご使用いただいている装置についてのご感想や、当社への期待について教えてください。
 

島津製作所の分析装置は、これまで使い慣れており特徴を把握できていました。また、部品が安価で入手しやすく、カスタマイズしやすい環境と構造だと思います。温室効果ガス3成分自動同時分析システムの開発に着手した当初、最初の1号機は一人で作りました。2号機目からは、こちらの依頼にサービスの方がしっかりと対応していただき、現在は5号機を作っていただいているところです。
開発当初は誰にも信じてもらえなかったこのシステムでしたが、4号機目からは島津製作所と共同研究を進め、製品化され、さまざまなところで活躍しています。分析速度、精度、ランニングコストのいずれの面においてもメリットがあるこのシステムは、温室効果ガス分析のデータ収集において、今後さらに幅広く活用いただきたいと考えています。
気候変動問題への解決のための温室効果ガスの把握は大変重要です。私は、分析技術で日本がイニシアチブをとるべきという思いで、20年やってきました。島津製作所には、温暖化に立ち向かう分析のノウハウをもって、今後さらに世界で活躍していただきたいと思っています。

研究室では温室効果ガス3成分自動同時分析システム1~4号機のほか、ガスクロマトグラフなど多くの当社製品をご活用いただいています。さらなる貢献に向けて、今後も製品開発を進めてまいります。本日は、大変貴重なお話をありがとうございました。

 
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