3. カンチレバー
表面組成分析
3.1. カンチレバーとは?
カンチレバー(Cantilever)は片持ち梁状の消耗品で、一般的にシリコンやシリコン窒化物で作られています。三角形状や短冊形状の片持ち梁の先端に探針が一体で形成されています。図3-1にカンチレバーの構造を、図3-2に使用前のカンチレバーのSEM像を示します。ベースはおおよそ1.5mm×2.5mmで、交換の際にはベースをピンセットで挟んで取り扱います。レバーは長さが30~300 µm、厚さが5 µmであり、レバーの先端にある探針は長さが約3 µm、先端曲率半径は約10 nmです。
カンチレバーの種類は非常に豊富で、長さや厚みを変えた、より軟らかいカンチレバーや極限まで小さいカンチレバー、探針にCNT(カーボンナノチューブ)を使用したカンチレバーなどがあります。電磁気特性や耐久性を持たせるために、探針に磁性体や金属膜、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)などがコーティングされているものもあります。試料や測定用途に応じて使い分けることが重要です。
図3-1 カンチレバーの構造
図3-2 使用前のカンチレバーのSEM像
表3-1に代表的なカンチレバーの特性を示します。島津SPMでは、市販されているほとんどのカンチレバーは取り付けられますが、一部の例外的なものは取り付けられない場合があります。
表3-1 代表的なカンチレバーの特性
| コンタクトモード用 | ダイナミックモード用 | |
|---|---|---|
| 素材 | Si、SiN | |
| バネ定数[N/m] | 0.01~1 | 2~40 |
| 探針先端径[nm] | 20~25 | 10 |
| 共振周波数[kHz] | 10~70 | 70~300 |
| 背面コート | Al、Au、Pt:S/Nがよくなる | |
3.2. カンチレバーの交換時期
カンチレバーの先端にある探針は、走査を繰り返すことで徐々に劣化します。新品の探針では高い分解能を維持できますが、一般的には10~20視野の観察が限界とされています。それ以降は、探針先端が摩耗によって丸くなり、画像のシャープさが失われていきます。図3-3に劣化したカンチレバーのSEM像を示します。探針先端に付着物が存在する様子が見られます。
カンチレバーの劣化は画像で判断します。表3-2に劣化した探針で取得したAFM像を示します。探針先端の形状変化により、画像がぼやけたり、粒子が大きく見えたりします。この現象はアーティファクトと呼ばれ、探針の磨耗・破損・汚れなどが原因です。磨耗は走査中に徐々に進行し、探針先端径が大きくなる現象です。摩耗の進行具合は試料の性質(凹凸や硬さ)や走査条件(走査範囲・走査速度・試料への接触力・フィードバックゲイン)によって異なるため、カンチレバーの交換時期を使用時間だけで決めることはできません。探針の磨耗を防ぐには、走査速度を遅くしたり、試料への接触力を小さくしたり、フィードバックゲインを適切に設定することが重要です。通常とは異なる画像が得られたり、画像がぼやけたり、細かい構造が識別できなくなった場合にカンチレバーを交換します。島津SPM/AFMでは、カンチレバーを簡単・確実に取り付けられるカンチレバーマスターを使用すると便利です。
図3-3 劣化したカンチレバーのSEM像
表3-2 劣化した探針で取得したAFM像
| 劣化の種類 | AFM像 |
|---|---|
| 摩耗 |
標準試料:ニオブ蒸着粒子 ![]() 本来は(a)のように細長い粒子が観察されますが、摩耗した探針では(b)のように粒子がぼやけて大きく見えてしまっています。 |
| 破損 |
![]() 探針先端が破損した場合は、球形粒子を観察しても一定の向きの楕円や四角形、三角形に見えたり、形状が二重、三重に見えたりすることがあります。試料を回転させても常に同じ方向に現れます。 |
| 汚れ |
![]() 走査中に探針に汚れが付着することで、ぼやけた画像になっています。 |
3.3. カンチレバーの選び方
カンチレバーを選ぶ際にはその特性や測定試料、測定環境(大気中・液中など)に適したものを選ぶ必要があります。
以下に留意点を示します。
◆バネ定数
観察時の探針-試料間に働く力の大きさに影響します。バネ定数が大きくなると探針や試料にダメージを与えやすくなります。一般的にやわらかい試料にはバネ定数の小さいカンチレバー、硬い試料にはバネ定数の大きなカンチレバーが適しています。
◆共振周波数
ダイナミックモードでは共振周波数が重要です。高周波数のカンチレバーは、振動の安定性が高く精密な測定が可能です。
◆探針形状
探針先端径が小さいほど高い分解能が得られます。
◆コーティング材料
Si製のカンチレバーが一般的ですが、目的によって表面に異種材料をコーティングすることで、多様なモードに対応しています。
例えば、電流モードや表面電位モードなど電気的測定用のカンチレバーには金属コーティングが施され、磁気力モードでは磁性コーティングが施されています。


