内標準溶液添加の自動化
LCtalk79 号では,超高速LC“Nexera”用SIL-30AC オートサンプラの前処理機能を活用して,標準液や試料溶液を自動希釈調製することにより,絶対検量線法による定量分析を省力化した例をご紹介しました。
ここでは,SIL-30AC オートサンプラの前処理機能を活用した,内標準法における内標準溶液添加の自動化についてご紹介します。
内標準法とその自動化
内標準法では内標準物質(Internal Standard,IS と略)と分析種の相対比から定量を行うため,注入量の補正を行うことができます。また,それ以外にも,分析環境の変化(例えば,移動相流量,検出器の感度,試料溶媒の蒸発,移動相組成など)に対して補正を行うこともできます。なお,IS の選定には,以下のような要件があります。
- 試料中に含まれている他の成分ピークと完全に分離されていること
- 元々試料中に存在していないこと
- 分析種の近くに溶出すること
- 分析種と化学構造が類似していること(注入量補正が目的の場合は不要)
しかしながら,内標準法は予め試料にIS を添加する必要があるため,分析試料数が多い時には分析のハイスループット化に問題があります。このような場合,SIL-30AC オートサンプラの前処理機能を使えば,あらかじめIS を試料に添加しておく必要がなく,分析の直前に自動で添加できるようになります。
以下に,内標準法の「内標準同時注入」と「内標準混合/ 希釈注入」の2 つの手法についての事例を示します。
「内標準同時注入」の例
「内標準同時注入」は,IS 吸引後,そのまま続けて試料溶液を吸引し,両方をまとめてカラムへ導入する手法です。この方法の利点は,室温などの環境変動によるピーク面積の変動を補正することが可能な点です。
例えば,温度の影響を受けやすい分析種の場合,注入量が正しくても,室温変動に伴うピーク面積の変動により正確な濃度が求められません。このような時,IS を同時に注入,分析しておくと,分析種とIS の面積比から正確な濃度が算出できます※。
※ ただし,IS は分析種と同じ温度特性を持つ必要があります。
本手法におけるSIL-30AC の動作手順を,図1に示します。

本手法を用いた例として,分析種にエチルパラベン(50 mg/L,100 mg/L,200 mg/L,40mg/L),IS にメチルパラベン(40 mg/L)を用いて,6 回繰り返し再現性を調べました。分析条件を表1に,エチルパラベン濃度 100 mg/L による6 回繰り返し注入時のクロマトグラムを図2 に,再現性を表2 に示します。

(6 回繰り返しの重ねがきクロマトグラム)


「内標準混合/ 希釈注入」の事例
「内標準混合/ 希釈注入」は,IS 溶液と試料溶液を一度別のバイアルで混合するため,室温などの環境変動を補正できる上,注入量の誤差も補正可能です。
例えば,10 μL 注入したつもりが 9 μL しか注入できていなかった場合でも,IS と分析種の面積比は注入量にかかわらず一定ですので,濃度を正しく計算できます。
本手法におけるSIL-30AC の動作手順は,以下の通りです。(図3)
1) | IS 溶液を吸引する。 |
2) | 空気をはさむ。(任意) |
3) | 試料溶液を吸引する。 |
4) | 空バイアルに,IS 溶液および試料溶液を吐出する。 ※この時,希釈液(リンス液を使用)を同時に吐出しますので,希釈率を決めることができます。 |
5) | 混合(吸引・吐出動作) |
6) | カラムへ注入 |

本手法を用いた例として,「内標準同時注入」と同様,分析種にエチルパラベン(50 mg/L,100mg/L,200 mg/L,400 mg/L),IS にメチルパラベン(400 mg/L)を用いて,6 回繰り返し再現性を調べました。分析条件を表3 に,エチルパラベン濃度 100 mg/L による6 回繰り返し注入時のクロマトグラムを図4 に,再現性を表4 に示します。
なお,希釈率はIS 溶液および試料溶液とも10 倍としました。この時,希釈液は予めバイアルに用意するのではなく,SIL-30AC のリンス液のひとつを割り当てました。SIL-30AC では最大3 液のリンス液が使用できますので,希釈液以外の2 液でのリンスが可能です。

(6 回繰り返しの重ねがきクロマトグラム)


以上,SIL-30AC の自動前処理機能を活用して,内標準法における内標準溶液添加を自動化した例をご紹介しました。なお,これらの条件設定は,テンプレートを用いることにより簡単に行うことができます。