HPLCによる分析のプロセスは,試料調製,注入,分離,検出,データ処理,に分けることができます。定量誤差要因は,これら全ての段階に存在しうるわけですが,ここでは「試料調製時」について考えてみます。

標準溶液作製

 単純に考えがちですが,例えば表1のように注意すべきことが多くあります。

 この中で特に重要なものの一つに,(K)「目的成分の容器への吸着」があります。表2のような例があり,溶媒を選択して吸着の抑制を行うか,容器の素材を変更すべき場合があります。吸着は,溶液を希釈した際に検量線の直線性が得られない(あるいは原点を通らない)ことからも発見されます。

 また,(N)「目的成分の酸化・分解」も重要です。例えばアスコルビン酸は,溶存酸素や水溶液中の鉄(III)イオンなどにより容易に酸化され,時間と共に濃度が下がってしまいます。この場合,pHを下げる・鉄イオンをEDTA・2Naでマスクするなどの対処と,調製時の即時注入をおすすめします。なお,一般的に酸化・分解を抑制するために,還元剤添加・窒素置換・非水系溶媒の採用・褐色びんの使用・冷暗所保存などが行われます。酸化・分解は,試料溶液を複数回注入した際に面積値が減少することからも発見されます。

表1. 標準溶液作製
 
 
操
作
1) 標準物質の重さを量る
重さを量る
2) 溶媒を加えて溶液とする
溶液を作る
3) 保存する
保存する
誤
差
要
因
を
生
む
項
目
(A)秤の精度不足
(B)秤量操作ミス
(C)含有不純物
(D)水和物が不確定
(E)吸湿性
(F)器具の精度不足
(G)メスアップ操作ミス
(H)希釈操作ミス
(I)溶解度不足(温度変化も考慮する)
(J)溶液の不均一(濁り,ゆらぎ)
(K)目的成分の容器への吸着
(L)容器・雰囲気からの目的成分の混入(比較的特殊なケース)
(M)溶媒の蒸発
(N)目的成分の酸化・分解


表2. 目的成分の容器への吸着の可能性
材質 吸着しやすい成分の例 吸着抑制のための溶媒
ガラス 陽イオン(四級アンモニウム,金属イオン)
アミン・・・窒素孤立電子対の水素結合による
・pHを下げる
・過塩素酸イオンを添加する
・競合イオンを添加する
金属 陰イオン
キレート形成成分(α-ヒドロキシ酸,β-ジケトン,トロポロン)
・競合イオンを添加する
・pHを下げる (場合によって上げる)
・金属マスク剤を添加する
合成樹脂(ポリマー) 疎水性の高い成分 ・極性を下げる

 

実試料の前処理

 この操作では,さらに抽出回収率の問題が加わります。固-液抽出(含前処理カラム),液-液抽出などでは,高い回収率が得られなかったり,回収率が安定しないことがあります。また,除たんぱく操作の場合も,変性したたんぱくに目的成分が吸着して,回収率を低下させることがあります。

 通常,回収率は,試料に目的成分を添加して抽出することにより評価します。即ち,目的成分の添加量とクロマトグラム中のピーク面積増加量との関係が,目的成分溶液を抽出操作なしに注入したときと比べてどのように変化しているか調べます。

 回収率に問題があるとき,抽出方法を変えるか,内部標準物質を予め添加しておいた後に抽出するようにします。この場合の内部標準物質は,目的成分と化学構造が類似し,抽出効率が同程度である必要があります(LCtalk25号,p.5)。回収率が100%でなくても比較的安定していれば,本法による前処理がよく行われます。

 皆さんの行っている分析において,「特に注意しなければならない誤差要因は何か」「今,何か問題は生じていないか」を日頃から考え,精度の良い分析を行って下さい。

(Y.Eg)