粉博士のやさしい粉講座
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実践コース:測り方疑問解決編
比表面積/細孔分布測定装置
7 クリプトンガスによる低比表面積の測定
“低比表面積の測定には、窒素ガスよりもクリプトンガスが有効である”と言われています。ここでは、その理由と留意点について解説します。

◎定容法の装置の場合
吸着量が少ない場合は、吸着ガスの飽和蒸気圧の小さいものを使用するほうが測定感度が向上します。よく引用される、窒素ガスとクリプトンガスについてその比較をしてみますと、液体窒素温度での飽和蒸気圧は窒素ガスで760mmHg程度、クリプトンガスで2.5mmHg程度です。つまり約300倍異なります。

窒素ガスとクリプトンガスの分子占有面積は、液体窒素温度でそれぞれ、0.162nm2、0.210nm2程度です。飽和蒸気圧の差に比べるとその差はわずかですので、ほとんど同じであるとみなして以下の説明を行います。(もちろん実際の測定では、それぞれの分子占有面積を用いて比表面積の測定を行わなければなりません。)

閉じた系内に測定対象となる試料をおきます。例えば窒素ガス分子100,000個存在する雰囲気で、この試料はガス分子20個吸着できる能力があるとします。この説明では、分子占有面積がほとんど同じであるとみなしているので、クリプトンガスでも同じように20個吸着する能力があるとみなします。

つまり、窒素ガスの場合100,000個のガス分子の内、20個が吸着したか否かを検出しなければならないわけです。これに対して、クリプトンガスの場合は、同じ相対圧を与えるガスの分子の数は約300分の1ですから、系内にある100,000/300≒333個のガス分子の内、20個が吸着したか否かを検出することになります。閉じた系内に存在する分子の総数と測定対象となる試料に吸着する分子の数との比率を考えた場合に、どちらが安定した測定ができるかお分かりいただけると思います。

ただし、実際の装置では必ずしも上記のように感度が良くなるわけではありません。クリプトンガスを使用して低比表面積試料をうまく測定するためには
・低圧域を精度よく測定できる圧力トランスデューサ
・高真空ポンプ
等が必要になります。同じ装置で、ガスを換えたからといって、すぐそれが測定感度の向上に直結するわけではないのでご注意ください。

◎流動法の装置の場合
これも飽和蒸気圧の違いによるものですが、少し意味合いが異なります。通常、窒素/ヘリウムの混合ガス使用時は30%/70%の混合比(もしくは近い値)のものを使用します。これは、試料周りの大気圧雰囲気に対して窒素の分圧を30%近くに設定することで、相対圧0.3付近の圧力に調整していることになります。

クリプトンの場合は、ヘリウムとの混合比を0.1%/99.9%にして使用します。つまり大気圧x0.1%≒0.76mmHgの分圧ですから、飽和蒸気圧2.5mmHgとすれば概ね相対圧0.3になります。

クリプトンガスの場合、混合比を下げることが、流動法特有のノイズ成分(窒素とヘリウムの密度分布の差に起因するもの)を軽減する効果があります。このため、同じ装置であっても、クリプトンガスを使用するほうが測定感度が良くなります。

◎まとめ
測定対象の比表面積に関する情報がほとんどない場合、まず窒素ガスを用いて測定を行い、それがうまくいかない場合に、クリプトンガスなど他のガスの使用を考えるというのが、スタンスとして適当だと考えられます。
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