1 HPLC分析の概念

HPLCとはHigh Performance Liquid Chromatographyの略で、日本語では高速液体クロマトグラフと呼びます。なお、クロマトグラフィーは測定方法、クロマトグラムは測定結果、クロマトグラフは装置を指します。Tswettの実験で使用したオープンカラムは、技術の発展によって専用のカラムが開発されました。一定の速度でカラムに液体を送液するポンプも開発され、一つの分析システムとして高性能化したことで、High Performance Liquid Chromatography(HPLC)と表記されるようになりました。簡単にはLCと記載されることもあります。現在は、さらに高性能化が進み、高速分析が可能になったUltra high performance liquid chromatography(UHPLC)も用いられています。HPLCの分析対象は液体中に溶解している成分です。液体試料に溶解している化合物を分離し、どのような成分がどれくらい含まれているかを定性・定量分析することができます。図1に、HPLCの概念を示します。HPLCの分析で、液体試料内の成分を分離のために流す液体を移動相と呼びます。移動相は送液ポンプにより、カラム(固定相)から検出器へ一定速度で流れていきます。複数の成分が混合した試料をカラムに注入し、カラム内で分離します。カラム出口に設置した検出器でモニターし、成分を定性・定量分析します。

図1 HPLC分析の概念​

 
 

2 HPLCの装置構成

HPLCの概念(図1)ではHPLCの仕組みを模式図的に示しましたが、実際のHPLCは、送液ポンプ、脱気装置、試料導入装置、カラムオーブン、検出器およびデータ処理装置といった様々なコンポーネントで構成されています。図2にHPLCの装置構成の概略および各コンポーネントの役割を示します。​

図2 HPLCの装置構成

 

HPLCでは送液ポンプを用い、移動相を一定流量で送液します(a)。我々が生活している大気圧の条件下は移動相に気体が混入(溶存)しやすい環境です。気体が溶存した移動相を送液ポンプが吸引すると気泡が発生し、流量変動やベースラインのノイズ/ドリフトなどのトラブルが生じます。トラブルを防ぐため、送液ポンプの上流には脱気装置を設置します(b)。 溶存気体が除去された移動相はカラムに送液され、試料導入装置でカラムに導入します(c)。カラムでの成分分離は周囲の温度変化の影響を受けます。周囲の温度環境を一定にするため、カラムはカラムオーブン内で温調します(d)。カラムから溶出した成分は、カラム出口に設置した検出器でモニターします(e)。データ処理装置は、検出器から送られてくる信号を処理して、クロマトグラムを出力し、定性、定量のためのデータ処理を行います(f)。このような流れでHPLC分析の結果が得られます。

 

3 HPLCにおける分離メカニズム

HPLCの使用により、さまざまな成分が分離できるのは、各成分がカラム内を移動する速度が異なるためです。図3にHPLCにおける分離のメカニズムを示します。カラムの中では成分と移動相との相互作用(引き合う力)が強ければ、その成分は移動相の流れに乗ってカラムの中を速く移動し、早く溶出します。一方、固定相との相互作用が強ければ、移動相の流れに乗りにくいためカラムの中をゆっくり移動します。図3では、黄色の成分が移動相との相互作用が強く、早く分離・溶出され、ピンクの成分が固定相との相互作用が強く、遅く分離・溶出される、の例を示しています。このように、カラムの中を進む各成分の速度の違いがHPLCにおける分離のメカニズムです。​


図3 HPLCにおける分離のメカニズム

4 クロマトグラムの読み方

HPLCによる分離の結果を示すグラフをクロマトグラムといいます。図4にクロマトグラムの読み方を示します。カラムから何も溶出しないときには時間軸(横軸)と平行な直線が描かれます。これをベースラインと言います。カラムの中で相互作用をした成分が溶出すると、ベースラインの上に山のような盛り上がりが現れます。これがピークです。カラムに成分が留まることを保持と呼び、分析のスタート(試料をカラムに注入)からピーク頂点までの時間を保持時間(tR)といいます。カラム内で固定相と相互作用せず、カラムを素通りした時間を非保持の時間(t0)といいます。ピークの頂点から垂線を引いた時の距離をピーク高さ(h)、水色に塗りつぶされた部分の面積をピーク面積(A)といいます。これらの結果を用いて、試料成分の定性および定量に用います。

図4 クロマトグラムの読み方