vol.48 NOW 「リン脂質カラムの機能について」

NOWのご執筆
上森 浩 先生

2002年10月 発行
上森 浩 先生

塩野義製薬株式会社 新薬研究所 主任研究員

(ご所属・役職は2002年10月発行時)

 生体内における分子間相互作用を模擬した機能を有する分離用担体を創製し,クロマトグラフィーを用いる分離分析に利用できれば,生体内における分子認識能や相互作用に基づく有機化合物の分離が達成できるほか,分子間の相互作用の大きさに直接関連する有用な情報を提供できる。 生体内分子を固定相リガンドとするクロマトグラフィー用分離担体を創製すれば,分離担体に対する溶質の保持力などからリガンド分子との相互作用が簡便に評価できると考える。

 筆者らはリガンド分子に生体膜の主構成成分であるリン脂質を用いた分離用担体を創製し,脂質膜モデルとして利用することを考えた。 本分離用担体は市販の高速液体クロマトグラフィー (HPLC) 用分離カラムであるオクタデシルシリカ充てんカラム (ODSカラム) を基材に使用し,充てん剤表面にコリンリン脂質でコーティングしたカラム (リン脂質カラム) である。
 本カラムの調製法は充てん剤とリガンドを化学結合させることなく,リガンドを含む溶液をHPLCの移動相送液用ポンプなどを用いて,in situ でODSカラムに通液してリガンドを担持させる簡便な方法である。 リガンドのコーティングはリン脂質のアルキル側鎖と充てん剤のオクタデシル基間の疎水的相互作用により可能となり,リン脂質の極性基を固定相表面に露出した擬似脂質膜二分子構造を形成していると考える。
 リン脂質カラムでは,中性緩衝液条件下でのβ-ブロッカーなど12種類の薬物の保持比 (k) が薬物のリポソームへの分配係数 (K'm) との間に良好な相関性を示すことを見出した (図1)。 本結果から,リン脂質カラムが薬物の脂質膜への親和性を簡便に評価できるリポソーム様分配機能を有することがわかった。

図 1
図 1
k;中性緩衝液条件下でのβ-ブロッカーなど12種類の薬物の保持比

K'm:薬物のリポソームへの分配係数

 

 脂質—たん白質相互作用はタンパク質が機能を発揮するための不可欠な要素であり,脂質二分子膜は膜結合型酵素の高次構造形成と反応場の提供に必須の役割を果たすと考られている。
 次に,リン脂質カラムに酵素を担持させたカラムを作製し,酵素反応を発現できる酵素リアクターの開発・評価を試みた。 膜結合型酵素であるシトクロムcを同様のコーティング手法でリン脂質カラム上に担持させたカラムでは,過酸化水素の存在下でDihydrocodeineの脱メチル化反応を触媒し,Dihydronorcodeineを生成することを見出した。 さらに,本カラムでは酵素反応を触媒すると同時に,基質と生成物を良好に分離・検出できた (図2)。

図 2a 図 2b
図 2

 

リン脂質カラムのリポソーム様分配機能及び酵素担持機能について紹介した。 本カラムは脂質膜モデルとして利用可能であり,作製法が簡便なことに加え,HPLCカラムとして利用できることから,薬物の脂質膜に対する親和性,すなわち脂溶性評価の迅速化に役立つと考える。

ODS充てん剤を基材としたコーティングカラム作製技術は,リガンドと充てん剤との間に適度な疎水的相互作用を有していれば容易に調製することができ,生理的条件下で十分に安定な分析・評価ができる。 また,本技術は標的物質をリガンドにして,目的化合物との相互作用を迅速に評価できるテーラーメイドなカラム創製のひとつとして有用であろう。

参考文献
1) H. Kamimori and M. Konishi, Anal. Sci., 17, 1085-1089 (2001).
2) H. Kamimori and M. Konishi, Biomed. Chromatogr., 16, 61-67 (2002).

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