前項では移動層の脱気方法別に特徴や用途を紹介しましたが,次は分析条件別に考えてみましょう。 一般的に,通常感度の分析に対しては,5-1)加温かくはん(1)と5-6移動相上置きで充分である場合が多いのですが,検出条件が異なったり高感度ベースラインの安定性が要求されると,オンライン脱気が必要であったり,脱気以外に留意すべきことも多くなります。

 
 
 

6-1)逆相カラム-UV短波長高感度ベースラインを得るために

ODSなど逆相カラムとUV検出器の組み合わせは,HPLC分析の中で最もポピュラーなものですが,短波長で高感度検出を行うとなると,次の点に留意しなければなりません。

(1)HPLC流路・カラムの充分な洗浄を行う
移動相で一日洗浄している,というのは時間の無駄です。 有効な洗浄法は,洗浄したい成分に対して移動相よりも溶出力が強い洗浄液を流すことです。 例えば,油汚れや疎水性の高い中性成分に対してはテトラヒドロフランなどを流す,シリカゲル表面への吸着成分に対してはメタノール/0.5M過塩素酸ナトリウムを含む0.01%りん酸水1/4を流す,金属イオンに対しては0.1%EDTA・2Na水を流す(カラムを除く),などです。 (LCtalk特集号IV P17参考) インジェクタを含めた流路切替えバルブ類は,数回別のポジションに切り替えながら洗浄します。 サクションフィルタも本誌P9を参考にして洗浄して下さい。 
なお,流路・カラムの洗浄は,他の高感度分析に置いても同様に留意すべきことです。 
(2)移動相のバックグランドが低い試薬を用いる
図41~43に,逆相カラムの移動相としてよく使われるアセトニトリル,メタノール,THF試薬の吸収スペクトルを示します。 LC用のアセトニトリルが短波長でのバックグランドが最も低いことが分かります。 一方メタノールやTHF試薬は,バックグランドが高いのでノイズが大きくなる上,溶解している酸素量の変動によりバックグランドが変化するため,高感度分析には不適切です。 溶媒の種類によって分離の選択性やピーク形状が変わることがありますが,支障が少なければ,LC用アセトニトリルを利用すべきです。 
また,緩衝液に酢酸などの有機酸系を用いたり,吸着抑制剤としてトリエチルアミンなどのアミン系を用いると短波長でのバックグランドが高くなります。 りん酸ナトリウム系(吸着抑制剤は過塩素酸ナトリウムなど)を用いて,できるだけリフレッシュに調製しましょう。 もちろん水は,LC用蒸留水を利用しましょう。 
(3)高感度検出器を用いる
当然のことですが,市販のLC用検出器の中でできるだけノイズレベルの低いものを用います。 
(4)オンライン脱気を行う
LC用アセトニトリルを用いても,密閉加圧型のHeパージなどオンライン脱気を行うことによるバックグランド低下がわずかに認められます。 
以上,重要度の順に,4点のみ取り上げてみました。 実際は多くの場合,(1)と(2)が適切な条件を満たしていないのではと思われます。 分析条件も,洗い直してみて下さい。 
(それぞれ空気飽和・リファレンスはLC用蒸留水)
アセトニトリル試薬の吸収スペクトル
図41 アセトニトリル試薬の吸収スペクトル
メタノール試薬の吸収スペクトル
図42 メタノール試薬の吸収スペクトル
図43 テトラヒドロフランの(THF)試薬の吸収スペクトル
 

6-2)糖分析カラム-屈折計で高感度ベースラインを得るために

UV検出が広く用いられる中で,糖分析やGPC(SEC=サイズ排除クロマトグラフィー)は基本的に屈折計による検出が行われています。 一般に屈折計は,ベースライン安定性が悪いもの,と決めつけられがちですが,実は真犯人は移動相中の容存空気やカラム温度変化であることが多いのです。 

i)配位子交換カラム(Shim-Pack SCR-101Pなど)
この種のカラムは,シャープなピークを得るために分析カラム温度を80℃付近に設定します。 従って,移動相ビン中で空気が飽和溶解量であっても,カラム出口及びその下流では気泡が発生しやすくなります。 このとき,(1)あらかじめオンライン脱気を行って容存する空気量を減らしておくか,(2)背圧をかけて気泡発生を抑制します。 ところが,(2)について言えば屈折計自体にあまり背圧をかけることができません。 水を0.8mL/minで送液している時は,0.3mmL.D.×50cm(約0.04MPa,0.4kgcm-2)くらいを限度に考えて下さい(目詰まり無し・サンプルセルのみ通液時が前提)。 そこで,屈折計の前に抵抗管を入れます。 図44のように,カラムオーブン出口-屈折計入口間に0.2mL.D×50cmの空冷管(水冷にしてもよい)を入れ,圧力が少しかかった状態で冷やすことにより気泡発生を抑制することができます。 

典型的な分析条件を以下に示します。 
カラム:Shim-pack SCR-101P(7.9mmL.D.×300mmL.)
移動相:水
流量:0.8mL/min
カラム温度:80℃
検出:示差屈折計 RID-6A(温調ON,感度2×10-6RIUFS)

なお,移動相が水のみの場合は,容存する空気量変動による屈折率変化への影響はあまり大きくないため,セル中で気泡発生しなければ厳密な脱気でなくても前述の感度で使えます。 
ii)順相カラム(Shim-pack CLC-NH2など)
典型的な分析条件を以下に示します。 
カラム:Shim-pack CLC-NH2(6mmL.D×150mmL.)
移動相:アセトニトリル/水=7/3
流量:1.2mL/min
カラム温度:室温
検出:示差屈折計 RID-6A(温調ON,感度8×10-6RIUFS)

この条件で注意すべきことは,移動相調製です。 グラジエントのシステムでアセトニトリルと水の混合比を設定して相益するのは不適切で,5-1)項の加温かくはん(1)が必要です。 分析中にオンライン脱気をする場合は,密閉加圧型のHeパージを用いるべきです。 できれば一定温度に保つことが望まれます。 恒温室では2×10-6RIUFSでの分析が可能となります。 
次にカラムの保温(正確には微少温度変化緩衝)です。 室内の風の動きで微妙にカラム温度が変化します。 このため,-NH2基まわりの水層の厚さが変わり,カラム溶出液のアセトニトリル/水の比率が変動します。 そこで,カラムに直接風が当たらないように,エアキャップを3重に巻く(図45)などして,温度変化を緩衝します。 
なお,カラムオーブンONの状態でも,カラムの設置位置等によりファン風の強弱変化を受けることがありますし,また逆相カラムでも同様の現象が生じます。 
カラムオーブン出口-屈折計入口間の空冷管設置例
図44 カラムオーブン出口-屈折計入口間の空冷管設置例
エアキャップを巻いた分析カラム
図45 エアキャップを巻いた分析カラム

* 本ページはLCtalk特集号5(1991年)をhtml化して一部修正を加えたものです。
従って,最新の装置情報・技術情報とは一致していない所があります。